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1999/05/25 読売新聞朝刊
[社説]指針法で日米安保が活性化する
 
 装置や枠組みは、それを円滑に作動させる“ソフトウエア”があってこそ、本来の力や機能を発揮する。日米安保条約と新たな「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)も、この関係にある。
 その「指針」を、法的に裏打ちするガイドライン関連法が成立した。
 三年前の「日米安保共同宣言」がめざした安保再確認の一つの到達点である。日米同盟に新たな活力を吹き込むという重要な意義を持っている。二十一世紀に向けて、日本や周辺地域の平和を確保するうえで不可欠な立法といえる。
◆平和と安定の確保に不可欠
 中心である周辺事態法は、日本周辺での有事が発生した際に行う、米軍への後方地域支援活動や、その実施手続きなどが盛り込まれている。在外邦人などの救出・輸送に自衛隊の艦船も使えるよう、自衛隊法も改正された。
 日米物品役務相互提供協定(ACSA)の改正は、米軍と自衛隊の間の食糧や燃料の供与を平時だけでなく、有事の際も可能にする内容だ。
 冷戦後も世界には不安定要因が多い。宗教・民族対立が原因の地域紛争や、大量破壊兵器の拡散などは、国際社会にとって重大な問題だ。アジア・太平洋地域も例外ではない。とりわけ北朝鮮の核疑惑、新型弾道ミサイル「テポドン」の発射などは、極めて深刻な脅威となっている。
 そうした中で日米安保を、この地域の最も有力な安定装置として機能させようというのが、安保再確認の狙いだ。
 もちろん危機や脅威を未然に防止するには、外交的な努力も必要だ。安保共同宣言も、ASEAN地域フォーラム(ARF)に代表される多国間安保対話の仕組みを、さらに発展させる重要性を指摘している。だがARFなどは、まだ日米安保の補完的な役割さえ果たせない段階だ。
 有事を抑止し、平和と安定を守る主軸は、やはり日米安保に置くべきであり、その実効性を高めるのがガイドラインだ。
◆「船舶検査」立法は早急に
 自民、自由、公明三党による修正協議で、「船舶検査」に関する条項が法案から削除された。三党は周辺事態法とは別に、船舶検査に限った立法を今国会中に行いたいとしている。だが、警告射撃の扱いなどをめぐる自由、公明両党の対立が解けず、具体的見通しが立っていない。
 このままでは「画竜(がりょう)点睛(てんせい)を欠く」の感を免れまい。米側も実効性の観点から、不満を示している。三党は早急に法案をまとめ、会期中に成立させる責任がある。
 ガイドライン関連法について、アジアのほとんどの国が、その効果を期待している。ただ、中国だけは「周辺事態の地理的範囲に台湾が含まれているのでないか」と警戒の姿勢を崩さず、台湾の除外を明言するよう日本側に求めている。
 しかし、地理的な線引きを明確にすれば、安保の抑止力を減じる恐れがある。「戦略的あいまいさ」はやはり必要だ。中国側の言い分を認めることは、安全保障のイロハを無視することになる。
 「村山首相(当時)が日米安保条約は大事なものであり、自衛隊は違憲でないと言ったことで、今日のような有事法制論議ができるようになった」
 宮沢蔵相は国会答弁で、こう述懐している。法案審議では、こうした変化をうかがわせるような、地に足のついた建設的な安保論議が従来よりは確かに目についた。
◆日本有事の法制整備を急げ
 だが、法律や字句の解釈論や「戦争巻き込まれ」論が、相変わらず幅を利かせているのも事実だ。
 何もせず、「平和」を唱えていさえすれば日本は安全だ――というのは、かつて一部の野党や「平和勢力」を自称するグループに見られた考え方だ。しかし、今でもそれを信じている国民は極めて少ない。
 平和な時にこそ、万一の事態に備え法制と体制を整えておくことが、独立国家としての最低限の責務である。
 ガイドライン関連法が成立した今、ただちに着手すべきは、外部からの侵略に備えると同時に、抑止の効果も期待できる、いわゆる日本有事法制の整備だ。
 本来なら、周辺事態に関する法制よりも、こちらを先に行うのが筋なのだが、実際の作業は遅々として進んでいない。防衛庁・自衛隊からは、「今のままで日本有事を迎えたら、自衛隊の活動はほとんどが超法規的にならざるをえない」と懸念する声が上がっている。
 先の北朝鮮工作船事件は、日本の防衛法制が抱えている欠陥を白日の下にさらけ出した。この反省に立てば、「平時の有事法制」ともいうべき、有効な領域警備などを可能にする法制の整備が欠かせない。自衛隊の武器使用規定の見直しも急務だ。
 こうした問題意識から、読売新聞社は今月初め、領域警備に関する緊急提言を行った。国会レベルでも、この問題に積極的に取り組んでほしい。
 これまでの日本の安保・防衛政策は、戦車やミサイルなど自衛隊の武器・装備の充実にウエートが置かれてきたきらいがある。防衛力の整備自体は、もちろん必要なことなのだが、一方で、防衛法制が不備のまま放置されてきた。
 イデオロギー対立を背景にした不毛の安保論議や、五五年体制下の国会対策重視の姿勢が背景にある。
 その結果、先進の装備を持った自衛隊や、日米安保という世界に誇り得る同盟関係が有する平和維持の能力を、十分に引き出せずに来たことは間違いない。
◆憲法次元の見直しも必要
 スキのない防衛体制を形づくるには、装備だけでなく法制にも万全を期さなければならない。
 憲法次元で言えば、従来の政府見解を改め、集団的自衛権の行使を可能にすることが必要だ。現憲法が自衛隊をきちんと位置付けていないことが、安保論議をゆがんだものにしている事実を考えれば、憲法の見直しも当然、必要になってくる。
 ガイドライン関連法の成立で、防衛法制の問題点を洗い出し、改革していく作業に弾みをつけたい。
 
 
 
 
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