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1999/04/27 読売新聞朝刊
[社説]実効ある「船舶検査」立法を急げ
 
 日米防衛協力の指針(ガイドライン)関連法案が、衆院特別委員会で一部修正のうえ可決された。二十七日には衆院本会議で可決される見通しで、五月中の法案成立はほぼ確実となった。
 国会提出から一年も過ぎている。それがようやく成立のメドがついたこと自体は、前進である。
 だが、自民、自由、公明三党による協議の結果、自衛隊の活動から「船舶検査」が削除された。ガイドラインの機能を損ないかねない修正だ。極めて残念である。
 アジア・太平洋地域の有力な安定装置である日米安保体制を、緊急事態に円滑に機能させるのがガイドラインである。そしてそれを法的に裏打ちするのが、この関連法案の目的だ。
 当然のことながら、求められるのは、危機に即応できる仕組みを、平時からきちんと準備しておくことだ。特に、政府案に盛り込まれた「米軍への後方地域支援」「後方地域での遭難者の捜索救助活動」「経済制裁に伴う船舶検査」の自衛隊による三活動は、法案の根幹部分に属する。
 この観点に立てば、「船舶検査」の削除は対米支援に重大な支障をきたし、結果的に日米安保の信頼性を低下させる恐れがあると言わざるをえない。
 にもかかわらず削除に踏み切ったのは、自由、公明両党間の対立が解けず、最後は双方の顔を立てる“痛み分け”の形をとったからだ。安保政策の持つ重要性を忘れた国会対策優先の手法と言える。
 三党は「船舶検査」を、今国会中に別の立法で手当てする方針だという。ガイドライン関連法案を欠陥法にしないためには、早急に立法を実現すべきだ。その際、武器使用の基準を国際標準に準拠するように変えるなど、真に実効性のある内容にすることも大事なポイントだ。
 修正協議のもう一つの焦点は、米軍への後方地域支援などを盛り込んだ基本計画への国会関与のあり方だった。私たちは迅速対応の観点から、政府案通り「国会への報告」か、最悪でも「国会の事後承認」にとどめるべきだと主張してきた。
 修正協議の結果は、基本計画のうち後方地域支援と捜索救助活動は、「事前承認が原則。緊急時は事後承認」となった。決して好ましい内容とは言えないが、「事後承認」が認められたことは、辛うじて実効性を保ったと見ることもできる。
 今回の法案修正をめぐる政党間協議は、ほとんど水面下で、しかも複数のルートで進められた。協議の方向も、「船舶検査」条項を削除するという異例の展開となるなど、二転三転した。
 これに「自自」か「自公民」かといった政治路線の対立も複雑に絡み、わかりにくい修正劇に終始した。
 政治的な折衝だからある程度やむをえない面があるにせよ、安全保障という国の存立にかかわる政策での政党間協議は、できる限りオープンな形で行うのが筋だ。国益最優先という基本を忘れた政略的な思惑による議論も許されない。
 
 
 
 
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