日本財団 図書館


1998/02/27 読売新聞朝刊
[社説]PKO法改正は待ったなしだ
 
 国連平和維持活動(PKO)協力法改正案をめぐる連立与党内の調整が、ようやく始まった。政府・自民党は三月中旬までに法案を国会に提出し、会期中の成立をめざす方針だ。
 日本が国際社会での責務を着実に果たしていくために欠かせない法改正だ。一日も早い実現を期待したい。
 改正法案の内容は、一昨年の秋にまとまり、いつでも国会に提出できるように準備が整っている。にもかかわらず、これまで一年半もの間、連立与党はこの問題についての実質的な論議を避け、政府も国会提出を先送りしてきた。
 社民党の反対で連立の枠組みに亀裂が生じるのを恐れたためだ。重要政策の果敢な実行や懸案の処理よりも、政権維持を優先する姿勢が目立つ自社さ連立の無責任ぶりを象徴している。
 改正の大きな柱は、現行では使用が隊員個人の判断にゆだねられている自己防衛のための携行武器を、部隊指揮官など上官の命令でも使用できるようにすることだ。
 「個人判断による武器使用」についてはPKOに派遣された自衛隊員らから、「武器使用の正当性の判断がむずかしく、個々の隊員の精神的な負担が大きい」などの問題点が指摘されている。
 「上官命令による使用」は、国際常識ともいうべき「部隊使用」を事実上、可能にするものだ。日本のPKO協力の質を高める措置と言える。
 改正法案には、国連以外の国際機関が行う選挙監視活動にも平和協力隊の資格で要員を派遣できることや、難民に対する食料支援など人道的な救援活動に限って、PKO参加五原則の一つである停戦合意がなくても参加できることも盛り込まれる。
 どちらも、PKO協力の幅を広げるものとして評価できる。
 問題は、社民党内に「部隊使用は国際紛争を解決する手段としての武力行使を禁じた憲法に抵触する恐れがある」などとして反対する声が依然、少なくないことだ。
 しかし、平和維持が目的であるPKO部隊での武器使用を「国際紛争解決のための武力行使」に結び付けるには、どうしても無理がある。今夏の参院選をにらんで“社民党らしさ”を出したいとの思惑も見え隠れする。党利党略を離れてPKOの本質を見据えた議論をしてほしい。
 自民党内には「与党間の調整がつかなくても、今国会に提出すべきだ」との意見が強まっている。当然だろう。
 現行法では、PKOの本体である平和維持隊(PKF)への参加が凍結されたままだ。本来なら早急に、この部分の解除にも踏み切るべきだ。それを棚上げにしているばかりか、今回の法改正をまた先送りするような事態になれば、日本の姿勢が国際社会で問われかねない。
 野党でも自由党や新党友愛は、基本的に今回の改正に賛成の方向だ。日本のPKO協力をあるべき姿に近づけるためには、与野党の枠を超えて積極的に協力することも検討すべきだ。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION