1998/04/07 読売新聞朝刊
防衛協力指針周辺事態法案の骨格 文民統制貫く 自衛隊活動、内容・範囲を明示
◆PKO法とも整合図る
政府が六日、骨格を固めた新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法案は、結果的に、周辺事態の概念を一本の柱として整理し、アジア太平洋地域における新たな日米防衛協力体制の確立を目指した新指針の理念を色濃く反映する枠組みとなった。しかし、周辺事態の定義そのものは依然としてあいまいな部分が多く、国会で詰めた議論が必要だ。
(政治部 飯塚恵子、本文記事1面)
当初、外務省内には「法律で活動内容を極力縛らず、米に対する協力活動のフリーハンドを保つ」「中国との無用な摩擦を避ける」「周辺事態に限定せず、グローバルな範囲にする」といった対米、対中、対国連といった対外的な思惑が強く、「できるだけ小規模に個別法改正で」(外務省筋)とする意見が強かった。
また、景気問題などで政権基盤が揺れる首相官邸からも、社民党を刺激しないよう同様の意向が示され、「自衛隊活動の根拠を明確にしてほしい」などと主張する防衛庁の主張とぶつかり、政府内調整は年末年始にかけ、一時難航した。
しかし、自民党内で「このままでは、米側からの信頼が損なわれる」(宮下創平・安全保障調査会長)などと憂慮する声が起き、法案策定作業は自民党主導の形で二月から一気に動き出した。
こうした作業の過程では、自衛隊にとって周辺事態が国外での新たな活動の拡大になることから、内閣法制局を中心に、活動内容と範囲を明確に定義し、それに基づき自衛隊が動くというシビリアンコントロール(文民統制)の原則を優先する基本方針が貫かれた。輸送、補給など後方支援活動のほか、臨検や米兵の捜索・救難まで、新規の「周辺事態法案」に取り込んだのはそのためだ。
さらに、自衛隊の海外派遣のモデルともいえる国連平和維持活動(PKO)協力法との整合性も重視され、結果的に国会報告も盛り込まれる内容となった。
しかし、政府・自民党内には依然、「あまり構えを大きくすると法案が通りにくくなる」(山崎政調会長)との懸念も示されている。
橋本首相が先月五日、外務省幹部らに「日米安保条約の枠をはみ出すような印象にしないでほしい」とあえてクギを刺したのもそのためだ。確かに、新法をめぐる議論では、武器使用や武器輸送の問題、米軍機の発進前の燃料補給と事前協議の問題など、社民党との調整の難航が必至の活動が山積している。
また、周辺事態の定義は、指針のままの「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」となる見通しで、地理的範囲など依然として不明確な点は残る。
政府は今月末の法案の国会提出を目指しているが、「今国会での成立まではとても望めない」(自民党筋)のも実情だ。
ガイドライン関連法制は七月の参院選の争点になる可能性もあり、今後の日米安保体制の在り方を考える新たなきっかけとなるともいえる。
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