1995/12/01 読売新聞朝刊
[新防衛計画の視点](2)コンパクト化 装備削減、戦力は維持(連載)
◆駐屯地統廃合、地元は不満
「血のにじむような苦しい選択もあった」
新防衛大綱が閣議決定された十一月二十八日深夜。策定に自らもかかわった西元徹也統合幕僚会議議長は、自衛隊制服組トップとしての思いをこんな言葉に凝縮させた。
今日の防衛力が、長い歳月をかけ積み上げてきたものであることは、西元議長がだれよりもよく知っている。その苦労の結晶を我が手でそぎ落とすのに、苦渋を感じないはずがない。
新大綱は、自衛隊に初めて「軍縮」を求めている点に最大の特徴がある。
戦車三百両減、護衛艦十隻減、対潜哨戒機など海上作戦用航空機五十機減、戦闘機五十機減――。主要装備の数を記した新旧別表を比較すれば、削減規模は浮かび出る。それがそのまま現実味を帯びるなら、自衛隊には本当に血を流す覚悟が必要だろう。しかし、この削減には「裏」がある。
例えば戦車。数が減るのは、ハイテク機種の導入によって予算が圧迫されるためだ。その最新タイプ、90式戦車は、乗員は旧タイプの74式や61式より一人少ない三人だが、戦闘力は二倍近くにアップする。
防衛庁は、数は減っても戦力は落ちないという意味で「コンパクト化」などと呼んでいる。
「コンパクト化」の一番の目玉は、陸上自衛官の定員大幅削減だ。現行大綱による定員は十八万人。それが新大綱では、常備定員十四万五千人とされた。三万五千人の削減である。
しかし現在も、陸上自衛隊の実人員は十五万一千人しかいない。定員割れは陸自がずっと抱えてきた問題であり、今回の定員削減は、体に合った服への仕立て直しと言えないこともない。
さらに新大綱では、有事の際、戦闘部隊に組み込むことを想定した「即応予備自衛官」制度が新設された。退職自衛官で構成され、年に一か月の訓練が義務づけられているが、不況下の企業状況などを考慮すれば、確保は可能というのが防衛庁の判断だ。
この即応予備自衛官一万五千人を定員に加えれば、実質的な人員は現状を上回ることになる。
一方、定員を満たして部隊の運用効率を高めようと、師団(六千―九千人)の一部は旅団(三千―四千人)に変える方針。それは駐屯地などの統廃合につながる。
これに対し、駐屯地を抱える地元では、存続を求める運動がかつてない高まりを見せ、防衛庁には、二個師団が旅団化される北海道をはじめ、全国からの陳情が相次いでいる。
新大綱が決まった二十八日も、旅団化対象の第五師団の普通科連隊が駐屯する北海道美幌町から、大上重文町長と婦人会のメンバーらが陸上幕僚監部を訪れ、「部隊強化」を訴えた。
「部隊には若い隊員が多く、地元で結婚、定着する人も七割いる。地域活動にも貢献してもらっており、大企業と同じで、なくなれば町の活性化に影響は計り知れない」と大上町長。町では住民あげての署名運動や決起大会なども行われている。美幌町の人口は約二万五千人。このうち、自衛隊人口は隊員家族も含めると三千人に上る。町の予算も半分以上が駐屯地から落ちるカネという。
これまで自衛隊が営々と積み上げてきたものは、装備だけではない。地域社会の信頼も、過去からの大きな遺産である。周囲の期待を裏切ることなくリストラをどう断行するか。新生自衛隊への改革の道はまだ緒についたばかりだ。
(社会部 岡島 毅)
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