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1995/11/30 読売新聞朝刊
[新防衛計画の視点](1)役割分担 朝鮮半島有事念頭に米にシグナル(連載)
 
 日米安保重視を前面に打ち出すとともに、国連協力や災害対応など自衛隊の新たな任務を明記した「新防衛計画大綱」が決まった。冷戦構造崩壊に対応した約二十年ぶりの抜本的な見直しで、わが国の安全保障も大きな節目を迎える。
 国会内で今月二十四日開かれた連立与党防衛調整会議。かつて国会の安保論議で「とめ男」の名をほしいままにした大出俊座長(社会党)の怒声が響き渡った。
 「『自由と民主主義の理念を共有する米国との安全保障体制、わが国周辺に核兵器を含む大きな軍事力が存在する』との表現は対ソ脅威に代わる中国敵視だ」
 大出氏の怒りは、防衛庁がそれまで与党側に示していた大綱案に入っていなかった部分が、急きょ書き加えられたことによるものだ。「日米共同宣言案にも入っている内容です」と釈明に努める防衛庁の秋山昌広防衛局長。しかし日米安保体制のくだりは結局大幅に削除された。
 日本の安保政策が「潜在的脅威」としてきたソ連が姿を消す一方、「安保反対」を掲げてきた社会党政権下で新大綱策定が進められるという錯綜(さくそう)した状況の一端を垣間見せた場面だった。
 新大綱は、「ソ連の崩壊で直接侵略の可能性は低くなった」(防衛庁幹部)との認識に立ち、防衛力の整備水準目標を旧大綱(七六年策定)の「限定的小規模侵略・独力対処」から「多様な事態に有効に対応する」と変えた。念頭に置くべき脅威の対象としてソ連に代わり浮上してきたのが、「周辺地域でわが国の平和と安全に重要な影響を与える事態」だ。
 防衛庁は既に、多様な事態の内容として「わが国に大量難民が到来した場合、在外邦人の緊急避難、浮遊機雷、国連が経済制裁を決議した場合」と、具体的には朝鮮半島有事を想定していることを明らかにしている。今後は国連平和維持活動(PKO)などと並び、防衛力整備の「大義名分」となるのは間違いない。同時に、米国が時としてアジア離れのニュアンスをちらつかせるだけに、朝鮮半島有事に際し、役割分担の意思を表明することで、対米メッセージとしての意味を持たせたい、というのが日本政府の期待でもある。
 「日米安保体制は、冷戦崩壊までは東側に対する意味で大事だったが、東側が消えた。空洞化させないよう両国民の理解がいる」
 昨年八月に新大綱の土台となる報告書を村山首相に提出した首相の私的諮問機関・防衛問題懇談会メンバー、西広整輝・元防衛事務次官の言葉が、新大綱の意味合いの一つの側面を示している。
 ソ連という脅威が消える中で、わが国の外交・安全保障の基軸である日米安保体制を堅持していく――その命題にこたえようというのが、山崎拓・自民党政調会長が「策定そのものが日米安保体制の再確認を含む」と位置づける新大綱の狙いでもある。
 新大綱は「自衛隊として初めて取り組む軍縮」(制服組トップ)の要素も持つ。「村山政権でなければこのような削減を図る大綱はできなかった」(田口健二・社会党衆院議員)と、社会党が「コンパクト化」を自画自賛する所以(ゆえん)だ。
 ある制服組の幹部が、「先輩から削減についていろいろ文句を言われた」と漏らすように、兵力削減に対し自衛隊内には抵抗もあった。「削減は質の向上を伴う」と防衛庁がしきりに強調する理由でもある。
 とはいえ、「削減は、慢性的な隊員不足に形を合わせただけ」との厳しい指摘にも象徴されるように、質の向上と量の削減を巡る論議がどこまで煮詰められたかには疑問を投げかける向きも少なくない。衛藤征士郎防衛庁長官は新大綱決定にあたり、「(冷戦下では大綱は)防衛力の整備を着実に進める中心的な課題だったが、今や種々の事態にいかに効果的に対応するかということが重要になっている」との見解を表明したが、十年程度の耐用期限を見込んだ新大綱がどういう意味を持つかは、まさに今後の肉付けにかかっている。
(政治部 石塚 格)
 
 
 
 
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