1995/08/26 読売新聞朝刊
[社説]「PKF凍結」の解除も急ごう
中東・ゴラン高原での国連平和維持活動(PKO)に自衛隊を派遣することが、ようやく決まった。社会党が、最終的に「派遣容認」に踏み切り、連立与党三党が合意に達したためだ。
わが国のPKO要員派遣は、今年一月にモザンビークから自衛隊が撤収して以降、途絶えている。この決定は、国際責務を今後も積極的に遂行していくとの意思表明として、まずは評価したい。
それにしても、国連から要請があったのは昨年五月だ。政府・与党が、迅速、的確に対応していれば、もっと早く派遣を決定できたはずだ。
さる四月には、社会党も含めた与党三党の現地調査団が、「派遣しても問題はない」との趣旨の報告書をまとめている。
それが、ここまで遅れたのは、連立政権の維持を優先して、自民党が社会党内の慎重論に配慮してきたからだ。
社会党内の慎重論は「自衛隊が、このPKOで要請されている後方支援業務を担当した場合、凍結されている平和維持隊(PKF)参加につながる恐れがある」との理由による。が、裏には、「統一地方選や参院選に向けて『社会党らしさ』を印象づけたい」との思惑があった。
今回、容認に転じたことについて、社会党は「PKFへの参加につながる懸念がないことが確認された」ことを、大きな理由に挙げている。
しかし、現地のPKO部隊を取り巻く客観情勢などが、調査団報告書が提出されてから、ここ数か月間に大きく変化したとは思えない。
決定がここまで遅れたのは、社会党をはじめとする連立与党の党利党略や国内政治的な思惑からだ。「村山首相の中東訪問を成功させるため」という理由も、目先の利害にとらわれた感を免れない。
日本が置かれた国際的な立場や国益などに対する責任感の欠如は、厳しく指摘されなければならない。
それ以上に大きな問題は、社会党がゴラン高原PKOへの参加を認める代わりに、与党三党として、懸案になっているPKFの凍結解除を「当面、行わない」と、申し合わせたことだ。
PKO協力法は、施行から三年が過ぎ、見直し時期に入っている。焦点は、自衛隊部隊の参加が凍結されているPKF本体業務の扱いだ。
PKFは、PKOの中心的な任務で、「これに参加しないのは国際的常識に合わない」とまで言われる。ところが、党内に「自衛隊違憲論」を引きずり、「非軍事分野での貢献」にこだわる社会党は、ここでも慎重姿勢を崩していない。
その意味で、PKF凍結解除の先送りは、与党間の「国対政治」的な取引の結果とも言える。こうした発想では、国際貢献への取り組み自体が疑われる。
幸い、与党三党はPKOのあり方を話し合うプロジェクトチームの設置でも合意している。今後は、PKF凍結解除に向けて一日も早く協議を開始すべきだ。
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