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1995/08/11 読売新聞朝刊
世論調査に見る戦後50年 冷戦終結、防衛観も変化
◆8・15終戦記念日 「知ってる」9割
 第二次大戦の終結から半世紀。間もなく五十回目の終戦記念日が巡って来る。驚異的な復興で経済大国となり、すでに戦後生まれが全人口の六割以上を占める中、五十年前の〈あの日〉はどう受け止められているのだろうか。
 「八月十五日」と聞いて何を思い浮かべるか――を聞いたところ、89%が「終戦」「敗戦」などをあげ、国民のほぼ九割が日本の転機となった日を正確に認識していた。しかし、残る約一割は「お盆」などその他の答えや「知らない・答えない」で占められており、戦後半世紀を経て、生々しい大戦の記憶が一部で風化しつつあることがうかがえる。
 特に、二十歳代では終戦の日であることを知っている割合が78%と低く、それ以外の回答が7%、「知らない・答えない」も15%にのぼった。
 「終戦」「敗戦」以外の回答で最も多かったのは「お盆」だったが、「自分の誕生日」と答えたケースも。また、「夏」(女性二十四歳)、「高校野球」(男性二十六歳)、「主人の給料日」(女性二十九歳)などの“珍回答”もあった。
◆防衛問題への関心 「ある」57%、13ポイント減少
 この五十年で、国民の防衛に対する意識はどう変わって来たのだろうか。
 世界各地で紛争が絶えない中、半世紀にわたり平和を享受しているためか、日本人の防衛問題への関心は、多少の起伏はあるものの確実に薄らぎつつあるようだ。
 日本の防衛問題に関心があるかどうかを聞いたところ、「関心がある」は57%、「関心がない」は42%。八四年以降三回の同種調査で、「関心がある」はいずれも六割を超え、前回(九一年六月)は69%と七割近くにのぼっている。今回は13ポイントの大幅減で、七八年(54%)に次ぐ低さだった。
 戦後間もないころの調査では、関心度などは聞かずに、再軍備などの問題をストレートに尋ねているなど、現在と違って、軍備・防衛問題に国民が関心を持っていることが当然といった観さえあった。
 関心度が今回の調査同様の低さだった七八年当時は、核兵器削減交渉が合意に向かうなど米ソ間の緊張緩和(デタント)が進んでいる最中だった。
 その後、ソ連のアフガニスタン侵攻(七九年十二月)、大韓航空機撃墜事件(八三年九月)などを経たあとの八四年には67%に上昇している。関心度が過去最高だった九一年調査は、湾岸戦争(同年一月)の直後だった。
◆日米安保の評価 「役立つ」61%に減少
 戦後日本の防衛政策の基盤となっただけでなく、経済発展をもたらす最大の要因の一つとなった日米安全保障条約――。しかし同条約に対する国民の評価は、その時々の時代の流れを反映して複雑に揺れてきた。
 五一年の同条約の調印直後の評価は決して高くない。同年十月の調査では、反対論こそ3%と少ないものの、「国会ですぐに承認すべきだ」との積極的賛成論は34%。朝鮮戦争真っただ中とあって、米国の軍事力に頼る意識が強い一方で、「国会承認は慎重に」も25%を占め、安保調印にからんで浮上した再軍備論への警戒感も少なくなかったことを示している。六〇年の改定を前に反対運動が強まった五九年にも、「安保は不必要」は12%にとどまったものの、「必要」も46%と半数以下だった。
 こうした評価も、その後の高度経済成長と軌を一にして上昇に転じている。七〇年の期限切れを控えた六八年には、左翼勢力を中心に反対運動が再び高まりを見せたが、これとは裏腹に、安保を「日本の安全に役立つ」とみる人が55%と半数を超える。以後、「役に立つ」という認識は国民にさらに広く浸透し、八八年には76%と四人に三人以上が、その役割を評価するまでになった。
 しかし、東西冷戦構造の崩壊が、極東の緊張感をも緩和したことを反映してか、昨年九月の同じ調査では「役立つ」が66%に低下。さらに、今回は61%に減少した。
 この背景には、日米自動車摩擦などによる日米両国民間の相互信頼の低下などがあるものと見られるが、冷戦終結などにより、日米安保への評価が再度転機を迎えていることも間違いないようだ。
《安保条約は役に立っているか》
  68.4月 81.6 84.10
役立っている 55.0% 60.4% 74.0%
役立ってない 16.9% 11.2% 13.1%
どちらとも言えない 10.0% 19.4% ― ―
答えない・その他 18.2% ― ― 12.9%
 
  88.7 94.9 今回
役立っている 75.5% 66.1% 61.3%
役立ってない 14.3% 10.6% 13.5%
どちらとも言えない ― ― 18.3% 20.2%
答えない・その他 10.2% 5.0% 5.1%
◆ゴランPKO 要員の派遣「賛成」44%
 先のカンボジアの国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣が評価されて以来、PKO参加に対する国民の理解が深まってきたが、国連の要請を受けて、中東・ゴラン高原のPKOに要員を派遣することについても、「派遣すべきだ」44%が、「派遣すべきではない」34%を10ポイント上回った。
 今年一月に、各地のPKOに参加することへの是非を調査した時には支持が66%にのぼり、不支持は25%にとどまっていた。これに比べると、今回はPKOに参加するべきだという意見が少ない。これはイスラエルがゴラン高原の占領を続け、シリアが返還を求めているというゴラン高原問題の複雑さに加え、日本ではなじみが薄く、派遣の必要性が実感できない人が多いためとも言えそうだ。
 しかし、安保・防衛問題が与野党最大の対立軸だったころの六六年の調査で、「国連から警察軍として自衛隊の派遣要請があったら認めてもいいか」との問いに、「認めない」が59%にものぼり、「認める」8%、「やむを得ない」13%と容認派が約二割だったのに比べると、隔世の感がある。
 男女別に見ると、「派遣すべきだ」は男性54%に対し、女性は36%で、女性に慎重な姿勢が目立つ。
◆戦争に巻き込まれる可能性 「ない」初の過半数
 防衛問題への関心の低下は、国際的な緊張関係の高まりと密接な関係があるようだ。
 今回、日本が何らかの戦争に巻き込まれる可能性があると思うか――を聞いたところ、「あると思う」38%に対し、「そうは思わない」が55%にのぼった。過去の同種の調査結果を見ると、日本が戦争に巻き込まれることに対する否定的な見方は、八四年33%、八八年41%と段々増えていたが、過半数を超えたのは今回が初めてだ。
 朝鮮戦争ぼっ発直前の四九年の同趣旨の調査では、「巻き込まれない」が二割弱だったのに対し、「巻き込まれる」が53%で、東西冷戦の始まりを反映して、日本でも緊張感が高まっていたことがわかる。
 ただ、今回の調査でも、二十歳代では「あると思う」が51%にのぼり、「そうは思わない」45%を上回ったほか、三十歳代でも双方が47%で同数値になるなど、若者層に戦争への警戒感が強いことがうかがえる。
 同じ傾向は八八年調査でも見られたが、当時は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)工作員・金賢姫らによる大韓航空機爆破テロが発覚(同年一月)したあとで、その理由として「日本周辺で緊張や対立がなくならないから」を挙げた人が多かった。今回はそれほどの緊張はないが、ボスニアに見られるように、地域紛争が世界各地で多発しているだけに、若い世代にはこれらの争いに何らかの形で巻き込まれることを恐れる気持ちが強いのかもしれない。
《日本が戦争に巻き込まれる可能性》
1949.8月 84.9 88.6 今回
巻き込まれる 52.9% ある 55.9% 50.0% 37.5%
巻き込まれない 18.6% ない 32.6% 41.1% 55.4%
◆国民の意識 「国守る気持ちある」72% 26年間で14ポイント低下
 国際関係での緊張緩和は、一時期話題となった“国を守る気概”にも少なからず影響を与えている。
 「国を守る」気持ちを持っているかどうか聞いたところ、「持っている」は72%、「持っていない」は20%。六九年の同じ調査では、「持っている」86%、「持っていない」が5%だったのに比べると、約四半世紀で「国を守る」という意識が一段と低下していることがうかがえる。
 これは、冷戦構造の崩壊で具体的な脅威を想定しにくくなり、昔に比べれば「国を守る気持ち」を意識せずに済むようになったことが響いているものと見られるが、特に、六十歳代の「持っている」86%に対し、二十歳代では54%と、若年層で目立って少ない。
 若年層では、日本が戦争に巻き込まれる可能性を指摘する声が多いものの、同時に、それが自分とはかかわりがないと見ている者が多いのかもしれない。
《外国から侵略されたら》
  (過去の調査から)
1969.1月 (数字は%)
銃を持って戦う 9.3
山のような安全な所に逃げる 2.6
あきらめて平常な生活をする 3.9
あらゆる手段で戦争をやめさせる努力をする 28.3
これを機会に反政府運動をする 0.9
有利な側に立って戦争を利用する 0.2
その時にならないと何ともいえない 39.7
そんなことは有り得ない 7.0
答えない 8.0
◆米は日本助けるか 有事に来援期待59%
 もし日本が他国から攻撃を受けた場合、日米安保に基づいてアメリカが日本を軍事的に助けると思うか――では、「助けると思う」59%、「そうは思わない」29%。今回は七九年以来、四回目の調査で、「思う」は過去最高だった昨年(64%)を5ポイント下回ったが、なお米軍の来援への期待は高い。
 自分で国を守る気持ちを「持っていない」人でも「助けると思う」が50%にのぼっており、こうした回答には、世界の常識から見れば自ら担うべき国の防衛さえ、「他人任せ」にする無責任ささえ垣間見える。
 「思う」が最低だったのは八五年(47%)。米国の対日貿易赤字が膨らみ、議会に多数の保護主義的法案が提出される一方、米上院・下院が相次いで対日非難決議を可決するなど米国の対日圧力が頂点に達し、「開戦前夜」などと言われた時期だ。
 今回の調査も、日米自動車交渉で米国が対日制裁リストを発表するなど緊張が高まった直後に行われており、それが、何かあれば米国が助けてくれるという対米“信仰”に影を落としたものと思われる。
◆自衛隊 「良い印象」最高55% 「単独で防衛可能」は4%
 防衛の主力となる自衛隊に、国民はどの程度信頼を寄せているのだろうか。
 日本が武力攻撃を受けた場合に、自衛隊が日本を守れると思うかどうかを聞いたところ、「自衛隊だけで守れる」はわずか4%。五四年の発足から四十年を経た自衛隊は、世界でもトップレベルの装備を誇っているが、ほとんどの国民は、信頼感より頼りなさを感じているようだ。その一方で、「アメリカ軍の協力があれば守れる」が56%を占め、ここにも国の防衛についての対米依存の強さがにじみ出ている。
 わが国は戦後一貫して、有事の際の米軍来援を前提に防衛力を整備してきた。その基本は、極東で強大な軍事力を有する旧ソ連軍を強く意識したもので、それが今でも国民意識に反映され、外国から武力攻撃を受けても日本だけでは対抗できないとの認識を形作っているものと見られる。「アメリカ軍の協力があっても守れない」という悲観的な見方は25%。
 防衛問題に関心が強い人ほど、「アメリカ軍の協力があれば守れる」と考える傾向があり、「関心がある」と答えた層では60%にのぼり、無関心層の51%より9ポイント多かった。
 また男女別では、「アメリカ軍の協力があれば守れる」が男性では61%なのに対し、女性では52%にとどまり、「協力があっても守れない」は男性23%、女性27%と、女性の方が悲観的な見方がやや多い。
 ただ、自衛隊に対するイメージは徐々に良くなっている。自衛隊の印象を聞いたところ、「どちらかといえば」を含め「良い」が計55%で、同じく「どちらかといえば」を含む「悪い」計13%を大きく上回った。この調査は、八四年に始めて今回で五回目だが、「良い」は、初めて五割を超えた昨年五月調査(53%)をわずかながら上回り、これまでで最高となった。また「悪い」は、これまでで最も低かった昨年調査(14%)を下回り最低。
 防衛力としての評価が低い反面、印象が良くなっていることは、国民が災害派遣や民生協力などの面で、自衛隊に期待を寄せていることの表れといえよう。
 自衛隊の合憲、違憲論議が、依然として国会の与野党論戦のポイントの一つだった八四年には、「良い」は36%に過ぎず、「悪い」が25%だった。しかし、その後の約十年間で、国連平和維持活動(PKO)への参加や、阪神大震災など数々の災害時の救助活動などを通じて、自衛隊はそのイメージを確実に向上させてきたと言える。
 これまでは、自衛隊の印象を男女別に見ると、女性の方に厳しい見方が多い傾向があったが、今回調査では、女性の間で、「良い」が昨年比6ポイント増の54%、「悪い」が同3ポイント減の12%とイメージの改善が目立っており、男性の「良い」56%、「悪い」13%に比べ、差がほとんどなくなった。
 
 
 
 
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