1994/08/13 読売新聞朝刊
[社説]新たな安保論議スタートの好機
首相の私的諮問機関である防衛問題懇談会が、「日本の安全保障と防衛力のあり方」と題する報告書をまとめた。
冷戦終結後の新しい国際的な安全保障環境の中で、日本が目指すべき防衛努力として、〈1〉国連の平和維持活動(PKO)への積極寄与など多角的安保協力の促進〈2〉日米安保関係の充実〈3〉信頼性の高い効率的な防衛力の保持――の三点を挙げている。
安全保障の基本や当面の課題に対する国際的常識を踏まえた提言をしており、報告書の方向は基本的に支持できる。
社会党が自衛隊合憲論への歴史的な転換に踏み出し、同じ土俵での本格的な安全保障論議がようやく可能となった今、格好のたたき台が示されたと言える。
PKO協力に関連して、報告書では、現在凍結されている武装解除の監視などの平和維持隊(PKF)本体業務に関し、早期に凍結を解除することや、PKOに自衛隊以外の組織を充てるという「別組織論」の誤りを強調している。
とくに別組織論については、PKOの軍事部門に参加する組織はどんなものであれ国際的には軍事組織とみなされ、別組織を作れば諸外国からは軍備増強と受けとられるとして退けている。国際的常識からみて当然の指摘である。
日本の防衛力のあり方に関しては、「防衛計画の大綱」(昭和五十一年決定)の考え方である「基盤的防衛力構想」を基本的に踏襲している。
「基盤的防衛力構想」とは、日本自身が不安定要因とならないよう独立国として必要最小限の防衛力を保持するという考え方だ。冷戦終結という国際情勢の激変とはかかわりなく堅持すべき性格のものである。
冷戦の終結→軍縮→自衛隊の縮小・防衛費の削減、という短絡的な発想が一部にあるが、報告書が指摘するように、地域紛争の激化に加えて、「自国の防衛という本来的な役割は、時代の変化を越えて変わりがない」からだ。
報告書では、陸上自衛隊の部隊の数や規模の削減、駐屯地の統廃合など陸、海の部門のリストラを進める一方で、防空能力の向上に力点を置いている。こうした視点は世界の流れでもある。
この関連で注目されるのは、米国と連携しながら日本自身が弾道ミサイル対処能力を持つよう求めている点だ。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の弾道ミサイルなどに対応できるようにしようというものだが、このためには多額の費用がかかるという問題点もある。十分な論議が必要だろう。
報告書では、このほか、戦闘部隊や戦闘機の削減の一方で、空中給油機能を導入して防空体制の効率化・強化を図るなど、随所で踏み込んだ提言をしている。
連立政権内部で対立が表面化しそうな課題はとかく先送りしがちな村山政権だが、今回の報告を真正面から受けとめて検討に着手するとともに、安全保障に関する国民的なコンセンサス作りに努力すべきだ。それが政治の責任である。
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