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1994/12/20 読売新聞朝刊
[社説]防衛論議なき防衛予算の編成
 
 平成七年度予算案の防衛費の対前年度伸び率が〇・八五五%で決着した。
 防衛問題は、その国の存立にかかわるもっとも重要な政治課題の一つである。予算編成にあたっては、当然ながら国の防衛はどうあるべきかの議論が必須となる。
 ところが、今回の政府・与党内の調整では、見かけの数字のつじつま合わせだけに終始し、あるべき防衛政策の中身についてはまったく議論が行われなかった。政治の任務を放棄した、憂うべきことと言わなければならない。
 社会党は、「軍縮」を目に見えるものにする必要があるとして、概算要求の伸び率〇・九%をさらに圧縮するとともに、正面装備の契約額を削るよう強く要求した。
 自衛隊違憲論から合憲論に転換するという、社会党にとって大きな犠牲を払ったのだから、防衛費を削減したという姿がはっきりしなければ社会党内が持たない、というのがその大きな理由だった。
 だが、与党の防衛調整会議では、なぜ軍縮しなければならないのかはもちろん、何を削減するのかについても社会党から具体的な提案は一切なかった。
 冷戦の終結を受けて、英、独、仏など欧州先進諸国でここ数年、国防費の削減が行われているのは事実である。しかし、だから日本も防衛費を減らすのは当然だというのは短絡的すぎるだろう。
 欧州諸国の削減には、東西冷戦下で国防費を増やし、英、独、仏などは今も対GNP(国民総生産)比が二―四%(九二年度)の高い水準にあるという背景がある。一%未満の日本とは事情が違う。
 さらに、冷戦後とは言っても欧州とアジアとは同一視できない。朝鮮半島情勢、中国やアジア諸国の軍備増強など、さまざまな不安定要素を抱えていることにどう対応するかという問題がある。
 防衛予算の編成にあたっては、日本を取り巻く状況をどう分析し、その結果防衛力整備の重点をどこに置くかという議論がなくてはならないはずである。
 社会党が数字のうえで「軍縮」努力を見せようとした結果、自民党と防衛庁もその場しのぎの数字のやり繰りに終始した。
 円高差益を利用するとともに、佐官の定年を延長して退職金の支払いを先送りし、調達物資の単価を切り下げた。削減額のほとんどはこれらによるものだ。
 五十嵐官房長官は「軍縮の方向が明確になった」と述べたが、これが社会党の言う「軍縮」の実態なのである。
 防衛論議なしの防衛予算編成は、社会党が長く自衛隊違憲論に固執し、現実を見据える独自の防衛政策を持たなかったことの当然の帰結でもあった。
 自民党内には、政策論議せずに「初めに軍縮ありき」という予算編成のあり方に強い不満があったというが、「連立政権維持」が至上命題となりそうした声も大きなものにならなかった。
 その意味で自民党の責任も重大だ。「自社連立政権」の持つ問題性が今回の防衛予算編成で集約的に表れたと言える。
 
 
 
 
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