1994/08/01 読売新聞朝刊
[社説]PKO積極協力の有言実行を
政府は、羽田前内閣時、国連からの打診を受けて、中東・ゴラン高原における国連平和維持活動(PKO)に自衛隊を派遣する検討に入っていた。七月中に現地調査を行い、秋ごろの派遣を想定していた。
しかし、政権交代と若干の技術的問題も加わって、この段取りは大幅に遅れることになった。
村山内閣が今後、この案件に積極的に取り組まないと、派遣自体がご破算になる可能性もある。そうなってはならない。
ゴランPKOは、一九七三年の第四次中東戦争のあと、イスラエルとシリアの国境地帯・ゴラン高原における兵力引き離しと停戦監視のために設置されたもので、戦火の再燃防止に貢献してきた。
現在、オーストリア、ポーランドの歩兵部隊(約八百人)と後方支援のカナダ部隊(同二百人)が任務についている。国連の打診は、カナダ部隊の任務のうち輸送部門を自衛隊に肩代わりしてもらえないだろうか、というもので、自衛隊員六、七十人の派遣が考えられていた。
ゴランPKOは、非強制のいわゆる従来型PKOで、トラブルもなく安定した形で運用されている。停戦合意の順守など、我が国のPKO参加五原則にも合致する。
現在、世界に展開するPKO要員は十七か所約七万人。うち日本はモザンビークに派遣している五十余人で、貢献率は〇・一%以下となっている。財政面での貢献は一定の水準に達しているが、要員面では努力すべき余地がきわめて大きい。
冷戦終結後、地域紛争の多発を受けて多くのPKOが新たに設置された。ソマリアや旧ユーゴなど要員にとって危険なものも増えた。これら新規PKOに、若葉マークの日本が要員派遣することは、率直に言って荷が重過ぎ、PKO参加五原則に照らしても問題が多い。
では、どのようにして、日本のPKO協力の実績を積んでゆくべきなのか。
一つの答えは、既存の従来型・非強制PKOへの派遣である。これらのPKOから交代要員派遣の要請があれば、日本に対応能力があるかどうか、PKO協力法の条件に合致するか否かを検討し、可能なものについては前向きに対応することである。
ゴランPKOは、そうした観点からすれば、日本が派遣に意欲的になってよいPKOである。中東地域の平和の増進に貢献する日本の姿勢を、中東諸国と世界に強く印象づけることにもなる。
村山首相は、所信表明演説で、国連に対する貢献に触れ、「国連平和維持活動について、憲法の範囲内で、積極的に協力していく」と述べた。
首相の国会発言は、国内外に対する約束である。“有言実行”すべきだ。
国際社会は、村山首相がPKOへの自衛隊派遣に強硬に反対した社会党出身ということなどを理由に、新内閣がPKOへの人的貢献に消極的な姿勢を取るのではとの疑いを、なお強く持っている。
政府は、「PKOへの積極的協力」を実践で裏付ける必要がある。
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