日本財団 図書館


1994/07/16 読売新聞朝刊
[社説]“3軍の長”は自衛隊合憲を明確に
 
 自衛隊が発足して四十年。今年の防衛白書は、「自衛隊―変化への対応」と題する章を設けて、四十年間の変遷を叙述している。この間にいくつもの節目はあったが、むしろ、白書の締め切り以後の村山内閣の出現ほど、自衛隊にとって大きな変化と感じられる出来事はないのではないか。
 村山内閣の誕生は、東西冷戦構造の崩壊という世界的大激変を背景とした国内政局の混乱の結果ではあるが、日本の安全保障体制の根幹に亀裂をもたらしかねないような政治展開とさえいえるだろう。
 首相就任後初の記者会見での発言にも示されたように、自衛隊違憲論に立つ社会党の村山首相にとって、自衛隊は、好ましくはないが「現実に存在している」ものにすぎない。「この存在を無視して政治はできない」というのでは、まるで自衛隊を“お荷物”視しているかのごとくである。
 日本の安全保障向上のため、いかに自衛隊を整備・活用していくか、という思考様式とは、まったく無縁だ。
 今年の白書では、国連平和維持活動(PKO)への協力は自衛隊とは別組織でやるべきだ、との主張があることについて、「別組織論反対」を打ち出している。
 反対理由を列挙している中に、カンボジアなどで示した自衛隊の能力や実績を無視するのは「名誉や士気に多大な悪影響を与える」とする一項目がある。しかし、それ以上に、自衛隊の存在そのものに疑義を抱く「最高司令官」ほど、士気に悪影響を及ぼすものはないのではないか。
 首相は、細川政権当時以来の首相の私的懇談会である「防衛問題懇談会」に出席した際、「全体の流れは軍縮の方向」という言葉を使っている。
 しかし、白書では、東西冷戦の終結にもかかわらず、アジア地域では逆に軍拡が進行しつつある、との認識を随所で示している。これは「解釈」の問題ではなく、「数字」に表れている客観的事実だ。
 日本周辺の状況をまともに見ようとしない首相と、白書の安全保障観の溝は、あまりにも大きい。
 白書を貫いているのは、「自らが力の空白になってこの地域における不安定要因とならないよう、独立国としての必要最小限の基盤的防衛力を保持する」という考え方である。「全体の流れ」とは無関係に一貫して「軍縮」だけを唱え続けてきた「非武装中立」信仰とはおよそ相いれない。
 ともあれ、白書は、村山首相の率いる閣議で了承された。白書には、例年通り、自衛隊の保持、整備、運用には「憲法上何ら問題がない」と記述されている。
 それを了承した以上、首相がまずやるべきことは、自らが委員長の社会党に対し、早急に自衛隊「違憲」論を放棄して明確な「合憲」論へと、疑問の余地なく基本政策の転換をするよう、指示することである。
 自衛隊を「合憲」の存在と位置づけることなくして、責任ある防衛論議などは、ありえない。また、それが、士気の高い自衛隊、質の高い防衛力を維持・構築するための大前提である。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION