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1992/08/08 読売新聞朝刊
[社説]新時代の「防衛」の骨格示す白書
 
 「世界には依然として多くの不安定要因が存在している。わが国は、引き続き、自らの防衛努力を行うとともに、日米安保体制を堅持していくことが重要だ」
 「わが国の繁栄は、世界の平和の上に成り立っており、自衛隊による国連平和維持活動(PKO)への協力は、ひいては、わが国の平和と安全に大きく寄与することとなろう」
 東西冷戦構造が崩壊し、国際社会が新たな平和の秩序を模索している中で、今年の防衛白書は、新時代の日本の防衛のあり方を、このように方向づけている。大筋で妥当な考え方と言えよう。
 白書は、冷戦終結後の国際情勢について「大量破壊兵器やミサイルの拡散の危険性が地域的な不安定を一層深刻にしている」と述べ、日本周辺の動きとして、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発に対する疑念を表明している。これに関連して注目されるのは、中国に関する言及だ。
 中国は「この地域の安全保障に重要な影響を及ぼし得る存在となっている」として、白書は、中国が近年〈1〉海洋における活動範囲を拡大し〈2〉国防費を引き続き大幅に増額している事実を指摘している。
 わが国としては、日中友好関係の一層の進展に努力を惜しんではならないが、他方、中国の軍事力の動向については、旧ソ連軍の「先行きの不透明さ」(白書)とともに、冷静に注視していく必要があろう。
 こうした国際情勢を背景として、日本の今後の防衛政策はどうあるべきか。この点について白書は明快に「基盤的防衛力構想に基づくわが国自身の防衛力と日米安保体制により、引き続きその安全を確保する」としている。異存はない。
 基盤的防衛力とは、わが国が平時から保有すべき必要最小限の防衛力のことで、独立国として当然のことだ。
 その必要最小限の量的な水準は、すでに平成二年度までにほぼ達成されている。今後の課題は、防衛費の抑制と、「小が大を兼ねるような」(防衛庁首脳)質的な面での改善努力だ。
 日米安保体制の維持について白書は「国政の基本」であるべきだと述べている。確かに日米の緊密な関係は、今後も日本と極東の安全にとって極めて重要だ。相互信頼を高める一層の努力が必要である。
 PKOが世界各地でその重要性を増している中で、ようやく日本も仲間入りすることになった。
 白書は「自衛隊がPKOや国際緊急援助活動に従事することは、国際協調の下に恒久の平和を希求するわが国憲法の理念にも合致する」と述べている。その通りだ。
 だが問題点も残っている。自衛隊の新たな任務となったPKO参加は、自衛隊法では、南極観測の支援などと並んで、雑則の中に位置づけられている。「わが国の平和と安全に大きく寄与する」と言うなら、自衛隊の主たる任務を規定した同法三条に盛り込むべきだ、との声も少なくない。
 政府はこの点について十分に議論し、明確な結論を出してもらいたい。
 
 
 
 
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