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1992/11/12 読売新聞朝刊
[社説]試練を克服してほしいPKO
 
 国連は昨年春以来、新たに七地域・国で平和維持活動(PKO)を開始した。任務を順調に遂行中のPKOもあるが、厳しい試練にさらされているものもある。
 日本が自衛隊を初めてPKOに参加させたカンボジアでは、ポル・ポト派が武装解除を拒否し続けている。同派は鉄橋爆破などの停戦違反も犯している。
 ポト派の行動は厳しく非難されねばならないが、こうした状況から来年五月に予定される国連監視下の総選挙がポト派抜きとなる懸念も出てきた。当初の和平シナリオが大きく狂うことになる。
 北京での国際会議も、ポト派説得に失敗した。国連安保理はカンボジア和平の進め方で、ポト派制裁を含めた新たな対応策を打ち出す必要に迫られている。
 十六年間の内戦で疲弊したアンゴラでは九月末に、国連監視下で大統領選と国民議会選挙が実施された。ここまでは順調だったが、選挙で敗北した側が「選挙に不正があった」として根拠地に舞い戻り、一部で戦闘が再発した。事態は流動的で、本来なら先月末に任務を終えるはずだった国連軍事監視団は現地にとどまっている。
 カンボジア、アンゴラの事態は、紛争当事者の一派がPKOに非協力的な行動に出たための混乱であり、国際社会は、ポト派などへの説得工作を継続し、PKOに協力させねばならない。平和に一歩近づいては半歩後退を繰り返さざるを得ない現地PKO関係者の労苦は並大抵ではない。
 旧ユーゴのボスニア・ヘルツェゴビナではセルビア人武装勢力の執ような攻撃などで流血が続いている。救援物資が届けられないため、厳しい冬の到来で住民に多くの死者が出ることも懸念されている。軍事力行使を制約されている国連防護軍では事態の鎮静化は不可能な状況だ。
 飢餓が空前の規模で進行し、すでに死者が二、三十万人に達したともされるソマリアへの平和維持軍(PKF)三千五百人の派遣も順調でない。
 無政府状態となり、武装組織による略奪が横行する同国で、食料や医薬品を護送して難民に届けるのがPKFの任務だが、派遣予定国は、武器使用を厳しく規制されたPKFの枠内で自国兵士を危険なソマリアに派遣することに不安を示している。
 旧ユーゴやソマリアの混乱は、いわゆるPKOの対処能力を超える事態といえる。人道的支援を進めるには治安回復が不可欠であり、PKFではなく軍事的強制力を行使できる国連軍の導入が必要との議論も、こうした状況認識から出てきている。
 ガリ国連事務総長が、国連の平和機能強化に関する「平和への提言」の中で、従来のPKOとは別の平和強制部隊の設置を求めたのも同様の認識からだろう。
 安保理は、「平和への提言」に盛り込まれた勧告について、来春までに結論を出す予定だ。冷戦後世界の混乱に有効に対応するために、国連の平和機能をどのように強化すればよいのか。徹底した議論を望みたい。並行してソマリアなどの悲惨を軽減する可能な限りの努力を進めてほしい。
 
 
 
 
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