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1992/06/16 読売新聞朝刊
[社説]「PKO」成立の画期的な意義
 
 湾岸戦争以後の最大の政治課題だった国連平和維持活動(PKO)への参加問題がようやく決着し、わが国は資金面だけでなく、人的な協力についても、本格的な国際協調の一歩を踏み出すことになった。
 PKO協力法が、自民、公明、民社三党の賛成多数で成立したことは、その意味で日本の戦後史上、画期的な意義をもつ。
 自衛隊の海外派遣を含む同法に対しては日本が軍事大国化し、再び戦争の道へ進む恐れがあるなど、誤解、曲解に基づく批判がいまだに一部に根強くある。しかし同法を整然と実施することにより、そうした誤った批判は一掃されるだろうし、またそうしなければならないと考える。
◆国際社会では当然の責務
 PKOは、国連加盟各国の軍人を中心に、文民も含めて国連が組織する平和維持のための国際協調行動であり、次の点が活動の基本条件となる。
 一、紛争当事者の間で、武力紛争を停止するという合意が成立していること。
 一、紛争当事者や活動の対象となる国がPKOの開始に同意していること。
 一、特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
 つまりPKOは、戦闘状態が終結したあとの、紛争再燃を防止して平和を確保する活動だ。その性格は、敵を持たず、戦う軍隊ではない、ということである。PKOがノーベル平和賞(一九八八年)を受けたのも、日本国憲法で禁じているような軍事活動でなく、平和の活動だからだ。
 PKOには、いまや世界の八十か国、延べ五十万人が参加している。こうした普遍的な活動に参加することによって、日本は初めて“異質な国”という批判を脱し、国際社会の一員となれるのだ。
 PKOの活動分野は、兵力引き離しなどにあたる平和維持隊(PKF)本体と、物資の輸送、施設の建設、通信、医療などPKFの後方支援業務のほか、選挙監視や難民の救援などかなり広範囲に及ぶ。
 PKO協力法は、参院で自、公、民三党による再修正が行われた結果、PKF本体への自衛隊の部隊参加は凍結された。
 凍結部分を除いても、後方支援や難民救済などの業務の実効をあげるには、訓練の積み重ねに裏打ちされた、組織としての能力が不可欠の条件となる。仮設住居、食糧、医療など要員の生活面についても、自給自足の自立的能力を要求される。
 このようなPKO活動に最適の能力を備え、訓練を受けている組織は、日本には自衛隊しかない。
◆「日本はカネで」は利己主義
 戦後の日本は、東西冷戦という枠組みの中で、ひたすら経済発展につとめ、その間、平和への貢献については、もっぱら“人まかせ”だった。だが、本来、日本ほど国際依存度の高い国はなかったのだ。
 各国が世界平和を維持するための新たな国際秩序を模索し始めた時に、平和の最大の受益者として経済大国になった日本が、相変わらず平和は人まかせ、という態度ではもはや通用しない。
 日本はカネを出せるのだから、身に危険のある所へは人を出すべきではないという反対論もあった。
 確かにPKOは、戦争をするのではないが、危険を伴うことは否定できない。しかし、だから日本はカネだけ、と勝手に決めるのは、利己主義以外の何ものでもない。自分さえ安全なら他国の要員は危険でもよいのかという反論にどう答えるのか。
 各国が危険を分かち合って協力するという気持ちを持たなければ、国際社会の秩序は維持できない。日本の協力は、日本自身の平和と繁栄を守ることでもあるのだ。
 地球環境など多くの課題に直面している中で、何でもカネだけですまそうとするのは、財政面でも限界がある。
 自衛隊関係者にとっては、全く新しい任務につくだけに、苦労も多いだろうが、最初から大きな成果をねらう必要はない。地道に一歩ずつ前進すればよい。努力の積み重ねは必ず評価され、それによって、内外から出されていた批判や警戒論の誤りだったことが実証されると確信する。
 
 
 
 
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