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1991/04/11 読売新聞朝刊
[社説]海部首相はペルシャ湾への掃海艇派遣を決断せよ
 
 受動的貢献から能動的貢献へ、というのが、国際国家・日本をめざす政府のキャッチフレーズだが、実際にやっていることは、とても能動的とは言い難い。
 そのよい例が、ペルシャ湾への海上自衛隊の掃海艇派遣問題だ。
 憲法や法律上、何の問題もないのに、なぜ政府は積極的に対応しないのか。自ら率先してやるべきことを、やらずにすまそうなどと考えているのだとしたら、国際社会の批判を増幅させかねない。
 海部首相は、掃海艇派遣の決断を急がなければならない。
 日本は、石油需要の七割を湾岸地域に依存している。そのため、ペルシャ湾とホルムズ海峡には、平時で二十隻もの日本のタンカーが常時航行している。
 イラクは、湾岸戦争で、一千個の機雷をペルシャ湾内に敷設した。これを除去するために、現在、米、英、ベルギーなどの各国が掃海作業にあたっている。ドイツも今回、北大西洋条約機構(NATO)域外への初の掃海艇派遣を決め、ペルシャ湾へ向かわせている。仏、伊、オランダも近く派遣の予定だ。
 掃海技術では世界一といわれる日本は何もせず、しかし他国が掃海したあとに入ってくるタンカーの数だけは、日本が一番多いというのでは、国際社会での対日イメージが低下するだけではすむまい。国際社会は、そんなに甘くはない。
 湾岸戦争で、多国籍軍に対して、九十億ドルという高額の追加支援をしても、日本は国際的に十分な評価はされなかった。機雷の除去という、湾岸復興に対する国際貢献がもたつき、「能動的貢献」を空念仏に終わらせれば、信頼度はさらに下がる。
 経団連が八日、掃海艇を派遣すべきだ、との見解をまとめたのも、そうした憂慮からだろう。九日には、サウジアラビア政府が、日本に対し、同様の意向を非公式に伝えてきたことが明らかになった。
 サウジの場合は、アラビア石油(小長啓一社長)が、操業再開に関連して、サウジ政府に掃海を依頼したところ、逆に、海上自衛隊の掃海艇派遣を求められたものだ。日本企業が、日本へ原油を輸送するためにも掃海は必要なのだ。「自分の面倒は自分でみろ」とサウジから反省を求められたと受けとるべきだろう。
 日本が掃海艇を派遣することは、国際社会に貢献すると同時に、自らの利益を守ることにもなるのだ。
 国会での掃海艇派遣論議は、統一地方選のため、一時中断の形となり、政府も結論を出すのをためらっている。しかし、国際貢献策の決定は、「九十億ドル」の例でも明らかなように、遅過ぎると、その意義は半減する。選挙を理由に、やるべきことを先送りするのは、政治の怠慢だ。
 国際秩序が維持されることによって、世界の平和が保たれ、日本の貿易立国が可能となる。その秩序作りを他国まかせにし、何もしないというのでは、日本は身勝手な国と映るだろう。重ねて、首相の早期決断を求めたい。
 
 
 
 
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