1989/02/20 読売新聞朝刊
[社説]次期支援戦闘機問題で日米関係を損なうな
航空自衛隊の次期支援戦闘機(FSX)の日米共同開発着手に対して、米側から待ったがかかっている。
米議会の一部議員が、共同開発による技術移転は日本を利する、として反対の声を上げたのを受け、米政府も来月十日を期限に再調査することになったためだ。
FSXの共同開発は、昨年十一月、日米両政府間で合意し、開発開始のための了解覚書(MOU)に調印した。日本側は、すでに六十三年度予算に開発費約百七億円を計上しており、この執行期限は、三月三十一日に迫っている。この段階になって、米側に足並みの乱れが生じているのは、極めて遺憾と言わざるを得ない。
そもそも、FSXの共同開発は、米側の要求を考慮しながら、「日米安保体制を堅持し、その円滑な運用を図る」という基本線に立って、日本国内の自主開発論を抑え込んで決まったものだ。この経緯を米側の反対論者も思い出してほしい。
今回、米政府内では、商務省や米通商代表部(USTR)などが、国務、国防両省主導で進めたFSX共同開発について再調査を求めた。技術輸出管理の権限をどこが所管するかという米政府内の権限争いがFSXに及んだようにみえる。
再調査の結果、共同開発が了承されれば、米政府は、米武器輸出管理法に基づいて、議会に通告し、議会で三十日以内に不承認の議決がなければ、自動承認される。
しかし、もし米議会での承認の見通しが立たずに、六十三年度予算の年度内執行ができない事態が生ずると、開発期間の制約などから共同開発は不可能となって、FSX問題は白紙に戻る。こんなことになると、日米安保体制そのものにも傷がつくことになる。日米双方にとって、何の利益も生み出さない。
米側には、FSX問題と貿易摩擦や技術摩擦問題とを絡めて論ずる反対論者がいるようだが、こうした議論は、日米関係にとってプラスになるとは思えない。
FSXは、安全保障上の問題であり、その配備予定は、八年後の一九九七年だ。これを現在の貿易不均衡問題に絡めるのは、筋違いだ。また、技術面に重点を置く反対論は、ハイテクに国家の消長がかかる現代では、日米双方の技術ナショナリズムを過熱させる心配がある。
実際、米議会から共同開発に対する反対論が出たとたん、自民党の一部議員は「米議員らの言い分には、思い上がりが感じられる」と強く反発した。感情論で反発し合うのはよくない。冷静な論理的対応が双方に必要だ。
技術面では、米国よりも後発組だった日本の追い上げがこのところ激しいため、米側が警戒心を抱くのもわからないわけではない。今回の問題は、日米双方がハイテク摩擦をうまく処理していかないと、安保関係にも悪影響が及ぶことを示したものとも言えるだろう。
しかし、そうであればこそ、FSXの共同開発は、日米の技術面での共存・共栄のモデルケースとして育て上げたいと思う。
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