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1989/01/11 読売新聞朝刊
防衛庁の「情報本部」新設 ソフト重視へ質転換(解説)
 
 防衛庁が「情報本部」(仮称)の新設に着手する。その狙いや思惑は何なのか。
(政治部 松本 泰高)
 米国の国防情報局(ディフェンス・インテリジェンス・エージェンシー、DIA)と同種の軍事情報組織として、日本版DIAともいうべき「情報本部」を作ろうという構想には、二人の“仕掛け人”がいる。背広組(内局)と制服組(自衛隊)のトップである西広整輝事務次官と石井政雄統幕議長だ。
 三十一年採用で、初の生え抜き事務次官第一号の西広氏は、次官就任前の昨年五月、「情報本部」の青写真づくりのためわざわざDIAを訪問したほど。一方、石井統幕議長は、陸、海、空三自衛隊の統合運用に人一倍熱心で、「ミスター統合」のあだ名があるくらい。
 わが国の防衛政策の中では“ウサギの長い耳”と称して、軍事情報の収集、調査、分析の重要性が繰り返し強調されてきた。だが、現実は正面装備の充実に追われ、なおざりにされてきた。
 一応、三自衛隊の情報部門の統括は、統合幕僚会議の第二幕僚室が担当だ。しかし、お定まりの人員不足と、三自衛隊間の“ナワ張り”意識もあって、本来の機能を十分に果たしていない。また、防衛局調査一課、同二課が文民統制(シビリアンコントロール)の立場から、主導的に扱ってはいるが、「内局と制服組の間の連携も今一つの感じ」(防衛庁首脳)といえ、「今後のわが国防衛にとって、情報はますます重要となり、一元化はぜひとも必要」(同)と強く認識されるようになってきた。
 九〇年代の防衛のあり方を規定する次期防衛力整備計画(平成三年からスタート)は、「洋上・本土防空」、「前方対処・早期撃破」という戦略構想があるが、実質的には「大物の装備調達は中期防(六十一年度から五年間)でほぼ一段落する」(防衛庁幹部)という一面もあり、防衛庁首脳は、米ソ新デタントなど流動的な国際軍事情勢に機敏に対処するため、情報部門の整理、統合を重視し始めたわけだ。防衛力整備の重点が従来のモノ中心、ハード一本やりから、情報などソフト重視へと、質的に転換するとみてよいだろう。
 だが、統合や一元化への三自衛隊間の壁は予想以上に厚い。それが人減らしに直結するとなればなおさらだ。現に、大所帯の陸上自衛隊では、「情報一元化という総論は大変結構だ。しかし、ウチの場合、海や空と同列に論じるわけにいかない。中身をよく見きわめたうえでないと・・・」(陸幕幹部)と早くもけん制球を投げている。
 一方「日米防衛協力のための指針」(昭和五十三年十一月)でうたわれているように、「自衛隊と米軍は、情報活動を緊密に協力、調整する」ことになっており、「情報本部」発足で制服レベルの一体化が一段と進むのは避けられない。
 野党側が、制服組の発言力強化、日米の軍事一体化の深まりを危惧(きぐ)するのは当然考えられる。九〇年代以降の防衛のあり方をめぐって、地に足のついた議論が必要になろう。
 
 
 
 
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