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2002/12/10 毎日新聞朝刊
[クローズアップ2002]イラク攻撃・・・対米支援の狙い 同盟重視の政治決定
◇イージス艦派遣
 政府が9日、米国のイラク攻撃を想定して固めた対米支援策は、イージス艦派遣と、復興支援をにらんだ新法制定が「車の両輪」となる。政府がこだわったイージス艦派遣に至る経緯を改めて振り返り、新法の狙いを探った。
■伝達は1カ月前
 「日本はイージス艦を派遣する。イラク攻撃の間接支援になる」
 イージス艦派遣が正式決定される1カ月近く前の11月8日、山崎拓自民党幹事長は東京都内でファイス米国防次官に断言した。額賀福志郎幹事長代理、中谷元前防衛庁長官らは「こんなことを言って大丈夫なのか」と目を白黒させたが、ファイス氏は決断を評価した。
 防衛庁は当初テロ対策支援法に基づく基本計画の期限(11月19日)延長に合わせた派遣を考えた。バリ島テロ直後の10月中旬、石破茂防衛庁長官は「こういう時こそイージス艦。決めるのは政治だが」と周囲に漏らした。
 与党は公明党を中心に慎重論が強かった。昨年政府が派遣を断念したのは、強行すれば基本計画に基づく自衛隊派遣が国会で承認されない恐れがあったため。小泉純一郎首相にイージス艦派遣を進言していた山崎氏は、昨年の二の舞いを避けようと防衛庁の積極論に一呼吸を入れさせた。
 派遣計画延長時、防衛庁幹部は「防衛庁は派遣を決めた。官邸に『あとは官邸が判断するから動くな』と言われている」と自信を見せた。
 当初、山崎氏の念頭にあったのは臨時国会閉会後の12月20日の派遣だった。しかし、日米外交・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)の16日開催やアーミテージ米国務副長官の8日来日も決まり、政府・与党首脳は「派遣決定の前倒しが必要」との判断を下した。
 11月24日から1週間、谷内正太郎官房副長官補が根回しに訪米した。29日、官邸で福田康夫、安倍晋三正副官房長官はイージス艦派遣を最終確認。安倍氏が「アーミテージ氏来日までに決めるべきだ。来日後だと外圧と映る」と主張、福田氏も「そうだな」とうなずく。
 山崎氏は3日、青木幹雄自民党参院幹事長と会談し、5日の党首会談で派遣を決定する方針を説明。青木氏も公明党への配慮を条件に了承した。しかし、4日朝の与党3幹事長会談で、イージス艦を翌日の党首会談の議題にするかで公明党の態度が揺れた。山崎氏と福田氏は「政府が派遣を決めた後に党首会談で公明党が反対表明する方が公明党の顔が立つ」と判断。これが、1日前倒しの4日決定につながった。
■米の期待以上
 「この決定に興奮している」。イージス艦派遣を決めた4日、アーミテージ国務副長官は毎日新聞を含む日本のメディア数社のワシントン支局に自ら電話をかけた。日本の決定が「期待以上」だったことがうかがえた。
 米国は10月の対テロ戦争作戦会議で、日本にP3C哨戒機やイージス艦の派遣を要請したが、イージス艦に強くこだわったわけではない。北朝鮮が核兵器開発計画を認めたことが明らかになった10月中旬以降、米政府関係者の中には「北朝鮮への警戒を優先すべきだ。日本が4隻しかないイージス艦を無理して派遣する必要はない」との声も出ていた。米国にはイージス艦は60隻ある。
 ブッシュ政権の高官は「小泉首相は外圧を待たず自ら選択肢を提示するのでやりやすい」と言う。日本の顔を立て、自発的に決めさせる――。ブッシュ政権の対日姿勢が反映されたイージス艦派遣は、米国の圧力というより、小泉政権の日米同盟重視を象徴する政治的な決定だった。
【上野央絵、鬼木浩文、ワシントン佐藤千矢子】
◇戦後復興に焦点 自衛隊の参加、視野に入れ−−イラク新法
■石油も見据えて
 復興支援を主眼とした新法検討には「イラク攻撃自体はアッという間に終わる。日本の出番は戦後だ」(外務省幹部)という認識がある。
 昨年のテロ対策支援法は、燃料補給などの後方支援で「テロとの戦い」を米国と共有するのが主目的だった。同時に「人道分野の貢献」もアピールしようと難民支援や医療活動を盛り込んだが、アフガニスタンはおろか隣国パキスタンでも目に見える人道支援を展開できなかった。その教訓を生かすのが、フセイン政権後の治安維持活動への自衛隊参加も視野に入れたイラク新法だ。
 加えて、エネルギー供給を中東に依存する日本は、世界第2位の石油埋蔵量を誇るイラク新体制とのパイプ作りで出遅れるわけにはいかない。防衛庁幹部は「中東の石油供給の安定は日本の国益だ。石油利権のおこぼれにあずかれるか、あずかれないかは非常に大きい」と漏らし、イラクの戦後復興に積極参加する狙いの一端を説明する。
■駐留部隊の形態
 治安維持と復興に長期駐留する外国軍部隊の形態について政府は(1)PKO(国連平和維持活動)(2)多国籍部隊(3)米国による占領軍――を想定し、自衛隊派遣の法的根拠の必要性を検討している。
 (1)のPKOの場合は、PKO協力法に基づく派遣が可能だが、政府内では「イラクでPKOが展開される可能性は低い」との見方が支配的。PKOは紛争当事国の受け入れ同意が原則だが、新政権樹立まで当事者が存在しない「空白」期間が生じる可能性が強い。
 新法は(2)のアフガンに展開中の国際治安支援部隊(ISAF)のような多国籍部隊を想定したものだ。政府筋は「部隊そのものへの参加は難しいので、インフラ整備や運輸分野での貢献など、側面支援を可能にする内容となる」と語る。
 (3)のように、米国が戦後日本を占領したGHQ(連合国軍総司令部)方式をとれば、自衛隊派遣にはまた別の法律が必要だ。
 しかし、「米国の戦争に加担する、との中東諸国の批判は免れない」(政府筋)という見方もあり、小泉政権は難しい判断を迫られる。
【平田崇浩、白戸圭一】
 
 
 
 
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