日本財団 図書館


2002/11/20 毎日新聞朝刊
[クローズアップ2002]自衛隊の派遣、半年延長 イラク攻撃時に空白海域穴埋め
◇米艦艇の活動代替
 インド洋周辺で対米支援を続けている自衛隊の派遣期間が19日、半年延長された。政府の延長手続きは2回目だが、20日から始まる2年目の活動は、過去1年間とは性質を異にする。米軍によるイラク攻撃が現実味を増す中、米艦隊がアラビア海からペルシャ湾に移動した場合に生じる「空白」を、海上自衛隊が埋めるよう期待されているためだ。派遣目的はあくまでアフガニスタンでの対テロ活動支援とされているものの、それは対イラク軍事作戦の「間接支援」にほかならない。
【鬼木浩文、宮下正己、ワシントン・佐藤千矢子】
 「不朽の自由作戦(対テロ戦争)で自衛隊の果たした役割を米国は高く評価しており、支援が拡大するなら歓迎したい」
 今月12日、防衛庁で開かれた日米調整委員会の席上、クリステンソン駐日米公使は、支援拡充に強い期待感を示した。同公使は特にテロリストの逃亡を海上で阻止する活動の重要性を指摘した。
 これに先立つ10月初め、アフガンでの軍事作戦に協力する40カ国以上の外交、防衛当局者が米フロリダ州の米中東軍司令部に集まり、2日間にわたって作戦会議(兵力調整会議)を開いた。
 初日の全体会議でフランクス司令官は作戦の重点を今後、「地上作戦」から「海上阻止行動」に移すと説明。翌日の日米個別協議で、米側は(1)P3C哨戒機の派遣(2)イージス艦の派遣(3)米英艦艇以外への燃料補給(4)基地整備用重機をタイからアフガン周辺国へ海上輸送する輸送艦の派遣――の4点を日本側に非公式に打診した。対イラク攻撃を念頭に置いた負担の肩代わり要請だった。
 政府関係者の話を総合すると、イラク周辺にはすでに通常の約2〜3倍に当たる約6万人の米軍が展開。米軍がイラク攻撃に踏み切る場合、対アフガン作戦に従事している米艦艇約25隻のうち、1個空母戦闘群(約10隻)と強襲揚陸部隊(6〜8隻)がペルシャ湾西側に集結し、北アラビア海にとどまる米艦艇は、フリゲート艦や駆逐艦など7隻前後に減る。
 北アラビア海からイエメン、ソマリア沖にかけての海域では、各国の海軍が怪しい船に対する臨検(海上阻止行動)を行っている。このうち、補給艦を派遣していないフランスやスペインは、米国から給油を受けているため「イラク攻撃で米艦艇がいなくなると、困る事態になる」(日米外交筋)というわけだ。補給対象国の拡大要請は、ここから生まれている。
 防衛庁は、対イラク経済封鎖の臨検に直接かかわっていないドイツやフランス、スペイン艦艇への燃料補給は、テロ対策支援法の範囲を超えないと判断。いったんは実施する方針を固め、与党の内諾も取り付けた。
 しかし、補給の拡大対象艦船が展開している海域は、海自のいる海域より、1000キロ前後も南に離れているため、運用面から実施が困難だとして政府内で慎重論が噴出し、議論はいったん振り出しに戻った。
 高い情報収集能力を持つイージス艦やP3Cの派遣も、海上阻止行動の強化が目的だった。公明党などに配慮して当面は見送られたものの、補給対象国の拡大とイージス艦派遣は、ともに基本計画の変更が必要ないため、イラク情勢で実施論が再燃する可能性は十分にある。政府関係者は「イラク攻撃が始まってから、改めて検討すればいい」と話している。
 こうした政府の動きに対し、民主党は19日、「自衛隊の活動実態がよく分からない」として派遣期間の延長の是非についての判断を見送った。野党側が共同歩調をとれないまま、「イラク攻撃含み」という現実だけが動き出している。
◇燃料86億円分を1年で無償提供−−海自補給艦
 インド洋に派遣された海上自衛隊の補給艦は、過去1年間で米軍に131回、英軍に9回、計140回の燃料補給を実施した。日本が無償で提供した燃料は23万4000キロリットル、86億円分にのぼる。02年度予算に計上された海上自衛隊の年間燃料消費量は、42万キロリットル、122億円。本来の業務量をも上回る「ガソリンスタンド役」をこなしたことになる。
 燃料は、防衛庁が日本国内で石油会社と随意契約を結び、アラビア海沿岸国で調達する。手数料などの経費が上乗せされるため、国内調達より数%割高になる。防衛庁幹部は「原油国で、日本より高い油を買うことになるとは」とぼやく。
 一方、航空自衛隊は日本国内で97回、国外で15回の物資空輸を行った。海空両自衛隊を合わせ、今年9月末までに149億円かかった。
 隊員の負担も重い。インド洋の燃料補給活動は、補給艦2隻と護衛艦3隻の5隻体制で実施されている。派遣期間は3〜5カ月程度。海自が保有する補給艦4隻のうち2隻はすでに2回目の派遣中だ。防衛庁には「これ以上の派遣延長は、隊員の負担が重すぎる」(幹部)との意見もあり、希望しない隊員は、2回目以降の派遣を免除する方向で検討している。
 しかし、この1年でテロ組織アルカイダ幹部28人のうち死亡が確認されたり、当局が身柄を拘束できたのは12人に過ぎない。ウサマ・ビンラディン氏ら幹部の多くは行方不明だ。対テロ攻撃の実効性に疑問の声も出ている。
 防衛庁は「国際社会のテロ対策支援が続いており、日本だけが撤退することはあり得ない」(幹部)と強調しているが、支援活動の出口は見えないままだ。
 (この記事には図「イラク攻撃時に予想される米艦艇の展開」があります)
(11月21日付け朝刊訂正記事に基づき、本文訂正済み。データベース部)
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION