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2002/05/09 毎日新聞朝刊
[社説]有事法案 周辺事態に直結する認識を
 
 武力攻撃事態法案など有事法制3法案の本格的な審議が、衆院の特別委で始まった。政府は法案の性格を、危急の時に日本を守るためだと強調してきたが、それだけではない。周辺地域で軍事行動を起こす米軍を、後方から強力に支えるための仕組みだという目でとらえる必要がある。
 有事法制に込められた二つの機能のうち、一つは、小泉純一郎首相の「備えあれば憂いなし」という言葉に象徴される。日本が攻撃されたとき、自らを守るための役割だ。現行法制では、自衛隊の迅速な行動に支障があるし、人権や財産権が超法規的に侵されるおそれもある。いざという場合、首相の権限を強めたり、私権制限を国民に納得しておいてほしいという趣旨だ。法案に批判的な野党も、民主、自由両党は、その点で強い異論を唱えてはいない。
 もう一つが、周辺地域で、不穏な動きが起きたり、起きそうになったときの米軍との関係だ。
 武力攻撃事態法案は、日本への武力攻撃が(1)発生した事態(2)おそれのある場合(3)予測されるに至った事態――に分けている。基本的には、(1)と(2)が日本自身を守る場合、(3)が日本以外の有事だ。
 99年成立の周辺事態安全確保法では「放置すれば武力攻撃に至るおそれのある事態」(周辺事態)に、自衛隊が米軍に食糧や水などを後方地域で供給できる法制を整えた。ところが、有事法制が完備すると、周辺事態と「武力攻撃が予測される事態」は重なったり、連続性を持つようになる。中谷元防衛庁長官は国会答弁で、ほぼ共通するとも述べている。
 周辺事態法のままなら、自治体や国民は、政府から協力を「求められる」段階にとどまる。それが有事法制下では、政府と国会が認定すると、自治体は首相から自衛隊や米軍のため、空港、港湾、病院などの施設、土地の使用を命じられる。拒否すれば代執行で強制使用となる。民間人も食糧やガソリンなどの保管命令に反すると、最高懲役6月の処罰を受ける。
 これらの対応は、周辺地域での米軍の行動を、政府に加え、自治体や国民も直接、間接に支援・協力することになる。そうした法制だということを認識すべきだ。
 仮に朝鮮半島で軍事行動が起きれば、「武力攻撃の予測事態」になるだろう。悪の枢軸とみる米国による朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)攻撃を、日本全体で支援することになる。台湾海峡での衝突も、米軍の行動しだいで、中国側を敵に回す。
 米軍支援は、国会承認の手続きがあり、自動的にかかわるとは限らない。ただ、日本は戦後半世紀以上、周辺地域の安全に自ら関与する政策はとってこなかった。周辺事態法に続く有事法制の整備は、アーミテージ米国務副長官が、就任前の2000年10月にまとめた報告の中で指摘しており、米国の要請に合致する。日本が周辺地域の安全にも積極的にかかわる国に変わるのかどうか、これこそ有事法制で最大のポイントであることを認識すべきである。
 
 
 
 
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