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2001/09/25 毎日新聞朝刊
米国同時多発テロ 早期成立、波乱含み−−テロ関連3法案審議
 
 米同時多発テロ事件を受け、政府・与党は25日から、(1)米軍などの報復攻撃に自衛隊の後方支援を可能にするための新法(2)避難民救援のための国連平和維持活動(PKO)協力法改正(3)国内警備強化の自衛隊法改正――のテロ対応3本柱について、大詰めの調整に入る。新法では、自衛隊派遣の「根拠」や米軍による武力行使との「一体化」をめぐる議論が民主党との調整のポイント。PKO協力法では武器の使用基準などが議論の焦点になる。一方で自衛隊法改正では警備対象拡大について自民党内で、なお混乱が見られる。
【人羅格、及川正也、中村篤志】
◇派遣「なし崩し」懸念、新たな国連決議求める−−民主
■後方支援新法
 新法作りで、小泉首相は野党・民主党との合意に強い意欲を示している。調整のポイントになるのが、自衛隊派遣の根拠だ。
 国際的な「お墨付き」として考えられるのは国連安保理による武力行使容認決議であり、国内的な担保となり得るのが国会による事前承認だ。しかし、新法は(1)武力行使容認決議までは要さず、9月12日のテロ非難決議で足りる(2)国会の事前承認は要さず、支援計画の事後報告でよい――との方針で法案をまとめる予定となっている。
 こうした点から、民主党からは「なし崩しの派遣となる」との声が出ており、同党の菅直人幹事長は「犯人を特定する新たな国連決議が必要だ」と指摘している。
 一方で、憲法解釈上認められない「武力行使との一体化」も、医療支援を中心にパキスタンでの陸上での米軍支援が予想される中では問題になる。政府は「戦闘区域外」を何らかの形で表現して周辺事態法で言う「後方地域」にあてはめる形で、武力行使との一体化の回避を説明する方針だ。
 しかし「たとえ『後方地域』との表現を使っても、公海上を想定していた周辺事態法と、陸上も想定する新法とでは概念は異なる」と外務省幹部は指摘する。
◇武器使用基準、緩和が焦点に
■PKO法改正
 避難民支援で政府はPKO法の「人道的国際救援活動」を適用、自衛隊を派遣する方針だが、焦点は武器使用問題だ。自民党は山崎拓幹事長らが中心になって武器使用基準の緩和に動いている。
 今回の難民支援では、パキスタン領域の難民キャンプや病院などで、衛生部隊を中心とする医療、防疫、給水活動などが想定されるが、この際、活動の警備や人員・物資輸送要員も必要となり、小銃などを携行した陸上自衛隊部隊が派遣される可能性が高い。
 しかし、94年にザイール(現コンゴ民主共和国)に派遣されたルワンダ難民支援では、活動地域で日本の非政府組織(NGO)がトラック略奪に遭い、小銃を携行した自衛隊員が輸送にあたったケースもあり、「今回も難民キャンプ周辺での治安悪化は予想される」(政府筋)という。
 ただ、PKO法の武器使用基準は「自己または自己と共に現場に所在する他の隊員の生命、身体の防衛にやむを得ない場合」に限定されており、近隣にいる他国部隊や難民などが銃撃された場合、集団的自衛権や武力行使の観点から、応戦が可能かどうかは明確ではない。
 一方、PKO法では人道的国際救援活動の前提として「紛争当事者間の停戦合意」と「受け入れ国の同意」を定めており、PKO参加5原則にも同様の規定がある。パキスタンが紛争に巻き込まれた場合、紛争当事国になるため、自衛隊を派遣できなくなる可能性がある。
 自民党内ではPKO法改正が進まなければ、別の新たな法律で対応しようという動きもある。
◇国会・皇居警備、自民内部でなお綱引き
■自衛隊法改正
 在日米軍基地などの警備に自衛隊派遣を認める自衛隊法改正は、警備対象の範囲をめぐって迷走している。与党3党は18日、いったん自衛隊の警備活動の対象を首相官邸、国会など国内重要施設に拡大することで合意したが、「諸外国から来た人は戒厳令かと思う」(加藤紘一・自民党元幹事長)などの慎重意見に押され、対象を限定する修正を余儀なくされた。
 当初の与党案は自衛隊の警備対象として、(1)在日米軍基地など国の防衛のため重要な施設(2)首相官邸や国会、皇居など国政の中枢機能施設(3)原発など侵害された場合、著しく公共の安全を害する施設、の3分類を指定。自衛隊派遣には防衛庁長官と国家公安委員長の協議や首相の承認を要件とし、警備期間も事前に定めることにしていた。
 ところが、流れが変わったのは21日、自民党の総裁経験者と首相との会談。与党案は自衛隊の警備対象の範囲が明確になっておらず、中曽根康弘元首相が「警察との関係など、細心の注意を払う必要がある」と指摘したほか、橋本龍太郎元首相も反対意見を述べた。自衛隊法改正をめぐっては警察庁や同庁関係議員も反発した。
 これに対し、自民党国防部会には対象を限定することに強く反発する声がある。
 
 
 
 
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