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2001/09/21 毎日新聞朝刊
[社説]自衛隊派遣 国際社会の総意による行動を
 
 同時多発テロに対し、小泉純一郎首相は7項目の「当面の措置」を発表した。自衛隊の派遣が大きな柱である。私たちは今回のテロを自由な民主主義社会への重大な挑戦と受け止めてきた。その意味で日本が当事者意識を持つのは当然だ。だが、自衛隊による軍事作戦への支援は、その根拠や目的を見定めたうえで、国際社会の総意に基づく行動として行われるべきである。
 首相が対応策をまとめ、訪米準備に入ったことは評価したい。しかし、自衛隊派遣に踏み切るには、米国の軍事行動について見極めるべき重要な点がある。
 米国はウサマ・ビンラディン氏を事件の首謀者とほぼ断定し、アフガニスタンにあるとみられる拠点の攻撃を言明している。ビンラディン氏は98年の米大使館爆破事件で起訴されたが、今回は詳しい証拠が明らかではない。
 ビンラディン氏をかくまってきたといわれるタリバンのイスラム聖職者会合は20日、同氏の出国勧告を決めた。米国は支援組織の壊滅まで念頭に作戦準備をしている。仮にビンラディン氏が出国しても、そうした攻撃を行うのか。あるいは「テロ支援国」としてタリバンが実効支配するアフガニスタン全体を攻撃するのか。
 湾岸戦争の場合、イラクがクウェートを侵略した。国家対国家の戦争だった。今回は犯行声明もなければ、特定国家の関与も明確な証明がない。
 首謀者と、テロを計画・実行した組織は法の下に厳正に処断されなければならない。そのための有効な行動に日本も積極的にかかわるべきだろう。だが、米国が取ろうとする軍事行動は最終目的が分かっていない。泥沼化したベトナム戦争の悪夢を再び見る恐れが皆無ではない。「ゴール」はあらかじめ明らかにされる必要がある。
 首相が自衛隊派遣のよりどころにする国連安保理決議1368号は、首謀者としてビンラディン氏を特定したものではない。タリバン政権やビンラディン氏の組織を標的とした武力行使の根拠にするのは無理があるのではないか。
 こうした点を見据えつつ、国際社会の総意に基づく行動に自衛隊を派遣する可能性を冷静に考えるべきだ。周辺事態法の拡大適用を主張する見解がある。だが、日米同盟に基づく同法は国際協調の行動という点でも予想される事態にそぐわない。その点で新法による対応には説得力がある。
 新法で「特例」を認めたとしても、自衛隊による後方支援そのものに憲法に触れる部分がありうる。戦闘地域での米軍への武器・弾薬輸送は武力行使と一体化するから困難、というのが政府見解だ。パキスタンへの物資輸送は戦闘に巻き込まれる可能性がある。護衛艦の事前派遣も情報収集の目的から逸脱してはならない。
 米国が直接の当事国である今回のケースは、同盟国としての対米支援の側面と国際社会の一員としての側面が混在する。その中で軍事行動の目的、期間、性格を見極めて対応を決めることが重要だ。
 
 
 
 
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