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1999/04/30 毎日新聞朝刊
同盟新時代・ガイドラインが意味するもの/下 関連法案、経済摩擦の緩衝材に
◇自自公体制、促進の効果も
 訪米を目前に控え、日米防衛指針(ガイドライン)関連法案が衆院を通過する前日の26日。政府与党連絡会議であいさつする小渕恵三首相は自信に満ちていた。
 「29日から米国を訪問します。これまで多くの首相が訪米していますが、公式訪問となると12年ぶり。非常に光栄なことだ。自分の巡り合わせを感じる」
 法案をめぐる前夜の自民、自由、公明3党の修正協議決着について自自両党幹部をねぎらった言葉に続けての訪米への言及だった。出席者のだれもが「巡り合わせ」という表現に、「12年ぶりの公式訪米」と「日米防衛指針関連法案通過という手土産を携えての訪米」を重ねあわせ、首相のご機嫌ぶりを納得した。
 
 「安保再定義」を日米両首脳がうたい上げた日米安保共同宣言から丸3年。新防衛指針の日米合意から1年7カ月。この間、米政府は「朝鮮半島危機」という「当面の有事」を念頭に、「早期の法整備」を求め続けた。衆院通過が確実視されていた20日、フォーリー駐日米大使は「米国は国会審議に大きな関心を持っている。法案が首相の訪米前に衆院を通過するなら、それは素晴らしいことだ」と相好を崩した。その賛辞は、法案成立への米側の強い期待だけでなく、駐日大使として、法案の衆院通過で首相訪米を成功させることができるという確信と安どの心情を吐露したものにほかならなかった。
 日米関係は経済・通商問題で時にぎくしゃくすることがあり、経済が生き物である限り避けて通れない。その時、深化した安保関係は、強固な日米同盟維持の保証であり、両国の衝突を避ける緩衝装置となる。小渕政権にとって、防衛指針関連法案成立にめどをつける作業は、「橋本政権から引き継いだ仕事」(首相)であるかどうかにかかわらず、今回訪米を通じて日米同盟の強固さをアジア、世界にアピールするための不可欠のテーマだった。
 衆院防衛指針特別委員会の山崎拓委員長は「衆院で(政府案のまま)通して、参院で修正するという案もあった」と審議経過を振り返る。「しかし、それでは日米首脳会談で明確な話ができない。提案(政府案)通り成立する可能性があると誤ったメッセージを(米国に)伝えることになる。(首相訪米前日の)28日までに各党間の協議を通じて修正したうえで通過させたかった」と語る。
 法案成立のめどばかりでなく、その内容も首相訪米までに確定させておかなければ首脳会談の成功はないとの強い意向があった。米側は「我々が望んでいるのは、最終的な法律が、日本や地域の安全保障にかかわる事態が発生した時に迅速な対応を保証するものとなることだけだ」(フォーリー大使)との姿勢だった。
 自衛隊による船舶検査の規定が最終盤で削除されるなどの修正はあったが、山崎氏の発言は法案の内容にも注目する米側の意図を受けた政府与党の構えを象徴していた。
 
 法案の衆院通過は「外」に向かって「日米同盟のあかし」となったが、その審議経過は「内」において「自自公体制の促進剤」となった。「(3党の法案修正合意で)自自公が強まったとは思わない」(冬柴鉄三公明党幹事長)という当事者の弁とは裏腹に、国会を切り回した古賀誠自民、二階俊博自由、草川昭三公明3国対委員長の「いい関係」(政府首脳)は、3党のみつ月ぶりを物語っている。
 自自連立勢力では参院で過半数に達しない中で、与野党の対立点となりがちな安全保障問題で公明党を引き入れた意味は大きい。小渕政権は自らの政治基盤を強化した。衆院の現行選挙制度での次期衆院選を念頭に、3党間で選挙協力を模索する動きさえ表面化している。法案審議が促進した自自公体制の時代に永田町のトップとなった「巡り合わせ」も、小渕首相の自信につながっているのかもしれない。
【岸本正人】
 
 
 
 
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