1998/12/27 毎日新聞朝刊
[社説]防衛予算 反省が真に生かされたか
1999年度予算政府案の決定に伴い防衛関係費も決まった。
総額は4兆9322億円で、前年度比の伸び率はマイナス0・2%と2年連続して抑制型になった。
98年の防衛庁・自衛隊は不祥事続きだった。
調達実施本部(調本)を舞台にした巨額背任事件ではキャリア組の職員や防衛装備品メーカーの役員ら多数が逮捕された。背任事件をきっかけに組織的な証拠隠滅疑惑も表面化した。
そればかりではない。富士重工業による中島洋次郎容疑者(衆院議員、元防衛政務次官)への贈収賄事件まで摘発された。
一連の事件や疑惑を通じて国民の間に、「防衛機密」というベールの陰で、不正や税金の無駄遣いが横行しているのではないか、との不信感が広がった。
その反省から防衛庁は11月、証拠隠滅疑惑に関する最終報告の中で「人事の刷新、調本の解体を含む抜本的な組織改革、戦後防衛行政の総決算を行い、国民の信頼回復に努める」との決意を披歴した。
防衛庁にとって来年は「出直し改革の年」でなければならない。その視点から99年度防衛費を見ると、一定の苦心のあとがうかがえる。
その一つは、防衛装備品の調達制度を透明化するための体制作りに乗り出したことだ。そのために防衛調達適正化経費2億5000万円を用意した。
防衛装備品メーカーによる水増し請求や、調本による不正な返還額の圧縮がまかり通った背景には、調本内部に相互けん制の機構がなかったことや、調本をチェックする立場の内局の機能が働かなかったことなどが挙げられる。
官民のもたれあい構造や無責任体制が、メーカーや調本職員の不正行為を許してきたわけだ。
このため適正化経費は、主として外部の専門家による監視、チェックのための費用にあてられる。具体的には監査法人による調査制度の導入、弁護士などで構成する監視委員会の設置、原価計算の専門家である公認会計士2人の常駐などが予定されている。
調達業務が公正に行われているかどうかについて、こうした第三者が目を光らせれば、ミスの防止や不正に対する抑止力になるはず、と防衛庁は説明している。
改革の二つ目は、装備品の調達費用を99年度から3年間で10%削減する計画を打ち出したことだ。当初は5年間で10%削減の方針だったが、内部で検討した結果、2年前倒しにした。
これも調達制度への批判が高まったためで、具体的には装備品の規格や仕様書を見直すことによってコスト減を図るという。今のところ99年度1年間で4%分、金額にして220億円を削減できるという。
やればできるものだ。節約や効率化がほかにもできないか、もっと切り込んでいくべきだろう。
万全とは言えないものの、調達制度の改革に一歩踏み出したことは歓迎できる。これを国民向けの単なるポーズに終わらせてはならない。
背任事件の捜査は年明けも続くと言われている。そうだとしても、防衛庁・自衛隊は、今までのように隠すことばかりに汲々(きゅうきゅう)とするのではなく、国民に開かれた調達行政の実現を急ぐべきだろう。
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