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1998/11/15 毎日新聞朝刊
[社説]自衛隊派遣 人道支援の役割を果たせ
 
 ハリケーン「ミッチ」の直撃を受けた中米ホンジュラスに向け、自衛隊の緊急医療援助隊が出発した。
 援助隊は陸上自衛隊員で構成し、医師7人を含む80人。ホンジュラスの首都テグシガルパ市内にテントを張り、被災者の治療に当たるほか防疫活動も実施する。
 これに必要な装備や物資を運ぶ航空自衛隊のC130輸送機6機も現地に向かった。
 自衛隊の海外活動については、国際平和協力法に基づく国連平和維持活動(PKO)として、カンボジア暫定統治機構、モザンビーク平和協力活動、ルワンダ難民救援、ゴラン高原の兵力引き離し監視のために自衛隊を派遣済みである。
 今回の派遣は、このPKO協力法に基づくものではなく、国際緊急援助隊派遣法によるものだ。
 同援助隊派遣法は、アジア・オセアニア各国で大規模な自然災害が起きた際、救助・医療チームを派遣するため1987年に制定された。
 当初は、国際協力事業団(JICA)や各省庁、民間の医師、自治体職員らの派遣にとどまっていたが、92年の法改正で自衛隊も派遣できるようになった。被災地で衣食住を自前で確保できる「自己完結能力」を持っている部隊は自衛隊しかない、という理由からだった。
 しかし、資金や物資、医療の専門家を求めるケースが多く、自衛隊への要請は、これまで皆無だった。今回はホンジュラス政府から要請があり、初のケースとして出掛けることになった。これで、現行法に基づく自衛隊の海外派遣はすべて実現したことになる。
 政府は、国際貢献の観点からも今回の自衛隊派遣の意義は大きいと説明している。確かに、現地の惨状を聞けば、こうした人道的な救援活動は必要だろう。
 ハリケーン「ミッチ」は10月下旬、ホンジュラスをはじめ、ニカラグア、グアテマラ、エルサルバドルで猛威を振るった。
 とくにホンジュラスの被害は大きく、外務省によると、同国だけで死者は約5300人、行方不明者は約1万1000人にも達している。後遺症としての飢餓や伝染病が深刻化しており、国連は今月2日、加盟各国に緊急援助を求める総会決議を採択した。
 これに応え、すでに米、英、仏、オランダ、カナダ、メキシコなどの軍隊が現地入りし援助活動を続けている。
 日本からは遠い国だが、日本とホンジュラスとの関係は意外に深い。ホンジュラスにとって日本は最大の援助供与国だし、今も多くの青年海外協力隊員が現地で活動中だ。
 今回の派遣部隊は、武器は携行しない。派遣部隊に対する安全確保はホンジュラスの軍隊や警察官が約束してくれているという。
 一部に「地球の裏側にまで自衛隊が出掛けていく必要があるのか」といった疑問も出てはいるが、被害の甚大さ、両国関係などを総合的に見れば、今回の自衛隊派遣を多くの国民も支持するのではないか。
 自然災害を含む非軍事・平和構築分野での国際貢献は、今後も求められるのではないだろうか。それに備え防衛庁・自衛隊は、今回の経験・教訓を訓練方法の改善や派遣組織の見直しに活用すべきだろう。それがまた国内での災害救援出動の際に生かされるに違いない。
 
 
 
 
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