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1999/02/03 毎日新聞朝刊
[社説]周辺事態法案 修正点が整理されてきた
 
 衆院予算委員会を舞台にして、日米防衛指針(ガイドライン)関連法案をめぐる政府と野党の論戦が続いている。
 私たちは、日米防衛指針関連法案が国会に提出されて以降、法案には危うい部分やあいまいなところが多過ぎる、国会での詰めた検討が必要だと主張してきた。
 自自連立協議の過程で「国連平和活動」への参加問題が急浮上し、焦点が拡散した面もあったが、日米防衛指針関連法案に関すれば、争点や修正点などが次第に整理されてきた。その点は歓迎できる。
 危うさの代表例が、周辺事態が起きた際の後方地域支援など、米軍への協力に関する「基本計画」の取り扱いだ。
 法案は、基本計画を決めた場合、首相はその内容を遅滞なく国会に報告しなければならないとしている。要するに、どんな米軍協力をしたとしても、事後に報告すれば十分であって国会承認は必要ない、という姿勢である。
 国会報告も「遅滞なく行う」とはいうものの、期限は切られていない。このため報告が米軍協力の終了後になる場合さえ考えられる。
 そんなことになれば、国会は単なる「追認機関」でしかなくなる。野党各党がシビリアンコントロール(文民統制)の面から「事前承認」への修正を主張しているのは当然であり、支持できる。
 米軍協力は、全国の自治体や一般市民も無関係ではない。いかに戦闘地域から離れた場所での協力だといっても、一歩間違えれば戦闘に巻き込まれかねない。派遣された自衛隊員や民間船舶の船員らが危険な目に遭うことも予想される。
 日本有事の際の防衛出動や、国連平和維持活動(PKO)本体業務の平和維持軍(PKF)派遣は、国会の事前承認が必要とされている。
 これらを考え合わせれば、国会による事前チェックは欠かせない。
 あいまいさの方の代表例は、周辺事態安全確保法案の言う「周辺」の範囲である。
 これまで政府は、周辺事態について「事態の性質に着目したものであり、地理的な概念ではない」「あいまいにしておくこと自体が戦略的に都合がいい」などと説明してきた。
 米国との関係上、範囲をぼかしておきたいとの思惑からだろうが、これだと日米安保条約の適用範囲である「極東およびその周辺」との間に矛盾が生じてしまう。
 野党側は、そこを突くと同時に、小沢一郎・自由党党首の「周辺にはロシア、朝鮮半島、中国、台湾が入る。日本語として当たり前だ」との発言を与党内の見解不一致だと批判した。たまらず、政府は「地理的要素も含んでいる」(高村正彦外相)「日米安保条約の目的の枠内であり、安保条約を超えるものではない」(小渕恵三首相)と、少しずつ軌道修正を図りだした。
 政府・与党は早期の衆院通過を目指しているという。しかし、拙速であってはならない。論議はまだ入り口に立った段階でしかないからだ。
 法案は、日米安保体制の質や枠組みを大きく転換する内容を含んでいる。周辺諸国も目を凝らしている。政府・野党ともに、その点を見据えた冷静な論議を重ね、危うさやあいまいさのない内容に、きちんと手直ししていかなければならない。
 
 
 
 
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