1998/04/09 毎日新聞朝刊
[社説]周辺有事新法 危うさばかりが目につく
政府は8日、日米防衛新指針(ガイドライン)に関連して、日本周辺有事(周辺事態)の際の自衛隊の米軍支援活動などを盛り込んだ法整備の概要を与党3党に提示した。
概要は(1)周辺有事が起きた際の米軍への後方地域支援活動を規定した「周辺有事新法」(仮称)の制定(2)在外邦人の救出・輸送手段として航空機に加え、自衛隊の艦船派遣を可能にするための自衛隊法の改正(3)現在、平時に限定されている日米物品役務相互提供協定(ACSA)の周辺有事版への改定――の3本柱で構成されている。
政府は与党内での調整を済ませた後、今月下旬には法案を国会に提出したい考えだ。
しかし、概要は米軍との武力行使の一体化や憲法で禁じられている集団的自衛権の行使ともからんで多くの問題点を抱えている。与党3党は慎重のうえにも慎重な姿勢で協議を重ねるとともに、その経過や結果を国民に十分に説明すべきだ。対米約束だから、日米安保再定義の総仕上げだから、といった理由だけで、拙速に処理するようなことがあってはならない。概要はこれまでの日本の安全保障・防衛政策を大きく転換する内容を含んでいると言っても過言ではないからだ。
最大の問題点は周辺有事新法に関連したものだ。
新法は、その目的について「わが国の平和と安全に重要な影響を与える事態に際して、わが国が実施する措置、その実施手続きなどを定め、もってわが国の平和と安全の確保に資する」と規定している。
さらに自衛隊がとる具体的な活動としては米軍に対する後方地域支援、米兵らの捜索・救難、不審船舶に対する検査(臨検)の3点を挙げ、これらの活動に入る際、政府は基本計画を閣議決定し、国会への報告はその後に行うとしている。
しかし、これでは周辺有事とはどんな事態を指し、だれがいつ周辺事態と認定するのか、米軍への後方地域支援に踏み出すまでの間、日米間でどんな事前調整が行われ、場合によっては日本の主体的な判断で後方地域支援を断ることが可能なのかどうかが不明である。
成り行き次第では、憲法で禁止された海外での武力行使につながりかねないケースさえ心配されるというのに、国会での論議や承認を経ないまま閣議決定だけで支援活動に踏み込むというのも問題だ。
政府は「迅速な対応が必要なので国会へは報告で十分だ」と説明しているが、これではシビリアンコントロール(文民統制)の形がい化を招きかねない。国会軽視と批判されても仕方がないのではないか。
この日の与党協議の場では、社民党やさきがけから「周辺事態の認定手続きが盛り込まれていないのはおかしい」「国会の承認を必要とせず、報告だけにとどめるというが、それでいいのか」といった批判や質問が出された。当然の反応だろう。
このほか、在外邦人救出のために派遣する艦船の中に、輸送艦だけでなくヘリコプター搭載型の護衛艦を含めることの是非、携行する武器の種類や使用基準などもあいまいなままである。
一連の法整備が、米軍に追随し、米軍の行動を補完するだけの「自動参戦装置」となるような事態だけは避けねばならない。
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