1998/03/14 毎日新聞朝刊
[社説]PKO法改正 上官命令に変える危うさ
国連平和維持活動(PKO)協力法の改正案が閣議決定された。
改正案をめぐっては自民、社民、さきがけの与党3党間での調整が続いていた。法改正に慎重だった社民党が、さらに検討を続けることなどを条件に閣議決定を認めた。
改正点は(1)現在、隊員個人の判断にゆだねられている武器の使用について、原則として上官の命令によると変更する(2)全欧安保協力機構(OSCE)などの地域的機関の要請に基づく選挙監視活動にも人員を派遣できるようにする(3)人道的な国際救援活動のための物資協力については停戦合意がない場合でも実施できるようにする――の3点だ。
今回の改正について政府は「これまでの経験を踏まえた最小限の手直しだ」と説明している。
選挙監視活動や、武器・弾薬を除く人道的な物資協力については、それぞれに改正した方が機動的に活動できるというメリットもあり、やむを得ないと考える。
しかし、上官の命令による武器使用への変更に関しては問題がないわけではない。政府は「統制を欠いた武器の使用により、かえって生命や身体に対する危険もしくは事態の混乱を招くことを未然に防ぐ必要がある」と主張、具体的には「例えば若い隊員がパニック状態になり、けん銃をむやみに撃ったりすれば、かえって事態を悪化させてしまうからだ」と説明している。
この問題は、PKO協力法が審議された7年前の国会でも焦点になった。当時の社会党などは、上官の命令による武器使用を認めれば、憲法で禁じている海外での組織的な武力行使に拡大しかねないと批判した。 最終的に、当時の政府は正当防衛の考え方をもとに、個々の隊員が判断して武器を使用すれば、武力行使には当たらないとの立場をとった。ところがPKO派遣を重ねていくうち、自衛隊員から「個人の判断での武器使用は個々の隊員の心理的負担が大きい」との不満が出てきた。
もともと軍隊は部隊単位で動き、指揮官の命令に従うことで統制がとられるものだ。にもかかわらず武器の使用を個人の判断にゆだねるというやり方をとったこと自体に無理があったわけで、PKO派遣を急ぐあまり政府自らがはまり込んだ矛盾と言ってよかった。
今回の改正案について政府は、上官命令による武器使用の根拠を「自己保存のための自然権的権利」と説明、武力行使には当たらないと主張している。
しかし、従来と今回の説明の差はあまりにも大きい。上官命令による組織的な武器使用が、憲法の規定を踏み越えることにならないのか。政府には明確に説明する責任と厳格な歯止め措置を講じる義務がある。
歯止め措置に関連して改正案は「上官は自らや隊員の生命、身体を防衛するという目的の範囲内で適正に武器を使用する」と、一応の枠を定めているが、この条項が厳正に守られるような明確な基準を作るべきではないか。上官が判断を間違える場合も考えられるからだ。
またPKO参加5原則は、停戦合意が崩れた場合、一時業務を中断できると規定している。武器を使わざるを得ないような事態になる前に、現場を離れるなどの予防策を改めて明確にしておくことも必要だ。国会では詰めた議論をしてほしい。
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