日本財団 図書館


1997/06/09 毎日新聞朝刊
グレーゾーンに踏み込む 朝鮮半島有事を想定−−ガイドライン見直し中間報告
 
 「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)見直しの中間報告は、対米協力の検討項目について最終報告までに「修正・追加があり得る」としているとはいえ、解釈上、合憲違憲の判断が分かれる「灰色領域(グレーゾーン)」にまで踏み込んでいる。日本周辺有事にはどんな事態が想定され、憲法上、自衛隊などの対応はどこまで可能なのか――。
【橋本利昭】
 「特定の状況、地域を対象にしてはいない」。中間報告策定に当たり、外務・防衛担当者はこう口をそろえる。
 だが、報告の中核をなす「周辺事態における協力」の検討項目の冒頭に、難民を想定した人道的活動や邦人救出など非戦闘員を退避させるための活動が掲げられており、政府関係者によれば、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)での混乱から大量の難民が発生した場合を、まず想定しているという。
◇難民を受け入れるか
 難民の一部は日本海沿岸から流入する可能性が大とみられる。領海への侵入は海上保安庁がまず防止できるが、人道的に、難民は受け入れざるを得ないとの見方だ。しかし、難民受け入れ態勢が国内ではほとんど整っておらず、法務省などとの調整が課題となる。武装難民が紛れ込むことも警戒し、自衛隊法72条(防衛出動)で対処すべきか、議論が分かれるところだ。
◇船舶の臨検は可能か
 国連の経済制裁が決まったり、戦闘の恐れが高まった場合、周辺の船舶に停船を命じて戦時禁制品を積載していないか調査し、取り締まる臨検を求められる可能性がある。公海上は自衛隊法82条(海上における警備行動)で出動するが、臨検によって敵国への軍事的な補給を断つことにもつながり、武力行使との一体化や、集団的自衛権行使の疑いが生じる。臨検を拒む相手から銃撃されて応戦すれば、海外での武力行使になりかねない。
◇邦人の安全確保は?
 国外にいる日本人の避難方法も問題となる。朝鮮半島の場合は約7000人の邦人が滞在、旅行など短期滞在者は約1万人。米軍に空港などへ集めてもらい、そこから航空自衛隊が自衛隊法100条の8(在外邦人等の輸送)によって、政府専用機、輸送機で日本まで運ぶことになる。ただ、法律上「安全が確保されていると認める」ことが条件となっており、緊急を要する際に、この条件が満たされるかどうか疑問が残る。
 一挙に運ぶため艦船、護衛艦の使用も「国内的に論議してもらう問題」(外務省)としているが、武器を備えた艦艇は海外での武力行使に抵触する恐れがある一方、派遣の条件として政府専用機と同様の「安全な状況下」を求めれば、「そもそも安全なら、重装備をした艦船は不必要」との論議も出てきそうだ。米軍人やその家族の輸送も考えられるが、敵対行為とみなされ、日本が攻撃を受けることもあり得る。
◇機雷の除去の判断は
 米軍からの期待が高いのが、世界一ともいわれる機雷掃海技術。紛争周辺海域に機雷が敷設された場合、米軍は洋上からの上陸が困難になる。政府は1991年4月、湾岸戦争終結後のペルシャ湾に掃海艇を派遣するに当たり(1)停戦合意(2)処理するのは遺棄機雷など――を条件に閣議決定しており、停戦が成立していない状況で、米軍から機雷除去を要求された場合、どうするか。また、機雷がどの国によって敷設されたか不明なケースはどうか。公海上でも、紛争国の領海(沿岸から12カイリ)に近い公海上は可能か、線引きで判断が分かれる。
◇米軍支援はどこまで
 有事が長引けば、公海上で米艦船に対する武器・弾薬など物資の輸送も必要になり得る。一般的に武器・弾薬の輸送は、燃料、水、食糧などに比べ、戦闘行動をとる米軍との一体的な活動とみなされる可能性は大きい。日米物品役務相互提供協定(ACSA)に基づき日米共同訓練で行われている戦闘機への燃料補給やエンジンの修理なども行われる可能性がある。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION