1995/09/18 毎日新聞朝刊
[社説]日米安保 新協定につきまとう疑問
日米安全保障条約の意味を再定義する作業が、日米両国間で進められている。最終的には今年十一月、クリントン米大統領の来日時に行われる日米首脳会談で、共同声明などの文書を発表して日米安保の堅持・強化を明確にする見通しだ。
その観点から、いま両国間で二つの協定を締結しようという交渉が続いている。
一つは、在日米軍駐留経費の負担増に関する新しい特別協定である。
同協定は、米軍基地で働く日本人従業員の基本給と諸手当、米軍が公用のため調達する電気、ガス、上下水道などの料金を日本側で負担するというもので、日本政府の出費は今年度の場合、千四百七十七億円に達している。これに日米地位協定に基づく施設提供費(思いやり予算)を加えると、駐留経費負担の総額は二千七百十四億円に上る。
現行の特別協定は今年度末に期限が切れるため、両国は新協定締結に向けた交渉を続けてきたが、ほぼ合意に達し、今月二十七日、ニューヨークで行われる両国の外交・防衛担当閣僚による安全保障協議会(2プラス2)で調印する運びだ。
新協定で日本側は、新たに米空母艦載機による夜間発着訓練(NLP)の硫黄島への移転経費負担、日本人基地従業員の四百人の増員などを受け入れた。これに伴う日本側の負担増は三十億円以上になる。
新協定について日本政府は、日米安保体制を維持するために必要最小限のコストと説明しているが、どうだろうか。問題点もある。
その代表例がNLPの硫黄島への移転経費負担だ。こうした負担を認めれば、今後あらゆる米軍の訓練経費を負担せざるを得なくなるのではないかとの危ぐを持つ。
日本側は「日本政府の要請に基づく訓練の移転費用だけに限るとの歯止めをかけるので心配はない」と説明しているが、この問題に関しては憲法で禁じられた集団的自衛権の行使に触れるのではとの疑念さえ指摘されている。新協定は今月末、召集される臨時国会で審議されるが、詰めた議論が必要だ。
二つ目の協定は、自衛隊と在日米軍との間で燃料などを相互に融通し合う「物品・役務融通協定(ACSA)」である。
衛藤征士郎防衛庁長官は今月初め、ハワイ・ホノルルでの日米防衛首脳会談で、ACSAを来春にも締結する方針を米側に示し、そのための自衛隊法改正案などを次期通常国会に提出する考えを表明した。
同時に衛藤長官は、国連平和維持活動(PKO)に自衛隊が参加した場合、ACSAを適用して米軍と協力する可能性もあると言及した。
日本政府はこれまで、ACSAの適用対象は平時及び日米共同訓練に限定すると説明してきたが、長官発言はこれを踏み越えたものだ。内閣法制局が、集団的自衛権の行使につながりかねないと否定的な見解を示したのは当然の反応であろう。
沖縄県は十三日、米兵三人が女子小学生に乱暴した事件を契機に、日米地位協定の見直しを外務省に要請した。同協定に基づき米兵の身柄は起訴まで日本側に引き渡されないため、捜査上の制約が出ているからだ。
日米安保条約の再定義の作業に、こうした「負の部分」の見直しも含めていくことが日米両国にとって真に必要ではないだろうか。
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