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1995/08/26 毎日新聞朝刊
[社説]ゴランPKO 懸念を残す自衛隊の派遣
 
 自衛隊の国連平和維持活動(PKO)部隊が来年二月、カナダの輸送部隊を肩代わりする形で、中東のゴラン高原に出かけることになった。 社会党が二十五日の臨時中執委で、同高原で展開中の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)への自衛隊派遣を容認することを決めたからだ。同党は今年五月、ゴラン高原PKOは、凍結されたままの平和維持軍(PKF)本体業務との一体性を完全に排除できず、自衛隊派遣は「時期尚早」と反対してきた。これに対して自民党やさきがけは派遣すべきだと主張、このため社会党内の意見調整が焦点になっていた。
 結局、社会党は自衛隊派遣に伴う懸念は相当程度、払拭(ふっしょく)されたとして態度を変えた。ゴラン高原をめぐるイスラエルとシリアの返還交渉をはじめ、現地情勢に大きな進展は見られないのに、である。
 村山富市首相が来月十二日から、エジプト、サウジアラビアのほか、ゴラン高原を占領しているイスラエルと、同高原からのイスラエル軍の撤退を求めているシリアを日本の首相として初めて訪問する。社会党としては、首相歴訪を成功させるには、いつまでも派遣反対と言っているわけにはいかないと踏んだのだろう。
 また連立政権の体力が弱まる一方という政治状況の中で、社会党が反対姿勢を貫こうとすれば、政権崩壊の危機に直面しかねない、という意識が働いたに違いない。参院選が終わったことも一因かもしれない。
 村山首相は今年六月、クレティエン・カナダ首相と会談した際、自衛隊の二月派遣について「前向きに検討している」と表明した経緯がある。自衛隊派遣は国際公約になっていたわけだから方針変更もやむを得ない、と社会党は言うのだろうが、果たしてそうか。懸念すべき点がいくつも残ったままだ。
 その第一は、PKF本体業務への参加見直し問題との関連だ。PKF本体業務とは、武力紛争の停止状況や武装解除の監視、捕虜交換の援助などを指す。現在、UNDOFで活動中のオーストリアとポーランドの歩兵部隊はまさに、そうした任務を実施しており、輸送部門とはいえ自衛隊が両国部隊を支援することは、PKF本体業務に限りなく近付くことを意味する。
 連立与党は、PKFは凍結したままにしておくというが、今回の自衛隊派遣自体が、PKF本体業務になし崩し的に参加することにならないのだろうか。
 第二の懸念は、独自の判断で撤収できるのか、武器を使った共同訓練に参加せざるを得ないのではないか、武器や弾薬を輸送することはないのか、といった点だ。社会党は、問題はないし、国連やUNDOF側と文書で確認すると言っているが、本当に大丈夫か。
 もし、これらの点について明確な確認が得られない場合は、派遣を取り消すぐらいのことがあっていい。その代わりにイスラエルやアラブ諸国が求めている社会・経済発展への支援をより強化する道もある。首相の中東歴訪はまさに、その手始めではないのか。
 連立与党は、プロジェクトチームを作ってPKO参加の在り方を探るという。当然だが、その場合に必要なのは、PKFの凍結解除などに限定せず、長期的な視点でPKOの在り方を検討し直すことだろう。
 
 
 
 
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