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1995/08/17 毎日新聞朝刊
大綱見直し・中期防策定など・・・防衛政策、転換点 “不惑”自衛隊、認知され
◇脱冷戦、課題に
 戦後五十年の今年は、防衛政策でも大きな転換点になる。政府は、冷戦時代の一九七六年に作った「防衛計画の大綱」を年内に抜本的に見直す。「必要最小限度」の防衛力と日米安保体制が柱だった防衛体制を、冷戦崩壊後の国際情勢に対応し、国際貢献にどうかかわらせるかが焦点となる。(政治部・本谷夏樹)
 朝鮮戦争(五〇―五三年)で激化した米ソ・東西対立の中で五四年に創設された自衛隊は、その後ほぼ四十年間、国民の「認知」を求める歴史が続いた。自衛隊を明確には認めてこなかった社会党が、村山政権の誕生を機に、自衛隊「合憲」に転換。自衛隊からみれば、ようやく「国論二分の時代は終わった」(防衛庁首脳)。
 しかし、現行の大綱は、ソ連を潜在的脅威と想定した「限定的かつ小規模な侵略」への対処として「一カ月くらいは持ちこたえ、米軍の支援を仰ぐ」という想定の「基盤的防衛力」を持つという考え方を基本にしている。ハト派の三木政権時代に軍拡を避けるために編み出した理論だ。
 しかし、ソ連崩壊で脅威は潜在的にも消滅し、当然のこととして大綱の見直しを迫られた。防衛庁の「在り方検討会議」は、「地域紛争の危険が増大」「ロシア、中国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)などに囲まれた状況は不変で、アジア・太平洋地域は不安定」と分析し、引き続き基盤的防衛力を維持し「多様な危険」への対処を目指すという考えに立つ。しかし、もともと冷戦発想の下で構築した「仮想」の理屈では分かりにくい。
 極東ロシア軍の減衰という現実に、北方重視の師団配置を見直し、対潜水艦哨戒部隊の削減などを検討している。だが、防衛庁は装備のハイテク化、近代化を進めるとの理由で防衛費の縮小に抵抗し、「平和の配当は、過剰な軍備をしてきた核保有国の問題。骨格の防衛力しか持たない日本の場合、ぜい肉はない」と主張する。
 今年は大綱の見直しとともに、次期中期防衛力整備計画とその初年度の九六年度防衛予算が同時進行で策定される。総額一兆円に上る次期支援戦闘機(FSX)の量産化がほぼ決まり、数兆円事業になる戦域ミサイル防衛(TMD)構想の調査も進む。冷戦後の日米安保の意義・目的の再確認と在日米軍に物資やサービスを提供する物品役務融通協定(ACSA)の締結問題などの案件も目白押しだ。
 軍事分野は、国の安全を守るという名目で「秘密」の鎧(よろい)をまとい、「専門家」の支配が貫徹しやすい。一方で、平和な時代は「官僚化」という問題も抱える。国防というよりは、予算獲得のために「脅威」を作り出す傾向は、米ソ対立時代に東西双方にみられた。
 自衛隊の規模と実力はどうあるべきか、防衛費はどの程度にすべきか。国民の関心と監視の目が一層、求められる。
 
 
 
 
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