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1990/10/22 毎日新聞朝刊
海部首相の孤独 「協力法」「新解釈」揺れ目立ち指導力に疑問符
 
 国会は二十三日から衆院国連平和協力特別委員会の審議が始まり、海部首相にとっても正念場を迎える。国連平和協力法の作成過程では方針が二転三転、さらに国連軍への自衛隊参加に関する新憲法解釈問題でも発言の揺れが目立ち、自民党に対してはもとより、政府内でも首相のリーダーシップに疑問符が付いた。首相は政府内の態勢を立て直し、国会を乗り切り、来月四日投票の参院愛知補選に全力をあげる構えだが、頼みの内閣支持率も低下傾向で、最近は政権担当の難しさをひしひしと感じているようだ。
◇ひとりぼっち
 「日曜日に多くの役人を集めて勉強会を開き“サンデー俊樹”と言われるのも孤独感、不安感を解消するためだろう」というのは首相周辺の分析だ。
 海部首相は自民党内最小の河本派に属し、党内の主要ポストはすべて他派閥に押さえられている。加えて宇野内閣を除く歴代内閣のような学者、文化人の多彩なブレーンもいないため、かなりの孤独感を味わっているようだ。
 特にこれまで党内の“海部側近”と言われた西岡総務会長とは平和協力法の自衛隊の位置付けをめぐっての考え方が合わず、西岡会長の強硬姿勢が首相の“揺れ”の一因にもなったようだ。
 女房役の坂本官房長官とも同長官が年上ということもあって「腹を割って話し合える」という関係ではないという。
 このためか、首相は最近、協力法に慎重姿勢をとる後藤田正晴元官房長官とひんぱんに電話連絡を取り合っているという首相側近の証言もあり、自衛隊の国連軍参加を認める憲法の新解釈を見送ったのも後藤田氏の影響があるのではないかとの見方もある。
◇結束固め
 協力法案のとりまとめ過程では協力隊に参加する自衛隊の身分、形態について「休職・出向」「併任」「業務委託」など方針が揺れ、海部首相は自民党、外務省、防衛庁のはざ間で方向性を見失ったかのようだった。
 新憲法解釈問題でも、自民党側に押される形で「集団的安全保障」の概念を取り入れようと外務省に検討を指示。内閣法制局が反発すると新解釈の提示を見送った。
 首相が外務省主導で協力法案の関連作業を進めていることに「他省庁は全くシラけきっている。外務省のお手並み拝見という空気だ」(首相周辺)という声も広がり、首相の中東歴訪中、協力法のとりまとめがうまく進まなかったことから、首相と坂本官房長官、石原官房副長官の連携がうまくいっていないとの指摘もある。
 さらに国会答弁でも多国籍軍の定義などをめぐって食い違いも目立った。首相はこれを随分気にして二十日には中山外相、石川防衛庁長官、坂本官房長官、大島、石原両副長官らを官邸に集め、特別委に向けての勉強会を行うなど、政府内の結束を固めるのに必死だ。
◇気になる世論
 首相の最も気にしているのはこれまで高率を維持してきた内閣支持率が落ちてきたこと。高い支持率が党内の“反海部”の動きを抑えてきた面もあり、周辺では「協力法の必要性を訴えるため全国を行脚したら」の声もあるほどだ。
 特に地元の参院愛知補選は協力法が争点になっているため勝負どころ。首相は今月二十八日と投票日直前の来月三日の二回、自民党候補応援のため愛知入りする計画で、首相自身が前面に立つ構えだ。
 
 
 
 
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