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1988/08/09 毎日新聞朝刊
海自と米軍が共通の戦闘指揮体系
 
 空と海、水中からの複合脅威に備える米海軍の「戦闘指揮システム」が海上自衛隊に導入され、日米共通の海上戦闘原則となっていることが八日、明るみに出た。同システムは、米空母機動グループの戦闘能力を十分発揮させるため、各任務部隊の裁量権を大幅に認めた現代戦の基本マニュアル。海自は昭和五十七年以来、環太平洋合同演習(リムパック)を通じて同システムを習得、「指揮命令系統は別」としてきた日本近海での日米共同訓練のみならず、海自単独の演習にも、その考えを採り入れていた。防衛庁は同システムの存在自体を秘密にしてきただけに、戦闘原則まで及んだ日米「一体化」が憲法により禁じる「集団的自衛権」とのからみで、論議を呼ぶのは必至だ。
 米海軍の戦闘指揮システムは、現代戦の特徴とされる「秒」単位の複合脅威にどう対応するかという狙いから生まれ、一九八〇年前後に確立された。正式にはCOMPOSITE・WARFARE・COMMAND(CWC、複合戦闘指揮)概念と呼ばれる。
 「従来のように、いちいち最高指揮官の命令を待って行動したのでは間に合わない」と、空母を中核とする機動グループのそれぞれに対し、対空、対水上、対潜水艦戦など任務別に指揮権を大幅に委譲。機動グループが全体として空母を護衛する中で、空母の艦載機が制約を受けずに、相手基地を攻撃・爆撃できる態勢をつくろうとした。
 同システムの「教本」が初めて海自に提出されたのは、海自として参加した二回目のリムパック82(昭和五十七年)だった。以来、今夏まで四回のリムパック参加は、手直しされた最新版の教本を習得する場となっていた。
 海自は毎年一回「日本有事」を想定した総がかりの大演習を実施、五十九年からは空母も加わった日米共同訓練が大演習に組み込まれている。その中で、戦闘指揮システムに基づいた空母護衛の訓練が積み重ねられ、同システムを応用した独自のシーレーン(海上交通路)防衛の訓練も行われてきた。
 海自が同システムを導入した背景に1)複合脅威への対応は、日本にとっても最大の課題2)日本有事の際には、米空母の敵基地打撃能力に頼らざるを得ない−−などの事情があるとされる。
 米海軍関係者は「海自はリムパックでマスターした戦闘指揮システムを日本へ持ち帰り、自分たちの訓練にも使っている」と証言した。
 自衛隊は「専守防衛」に徹し、外国から侵略された場合、憲法の「個別的自衛権」に基づき、侵略を排除するというのが、政府の立場。その際、相手の基地に対する攻撃は日米安保条約による米軍の支援に期待、平時の日米共同訓練も「指揮命令系統を別にした共同行動で、集団的自衛権に当たらない」としている。
◇水面下で進行する制服レベルの一体化
 日米共通の「戦闘指揮システム」の存在は、日米共同訓練、海自艦艇の米空母護衛を「集団的自衛権に当たらない」とする防衛庁見解の枠組みにとどまらない問題をはらむ。制服レベルの「日米一体化」が想像をはるかに超え、水面下で進行している現実を浮かび上がらせた。
 戦闘指揮システムの海自導入が問題になる点は二つある。一つは、海自も結果的に米軍の指揮を受けていることになるのではないかとする疑問だ。「日米共同訓練で一元的指揮はなく、両国指揮官同士の調整」とする防衛庁見解だけでは、律し切れまい。
 もう一つは、同システムが空母艦載機の相手基地打撃能力を前提とし、空母と同一行動をとるすべての艦艇部隊に対し、空母「護衛」の役割を課していることだ。
 防衛庁はこれまで「日米共同訓練参加の米空母護衛も、それを主目的としない限り、日本防衛に必要な個別的自衛権の範囲内」とする立場をとってきた。しかし、同システムが空母護衛を究極の目標にしている以上、この説明もまた、あまりに現実にそぐわない。
 どこまでが個別的自衛権の発動であり、どこまでが集団的自衛権に当たり憲法解釈上も許されないのかを、防衛庁はこの際、はっきりさせるべきだ。
 そうでないと、国民の目に見えないまま、「制服組の日米一体化」が既成事実になっていく恐れがある。防衛庁が国会対策を気にする余り、現実をとりつくろってきた「つけ」が回ってきたという見方もできる。
(社会部・三浦正己)
 
 
 
 
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