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1988/04/12 毎日新聞夕刊
日米「秘密特許資料移転取り決め」の書簡交換
 
 軍事技術に関する米国の「秘密特許」の日本への移転問題で、政府は十二日の閣議で、日米相互防衛援助協定(MDA)に基づく交換公文「秘密特許資料移転取り決め」を決定し、宇野外相とマンスフィールド駐日米大使間で書簡が交換された。同時に実施のための細目取り決め(MOU)が防衛庁と米国防総省の担当者間で取り交わされたうえ、米軍事特許を日本でも「秘密扱い」とするための手続き細目も両政府が口上書でそれぞれ受諾、これら一連の取り決めなどは同日付で発効することになった。この結果、米軍事技術の日本による利用への道が開かれた一方で、日本も「秘密扱い」が求められることになり、日米の軍事的結び付きが一段と進むことについて議論を呼びそうだ。
 「秘密特許資料移転取り決め」は軍事装備品の技術に占める高度技術の役割の増大に伴って、日米間相互の技術利用と秘密保護の両面から日米の課題として昨年来協議されてきた。とくに航空自衛隊の次期支援戦闘機(FSX)の日米共同開発にあたっては、日本側がこれまで「ブラックボックス」に納まっていた米国の「秘密特許」の内容についても知らねばならない必要性が出てきた。
 今回の取り決めは、米国の秘密特許資料を日本が提供を受けるための枠組みを作るもので、具体的には1)米政府は日本政府に対し、秘密特許資料を、防衛目的のため両政府の権限ある当局(防衛庁と米国防総省)の合意により供与する2)日本政府は実施のための細目取り決め(MOU、非公開)に従い、防衛目的のため秘密特許資料を使用する権利を有する3)この取り決めは現行の関係法令(例えばMDAに基づく秘密保護法や民法、商法など)や関連する日米間の協定(例えばMDAや防衛目的の特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日米政府間協定など)に従って実施される−−となっている。
 また手続き細目は、これまで“死文”となっていた防衛目的の特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための協定三条を生かし、米国の「秘密特許」の軍事技術を日本でも類似の扱いとするための手続きを定めたもので、特許出願の手続きや書式、秘密解除手続きなどを定めている。
 日米相互間の武器技術供与については、これまで日米相互防衛援助協定(MDA)などで大枠としてはできあがっていた。だが具体的な実施細目があったのは日本から米国への武器技術供与(五十八年)だけで、各種装備のライセンス生産に関する個別取り決めでは中枢技術は「ブラックボックス」に隠されていた。今回の一連の取り決めで「日米相互通行への道が開かれた」(防衛庁筋)と「ブラックボックス」がなくなることへの日本側の期待は大きい。
 だがその一方で、今後、日本が米国並みに「機密」「極秘」「秘」という形で機秘保護のための対応を迫られるのは必至。今では日米の技術格差はかつてほど大きくない。政府はこれまでの国会答弁で「仮に米で秘密特許になっていても、日本で全く独自に開発した同じ技術のものが特許出願されれば通常の手続きに従う」と公開する方針を強調してきた。
 だが今回の手続き細目には「(米国の)出願人は、米合衆国の関係法令に従って、日本国で(その秘密特許と同じ)協定出願を行うことに対する同日政府特許商標庁の許可を得なければならない」との規定がある。米国は米国人の出願人の場合、出願を許可しないことができるわけだ。では日本人の場合はどうか。日本人の出願人が独自に開発した米秘密特許と同じ技術を、日本の特許庁に出願しようとした場合「米秘密特許の内容」を知り得る政府が個人なり企業に対し出願を見合わせるよう求める政治的判断の介入する余地はないのか。
 民需中心に成長した日本と、軍需中心の米国とはおのずから秘密への“温度差”がある。日本の特許制度が公開原則であり、米国に秘密特許制度があるのもそのためだ。日米の軍事的緊密化の中でその差がなし崩し的に埋められるようなことがあってはなるまい。そのあたりの疑問点は今後、より明確にしていく必要がありそうだ。
(政治部・石井富士男)
 
 
 
 
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