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ときどき妄想を口にしたり周囲に訴えたりして困っています。
 
 妄想というのは、「真実ではないことを信じ込んでしまう」ことです。「誰かに狙われている」「皆が悪口を言っている」「テレビで自分のことを放送している」など、どのような内容であっても、患者さんにとって、妄想はまぎれもない現実なのです。
 妄想は、本人にとってはそれが現実なので、それが間違っているという証拠をまわりの人があげても、それを正すことはできません。ですから、「そんな馬鹿な」とか「そんなことあるはずないよ」などと、決して言わないようにしましょう。妄想は患者さんにとっては、まぎれもない現実なので、否定すると、かえっていらいらさせ、パニック状態へと追いつめます。では、どのように妄想に対応したらよいのでしょうか?
 まず大切なことは、患者さんがたいへんな状況にあることを理解することです。
 ほとんどの妄想は患者さんにとって、不愉快で、恐ろしい内容です。ですから、妄想の内容にあまり触れずに、「大丈夫だ。どんなことがあってもお父さんがお前を守ってやるよ」「何が起こってもお母さんはあなたの見方よ」と言ってあげてください。
 妄想は基本的には薬で抑えるべきものですが、妄想に対するこのような周囲の対応が、少しずつでも現実へと引き戻していく作業となります。
 
※月刊『ぜんかれん』誌2001年5月号より一部抜粋
 
 
一日中ボーッとして、家でごろごろしていることが多く、つい周囲もいらいらしてしまいます。
 
 「いつまでも何やってるのよ」とか「こっちまでいらいらする」などと、確かに、ついつい言ってしまいがちですね。これは患者さんにとって、一番つらく、ストレスを与える対応です。
 なまけているように見える状態の多くは、統合失調症の特徴の一つで、激しい状態が続いた後の、いわば後遺症ともいうべきもので、本人にとってどうにもならない、やる気の起きない、疲労感の濃い状態なのです(消耗期/病気(統合失調症など)の経過の説明参照)。
 こんな時期には、「批判的な」「非難するような」周囲の言動は患者さんには大きなストレスとなるばかりで、症状の悪化や再発につながりかねません。
 周囲としては、「そのまま受け止める」「少しでもよいところを探してほめる」など、発想を転換することが、患者さんを支えることになります。
 
 
もう希望がない、死にたいなどと言われると、こっちまで死にたい気持ちになります。
 
 口癖のように、そのように言う場合もありますが、多くの場合は、治りかけのときに、「死にたい」などと口にするようですね。そんなとき大切なのは、それに周囲まで巻き込まれない、ということです。病気のはげしい症状が少しおさまって、患者さんが自分のおかれている状況を少しわかりかけてきた、つまり、以前よりはよくなってきた証拠と、まずは捉えましょう。
 そして、「ここまでよくなってきたんだから、だいじょうぶだよ。一緒にいるからね」という前向きのメッセージを伝えるようにしてはどうでしょう。新薬の情報や新しい治療への期待を述べることも、ときには、効果的なようです。ただし、前向きのメッセージといっても、「がんばろう」という言葉はかえってプレッシャーになるので気をつけましょう。また、間違っても「私もつらい」などと言って患者さんのペースに巻き込まれることのないようにしましょう。
 
 
いろいろ話をするのですが、あまり聞いていないようで心配です。
 
 どんな話し方をしていらっしゃるのでしょうか。もしかしたら、発病前と変わらぬ調子でいろいろたたみかけるように話していらっしゃいませんか。患者さんは一度に多くの情報を受け止めることが苦手になっています。
 「ああしてこうして」といくつもの用件を伝えるのではなく、内容を「短く・具体的に・簡潔に」話すことです。
 例えば漠然と「部屋の掃除をして」というのではなく、「この部屋の古新聞をまとめて」と内容を具体的にすることがポイントです。
 
 
以前に比べると、本人はどうしてよいかあれこれ迷うことが多いようですが、どう対処したらいいでしょうか。
 
 病気をすると、どうしても従来より決断力が鈍くなる傾向があるようですね。あれこれ迷うことが多くなるのも、そのせいかもしれません。対応としては、患者と共に迷うことがないようにすることです。どうしたらいいかを聞かれたときは、「私はこう思う」と、ずばり答える方が患者さんは安心するようです。
 ただし、決めるのは患者さん自身に任せることが大切で、あくまで、「こちらの意見を迷わずに言う」ということです。また、「大事なことは一回限りでなく、場面に応じて繰り返して言う」ようにした方がいいようです。
 
 
こちらが何か言うとすぐカッとなるのでうっかり何も言えません。
 
 こちらとしては必要なことを言っているつもりでも、案外よけいなことまで口にしてはいないでしょうか。カッとするのは、何に反応してなのかを見極めることが大切ですが、一般に「よけいなことは言わない」、「そのとき・その場で」が鉄則です。
 
何しろ思いがけないことで、わからないこと、不安なことでいっぱいです。どこに行けば相談したり、アドバイスをいただけるのでしょうか?
 
 病気や治療、リハビリテーション、社会復帰等に関する相談については、以下の機関にご相談されてみてはいかがでしょうか。
 
◆各保健所や保健センターでは保健師、精神保健福祉相談員が、精神保健相談日には医師が相談を受けています。
◆精神保健福祉センター(各都道府県に設置)では「精神保健相談」としてソーシャルワーカーなどが相談を受けています。
◆医療機関(病院やクリニック)のソーシャルワーカーに相談することができます。
◆全国精神障害者家族会連合会(全家連)の相談室、家族会都道府県連合会でも相談を受けています。
※全家連相談室 TEL03−5828−1990(月〜金10時〜16時)







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