日本財団 図書館


2)1997年(平成9年)の調査結果
 本調査は宍道湖のヤマトシジミの大量斃死が起きている最中の8月16日、17日に行った。
 なお漁場のシジミの斃死状況を正確に調査する目的で、湖南の好漁場であるSt.11(玉造)を調査地点に追加した。
 
(1)無機的生息環境(表4)
 漁場の調査地点での標本採集時、採泥標本はいずれもヤマトシジミの死貝の腐敗臭がした。
 渚沖50mまでの漁場の底質は、細砂・砂がほとんどで、シルト・detritusを有していたのはSt.4(伊野)であった。渚沖50〜200mは、細砂・砂又は砂が多く(St.5、8、10、11、13)、細砂・シルトはSt.2、St.9であった。この様な底質にdetritusを多く含有していたのはSt.1、3、4、6、7であった。200m以上の沖の漁場では、シルト・detritusがほとんどで(St.1、2、4、6、9、10、11)、砂・detritusはSt.3、7、8であった。detritusを含まなかったのはSt.5(白石)の漁場(細砂・砂)と、St.13(松江温泉)の漁場(砂)であった。
 水温は24.0〜27.8℃の範囲で、表層水温と底層水温の差はほとんどなかった。塩素イオン濃度は、St.1(平田)では20〜94ppmで淡水の状況を呈し、St.2(斐川)も90〜367ppmと低値であった。他の調査地点も131〜514ppmの範囲で、通常の宍道湖の塩素イオン濃度1/6〜1/10の低値であった。
 
表4. 1997年の調査地点の底質、水深、水温塩素イオン濃度、漁場
(1997年8月16日、17日調査)
調査地点 水深(m) 水温℃ 塩素イオン濃度(ppm) 底質 漁場
表層 底層 表層 底層
St.1
(平田)
a 1.3 25.0 25.0 77 20 細砂 機械操業区
b 2.5 24.0 25.0 23 65 細砂・シルト・デトリタス
c 3.0 24.0 24.0 43 94 シルト・デトリタス
St.2
(斐川)
a 1.0 25.0 26.0 163 164  
b 2.3 25.5 25.0 90 92 砂・シルト  
c 2.7 24.0 25.0 165 367 シルト・デトリタス  
St.3
(一畑口)
a 1.5 26.0 26.0 183 184 細砂 機械操業区
b 2.2 26.0 26.0 153 169 砂・細砂・デトリタス
c 2.7 26.0 25.0 131 390 シルト・細砂・デトリタス
St.4
(伊野)
a 1.5 27.0 26.0 220 250 細砂・シルト・デトリタス 手掻操業区
b 2.0 27.0 26.0 260 220
c 2.7 27.5 25.0 230 360 シルト・デトリタス
St.5
(白石)
a 2.0 25.0 25.0 380 417 細砂・砂 手掻操業区
b 3.3 26.0 24.0 404 420
c 3.7 26.0 24.0 406 433
St.6
(津ノ森)
a 1.3 27.5 27.0 193 197 手掻操業区
b 2.2 27.5 25.5 210 230 砂・デトリタス
c 2.7 27.0 25.5 230 220 シルト・デトリタス 機械操業区
St.7
(来待)
a 2.2 26.5 26.0 430 450 砂・粗砂 手掻操業区
b 2.7 26.5 26.2 435 457
c 2.9 26.6 26.3 440 457
St.8
(鳥ヶ崎)
a 1.9 27.0 26.0 514 463 手掻操業区
b 3.6 26.5 26.0 435 435 機械操業区
c 3.7 26.5 26.0 473 496 砂・デトリタス
St.9
(長江)
a 2.2 26.8 26.2 223 236 砂・シルト 手掻操業区
b 3.3 26.8 26.0 220 232 機械操業区
c 4.0 26.8 25.0 237 243 シルト・デトリタス
St.10
(玉湯)
a 2.0 27.0 26.5 402 418 砂・細砂 機械操業区
b 3.5 27.0 26.3 410 420
c 4.5 26.5 26.3 403 430 シルト・デトリタス
St.11
(玉造)
a 2.1 27.5 27.5 405 433 砂・細砂 手掻操業区
b 2.6 27.2 27.0 370 384
c 4.5 27.0 27.0 370 392 シルト・デトリタス
St.12
(嫁ヶ島)
a 1.8 27.8 27.5 371 382 砂・細砂 手掻操業区
b 1.5 27.8 27.8 404 406
c 2.9 27.8 27.3 402 400 砂・デトリタス 機械操業区
St.13
(松江温泉)
a 1.5 27.3 27.0 352 359 手掻操業区
b 1.5 27.3 27.0 343 355
c 2.8 27.3 27.0 343 347
a:岸より沖50mまで、b:岸より50m〜200m、c:岸より200m以上沖
 
(2)シジミ漁場のヤマトシジミ生息数(表5、図345
 殼長17〜<30mmの漁獲対象貝の生息数は、St.13(松江温泉)では1m2当り1,117個体で、前年の生息数の1.2倍、St.3(一畑口)は464個体で前年比1.4倍の生息数がみられた。しかし他の漁場では、いずれも生息数の著しい減少がみられた。これらの漁場の中で比較的生息数の多いSt.6(津ノ森)は541個体で、前年比38%、(以下括弧内%は前年比を示す)、St.4(伊野)は393個体(69%)、St.7(来待)は328個体(61%)であった。最も生息数が減少したSt.9(長江)は247個体(70%)であった。St.10(玉湯)は271個体(51%)、St.2(斐川)は233個体(50%)、最も生息数の少ないSt.1(平田)は103個体(39%)であった。
 以上の様に漁獲対象となる殻長17〜<30mmの貝の生息数は、St.3(一畑口)とSt.13(松江温泉)の漁場以外は、著しく減少し、平均減少率は1/3(31%)で、漁獲量の減少が推定された。
 殻長15〜<17mmの貝の生息数は、各漁場とも著しい減少がみられた。生息数の比較的多いSt.13(松江温泉)でも1m2当り788個体(27%)で、St.11(玉造)は319個体、St.8(鳥ヶ崎)は239個体(74%)、St.6(津ノ森)は192個体(70%)、St.7(来待)は175個体(61%)、St.10(玉湯)は160個体(72%)、St.3は155個体(20%)であった。生息数の少ないSt.2(斐川)は96個体(34%)、St.9(長江)は71個体(86%)、最も生息数の少ないSt.1(平田)は36個体(72%)であった。
 以上の様に生息数の減少は、殻長17mm以上の成貝の生息数の減少よりも著しく、平均減少率は前年の62%で、生息数は前年(1996年)の約1/3に激減し、次年の漁獲量の激減が推定された。
 
表5. 1997年の漁場のヤマトシジミ生息数(1997年8月16日、17日調査)
スミス・マッキンタイヤ採泥器で採集、底平面積2500cm2(500cm2×5本)当りの生息数、( )1m2当りの生息数
調査地点名 水深(m) 殻長(mm)
2〜<5 5〜<8 8〜<15 15〜<17 17〜<30
St.1
(平田)
a 1.3 8 (32) 36 (144) 139 (556) 20 (80) 61 (244) 264 (1056)
b 2.5 0 (0) 0 (0) 4 (16) 4 (16) 5 (20) 13 (52)
c 3.0 0 (0) 2 (8) 7 (28) 3 (12) 11 (44) 23 (92)
St.2
(斐川)
a 1.0 33 (132) 81 (324) 168 (672) 53 (212) 129 (516) 464 (1856)
b 2.3 24 (96) 70 (280) 77 (308) 19 (76) 42 (168) 232 (928)
c 2.7 0 (0) 1 (4) 0 (0) 0 (0) 4 (16) 5 (20)
St.3
(一畑口)
a 1.5 93 (372) 25 (100) 129 (516) 73 (292) 180 (720) 500 (2000)
b 2.2 110 (440) 57 (228) 111 (444) 25 (100) 98 (392) 401 (1604)
c 2.7 8 (32) 28 (112) 60 (240) 18 (72) 70 (280) 184 (736)
St.4
(伊野)
a 1.5 41 (164) 12 (48) 32 (128) 43 (172) 79 (316) 207 (828)
b 2.0 117 (468) 86 (344) 75 (300) 35 (140) 137 (548) 450 (1800)
c 2.7 61 (244) 54 (216) 16 (64) 16 (64) 79 (316) 226 (904)
St.5
(白石)
a 2.0 28 (112) 44 (176) 28 (112) 36 (144) 151 (604) 287 (1148)
b 3.3 40 (160) 34 (136) 14 (56) 28 (112) 138 (552) 254 (1016)
c 3.7 15 (60) 50 (200) 32 (128) 30 (120) 100 (400) 227 (908)
St.6
(津ノ森)
a 1.3 60 (240) 24 (96) 42 (168) 91 (364) 125 (500) 342 (1368)
b 2.2 171 (684) 66 (264) 100 (400) 49 (196) 227 (908) 613 (2452)
c 2.7 33 (132) 31 (124) 25 (100) 4 (16) 54 (216) 147 (588)
St.7
(来待)
a 2.2 143 (572) 89 (356) 135 (540) 54 (216) 114 (456) 535 (2140)
b 2.7 57 (228) 58 (232) 85 (340) 54 (216) 67 (268) 321 (1284)
c 2.9 36 (144) 84 (336) 51 (204) 23 (92) 65 (260) 259 (1036)
St.8
(鳥ヶ崎)
a 1.9 253 (1012) 189 (756) 188 (752) 74 (296) 145 (580) 849 (3396)
b 3.6 224 (896) 203 (812) 62 (248) 59 (236) 95 (380) 643 (2572)
c 3.7 75 (300) 73 (292) 133 (532) 46 (184) 67 (268) 394 (1576)
St.9
(長江)
a 2.2 120 (480) 287 (1148) 103 (412) 22 (88) 126 (504) 658 (2632)
b 3.3 181 (724) 49 (196) 78 (312) 29 (116) 54 (216) 391 (1564)
c 4.0 43 (172) 13 (52) 30 (120) 2 (8) 5 (20) 93 (372)
St.10
(玉湯)
a 2.0 149 (596) 115 (460) 64 (256) 53 (212) 99 (396) 480 (1920)
b 3.5 64 (256) 37 (148) 97 (388) 54 (216) 93 (372) 345 (1380)
c 4.5 1 (4) 4 (16) 28 (112) 13 (52) 11 (44) 57 (228)
St.11
(玉造)
a 2.1 446 (1784) 241 (964) 233 (932) 44 (176) 80 (320) 1044 (4176)
b 2.6 111 (444) 114 (456) 226 (904) 193 (772) 192 (768) 836 (3344)
c 4.5 1 (4) 0 (0) 4 (16) 2 (8) 10 (40) 17 (68)
St.13
(松江温泉)
a 1.5 348 (1392) 187 (748) 374 (1496) 132 (528) 193 (772) 1234 (4936)
b 1.5 465 (1860) 536 (2144) 962 (3848) 341 (1364) 476 (1904) 2780 (11120)
c 2.8 330 (1320) 403 (1612) 260 (1040) 118 (472) 169 (676) 1280 (5120)
a:岸より沖50mまで、 b:岸より沖50m〜200m、 c:岸より200m以上沖
 
表6. 1997年の漁場のヤマトシジミ斃死数(1997年8月16日、17日調査)
スミス・マッキンタイヤ採泥器で採集、底平面積2500cm2(500cm2×5本)当りの斃死数、( )1m2当りの斃死数
調査地点名 殻長(mm)
2〜<5 5〜<8 8〜<15 15〜<17 17〜<30
St.1 (平田) 2 (3) 21 5 (7) 12 27 (36) 15 10 (13) 27 34 (45) 30 78 (104) 21
St.2 (斐川) 1 (1) 1 12 (16) 7 36 (48) 13 20 (27) 22 11 (15) 6 80 (107) 10
St.3 (一畑口) 6 (8) 3 36 (48) 25 219 (292) 42 107 (143) 48 302 (403) 46 670 (894) 38
St.4 (伊野) 13 (17) 6 16 (21) 9 182 (243) 60 132 (176) 58 300 (400) 50 643 (857) 42
St.5 (白石) 15 (20) 15 33 (44) 20 142 (189) 66 145 (193) 61 651 (868) 63 986 (1315) 58
St.6 (津ノ森) 46 (61) 15 44 (59) 27 202 (269) 55 99 (132) 41 276 (368) 40 667 (889) 38
St.7 (来待) 59 (79) 20 84 (112) 27 486 (648) 64 355 (473) 73 492 (656) 67 1476 (1968) 57
St.8 (鳥ヶ崎) 13 (17) 2 35 (47) 7 423 (564) 52 285 (380) 16 366 (488) 54 1122 (1496) 37
St.9 (長江) 100 (133) 22 49 (65) 12 234 (312) 53 72 (96) 57 140 (187) 43 595 (793) 34
St.10 (玉湯) 6 (8) 3 8 (11) 5 125 (167) 40 89 (119) 43 178 (237) 47 406 (542) 32
St.11 (玉造) 27 (36) 5 38 (51) 10 331 (441) 42 247 (329) 51 360 (480) 56 1003 (1337) 35
St.13 (松江温泉) 12 (16) 1 21 (28) 2 126 (168) 7 128 (171) 18 92 (123) 10 379 (506) 7
 
 殻長8〜<15mmの貝は、殻長15〜<17mmの成貝とほぼ同様の生息数の著しい減少がみられた。その中でも生息数の多いSt.13(松江温泉)は1m2当り2128個体(4%)と減少率は少なかった。次いで生息数の多いのはSt.11(玉造)で617個体、St.8(鳥ヶ崎)は511個体(81%)で著しい減少がみられた。St.3(一畑口)は400個体(34%)、St.7(来待)は361個体(79%)、St.2(斐川)は327個体(36%)、St.9(長江)は281個体(81%)、St.10(玉湯)は252個体(86%)、St.4(伊野)は164個体(91%)で、最も生息数の少ないSt.5(白石)は99個体(91%)であった。生息数の減少が約80%以上であったのは、湖北のSt.4(伊野)、St.6(津ノ森)、St.9(長江)は81〜91%の減少を示し、湖南のSt.5(白石)、St.7(来待)、St.8(鳥ヶ崎)、St.10(玉湯)は79〜91%の生息数の著しい減少がみられた。以上の様に殻長8〜<15mmの幼貝、若い成貝の生息数が、前年(1996年)と比較して約1/3で、平均減少率は63%であった。このことは今後の漁獲対象貝の資源の回復に時間を要するものと推定された。
 殻長5〜<8mmの幼貝の生息数は、成貝の生息数の減少とは異なり、ほとんどの漁場で増加傾向がみとめられた。比較的生息数の多いSt.13(松江温泉)は1m2当り1501個体で、生息数は前年比3.6倍の増加、St.8(鳥ヶ崎)は620個体で、2.0倍、St.11(玉造)は473個体、St.9(長江)は465個体で1.2倍、St.7(来待)は308個体で2.2倍、生息数の増加傾向がみられた。St.10(玉湯)は208個体で、前年とほぼ同様であった。生息数が少なくて、前年と比較して生息数の増加傾向がみられたのはSt.5(白石)の171個体で1.3倍、St.3(一畑口)の147個体、1.6倍であった。生息数が少なくて、しかも生息数の減少がみられたのは、St.1(平田)の51個体(10%)St.6(津ノ森)の161個体(19%)であった。以上の様に殻長5〜<8mmの幼貝生息数は前年生息数と比較して増加傾向がみられ、殻長8mm以上の貝とは明らかに異なっていた。
 殻長2〜<5mmの稚貝の生息数は漁場により異なり、生息数の多いSt.13(松江温泉)は1m2当り1524個体で前年比1.1倍の増加、St.11(玉造)は744個体、St.8(鳥ヶ崎)は736個体、2.5倍、St.9(長江)は459個体で1.6倍の増加がみられた。生息数の減少がみられたSt.6(津ノ森)は352個体(49%)、St.7(来待)は315個体(51%)、St.4(伊野)は292個体(49%)と前年約1/2の生息であった。またSt.10(玉湯)は285個体(22%)、St.3(一畑口)は281個体(14%)、St.5(白石)は111個体(30%)と生息数の減少がみられた。生息数の著しく少ないSt.2(斐川)は76個体で1.4倍の増加、St.1(平田)は11個体(60%)であった。以上の様に殻長2〜<5mmの稚貝の生息状況は漁場により生息数が前年より増加傾向にある漁場と、著しく減少している漁場がみられた。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION