1−2−3 回答結果の注目点
(1)海洋政策の論議
わが国の海洋政策は、科学技術・学術審議会海洋開発分科会や海洋関係省庁連絡会議などの場で総合的に議論されるべき性質のものであると考えられ、前項で整理した分科会答申においてもその重要性が指摘されているが、今回の調査結果を見ると、現時点では具体的な政策論議やそのための体制づくりにまでは至っていないことが示唆される。
(2)国内法の準用について
わが国では、国連海洋法条約を批准したのにあわせて国内法が整備されたが、「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」の第3条において、わが国のEEZまたは大陸棚における天然資源管理・海洋環境保全、海洋科学調査などには「わが国の法令を準用する」と規定されているのみで、具体的な法の準用については記されていない。
今回の調査では、EEZ管理に準用される国内法にどのようなものがあるかは一部の省庁を除き明らかにできなかったが、これは、具体的な事案を想定しないと対象となる法令が特定できないという事情があるものと推察される。
したがって、今後はケーススタディとしてEEZおよび大陸棚の管理に係る具体的な事案、例えば、中国海洋調査船による海洋調査や油流出事故、外国漁船の違法操業等を想定して、どのような国内法が準用されるのか事案ごとに詳細に検討することが望ましいと考えられる。
(3)大陸棚調査ついて
EEZ管理に係る海洋情報に関して、まず大陸棚調査の重要性が指摘できる。国連海洋法条約において、領海基線から200海里を超える海底であっても一定の条件を満たせば海底に関する主権的権利が最大350海里まで認められるが、そのためには平成21年(2009年)までに科学的な根拠資料を「国連の大陸棚の限界に関する委員会」に提出し、審査を受けることが必要である。
海上保安庁では、昭和58年から海底地形調査等を実施しており、平成14年度の時点で国土面積の1.7倍にあたる65万平方キロメートルの海域に延長の可能性があることが判明しているが、平成11年に大陸棚委員会において新たなガイドラインが策定されたことにより、新たに地殻の判定や堆積岩厚の計測等が必要になっている。
平成15年度からは、これらの新たな基準に対応する調査が実施されることとなっているが、この調査に従事するのは海上保安庁の調査船のみであり、平成21年の提出期限までのスケジュールに余裕がなくなっていることに加え、地殻判定のためのボーリング設備がなく、金属鉱業事業団の協力が不可欠になっている。
後者については、平成14年6月に内閣に設置された「大陸棚調査に関する関係省庁連絡会議」において対応が協議され、関係省庁が連携して取り組むこととなっているが、前者について、海上保安庁が保有する測量船だけでは提出期限内に科学的な根拠資料をとりまとめることが困難である可能性も高く、文部科学省や経済産業省の協力に加え、民間事業者の導入など今後早急な対応策を講じることが望まれる。
(4)離島の保全・活用について
沖ノ鳥島や南鳥島などを含む小笠原村が、わが国のEEZの約1/3を有していることから考えても、EEZおよび大陸棚の管理における離島の位置づけは重要であることがわかるが、単にEEZおよび大陸棚を空間的に確保するだけではなく、海域の監視・警備や海洋調査等の拠点や情報通信のインフラ整備等においても重要な役割を担うものである。
特に、硫黄列島や沖ノ鳥島、南鳥島のように居住者がおらず、日常的に活発な経済活動が行われにくい遠隔離島については、国が主体的に管理を行うべきものである。
平成11年2月に改正された海岸法では、自治体(都道府県知事)において管理することが著しく困難な海岸は、政令で指定された海岸保全区域の管理を国(主務大臣)が行うこととされ、沖ノ鳥島は国によって直轄管理されることとなった。ただし、同法はあくまで海岸保全に係るものであり、海域を含めたEEZの基点となる離島の保全・活用を対象とするものではない。
離島振興法の改正により、離島がEEZの保全上重要な国土であることが明記されたが、具体的な保全・活用策は今後早急に検討されるべき課題である。
(5)海洋情報のインフラ整備について
現在、国内では海上保安庁を中心として、水産庁、気象庁、経済産業省などが海洋調査船や人工衛星、係留系、海底ケーブルなどを利用して海洋データの取得に取り組んでいるが、世界第6位の面積を誇るわが国の広大なEEZおよびその周辺海域をカバーして十分なデータを取得するには至っていない。特に、冬季の北西太平洋や日本海はその厳しい海象条件によりほとんどデータが存在していないなど、技術的な面も含め多くの問題を抱えているのが現状である。
わが国のEEZおよび大陸棚の管理を履行するには、まず「海洋を知る」ことが前提であり、広大なEEZおよび大陸棚を面的にカバーすることはもちろんのこと、大気・海面・海中・海底・海底下を3次元的にカバーする海洋情報の収集・管理システムを早急に構築することが望まれる。
そのためには、現在わが国が保有する海洋調査船や係留系、漂流ブイなどを効率的に運用することはもちろんのこと、AUVや海底ケーブルシステムなどの新しい観測機器・装置を開発することも必要である。
また、広範囲でリアルタイムにデータを収集するためには、高速かつ大容量の通信インフラを整備することも重要であり、通信衛星や光海底ケーブルを活用した海洋情報の通信インフラを整備することも重要である。
(6)海洋観測モニタリングの協働体制
国が行う海洋環境モニタリング調査については、環境省、海上保安庁、気象庁を中心に、関係省庁が連携してわが国周辺海域の水質・底質・生物等のモニタリングを実施している。しかしながら、それぞれの省庁が保有する調査船・測量船の数は限られていることから、広大なわが国のEEZおよび大陸棚をカバーするのは困難であり、数年で一巡する形で観測を実施しているのが実情である。
他方、防衛庁では独自に海洋データを収集・蓄積しているものと推察されるが、これらのデータのうち、水温データの速報値は日本海洋データセンター(JODC:Japan Oceanographic Data Center)に提供されていることはわかっているものの、それ以外の実態は正確に把握できていない。しかし、高度な海洋観測能力を有していることは間違いなく、国防上重要な機密情報を除いた形で、わが国の海洋観測体制の構築に寄与すべきであると考えられる。
また、海洋環境モニタリング調査では、海洋汚染防止法のA海域(水底質)を海上保安庁が、A海域(水質)およびB・C海域(水底質)の水底質を環境省がそれぞれ分担して調査を行っているが、このような海洋観測の役割分担の対象範囲を拡大し、わが国の海洋観測能力を最大限に発揮して効率的な海洋観測を行うことは、経済性の面から見ても有効である。
(7)環境保全と水産行政について
海洋環境の保全に関しては、国際的な枠組みの中でより厳正な管理が求められるとともに、バラスト水による生態系のかく乱や種の多様性の確保という非常に解決が難しい問題も課題として残されており、今後国の環境行政を取り仕切る環境省と、実際にわが国周辺海域で海洋汚染の監視・取締を行う海上保安庁とのより密接な連携が必要であることが改めて明らかになった。
一方で、海洋環境の汚染により深刻な被害を最も受けやすく、かつ、漁場汚染や過剰な漁獲等により環境への負荷原因にも成り得る水産分野については、国や自治体、試験研究機関が連携して資源調査や環境調査を行っているが、そこで得られたデータは、漁場の位置を特定されたくない漁業者等への配慮から、その公開については消極的であった。
沿岸域については、既に総合的な沿岸域管理の枠組みの中で、国土交通省等との連携を進めているが、沖合、すなわちEEZおよび大陸棚における環境保全に関する他省庁との連携施策については、今回の調査結果からは具体的な取り組みが明らかにならなかった。
EEZにおける水産資源管理として取り組んでいるTAC・TAE制度においても、生物を中心とした海洋環境に関する情報は、資源量を推定する上で不可欠な要素であり、他省庁が取り組む海洋環境調査と連携して海洋データの収集に取り組むことは、生物資源の管理に大きく貢献するものである。
したがって、今後水産庁も含めた関係省庁の具体的な連携体制について検討することが望まれる。
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