1−1−3 答申内容の総括
かねてより、わが国の海洋政策は先進諸国のそれに比べて遅れている、縦割り行政の弊害で一体的に取り組まれていない、など様々な場で様々な意見が出されているが、その状況は今日に至っても本質的に改善されてはいない。
答申においても、「わが国の海洋政策の企画・立案においては、総合的な観点から国の総力をあげて取り組むような政策は提案されにくい状況にあった」と明記されており、行政府自身がそのような問題意識を持っていることを明言した点で、徐々に改善する方向に進みつつあることが示唆される。
さらに、「海洋政策全体の基盤整備」において、海洋開発関連省庁連絡会議の役割の拡大や海洋製作に関する新しい専門家組織の設置などに言及している点も、これまでの答申に比較して大きく前進したといえるが、一方で、その具体的な検討については「海洋開発分科会を中心に議論を重ねる」という表現にとどまっている。
行政府内に海洋政策に特化した新たな組織を設置することについては、有識者の中でも意見が分かれるところであり、早急に結論を出すことは困難であると考えられるが、現在の海洋開発関係省庁連絡会議の役割を拡大し、海洋政策に関する実質的な討議を行うことはすぐにでも実現可能であることから、まずは可能な範囲で取り組みを進めることが肝要であると考えられる。
他方、キャッチフレーズとして「海洋を知る」「海洋を守る」「海洋を利用する」の3つの柱を掲げ、それぞれの推進方策を示したことは、わが国の海洋政策に対して国民の理解を得る上で重要な観点であると評価できる。しかしながら、答申の中でも触れられているとおり、これら3つの柱は相互に密接に関連するものであるため、個別に推進方策をとりまとめたことで、相互関連の重要性を薄めてしまった感は否めない。
また、同答申のPR用パンフレットには図1−1に示す概念図が掲載されているが、海を守り、利用するためには、まずその基礎として海を知ることが重要であり、図1−2に示す形がより3つの柱の関係を的確に表現しているのではないかと考えられる。(ちなみに、答申本文では「知る」「守る」「利用する」の順に記述されているが、同パンフレットでは、「守る」「利用する」「知る」の順になっている。)
いずれにせよ、今回の答申で示された方向性を実現するために、今後関係省庁が実質的な連携施策の議論・検討を行うことが重要であり、そのような意味では、わが国の海洋政策論議は緒についたばかりであり、行政府が中心となり早急にその検討体制を整備することが望まれる。
図1−1 「知る」「守る」「利用する」のバランスを示した概念図
出典:答申パンフレット、平成14年8月
図1−2 本来あるべきバランス
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