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(4)航法
 何事にもルール・きまりがあるように、広い海にも船の衝突を防ぐための約束があり、どんな船も守らなければなりません。海の交通ルールには、一般法として『海上衝突予防法』、特別法として『海上交通安全法』と『港則法』があります。
[海上衝突予防法]
 カッターは、〈船舶:水上輸送の用に供する船舟類〉であると同時に、帆を広げてセーリングをしている時は〈帆船〉として規定されます。あらゆる視界の状態で、すべての船舶に適用される航法のうち、最も基本となる【見張り】と互いに視野の内にある船舶の航法のなかで、【帆船の航法】について説明します。
 
【見張り】:海上衝突予防法第5条
 船舶は、周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分判断することができるように、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りをしなければなりません。
 
 セーリング中は、セールによって視野が遮られるために特に正横から前方の見張りを重点的に行い、他の船舶との衝突を防ぐ必要があります。そこで見張り員として専従の団員を指名し、眼による視覚だけの見張りばかりでなく、聴覚あるいは嗅覚などの五感を使った見張りを行わなければなりません。視覚による見張りには双眼鏡を持たせて、適切な見張りとすることも大切です。
 見張り員には、船舶あるいは障害物を見つけたとき、直ちに(1)方位(2)距離(3)状況を艇指揮に報告させることが必要です。
 
【帆船の航法】:海上衝突予防法第12条(抜粋)
2隻の帆船がお互いに接近し、衝突するおそれがある場合における帆船の航法は、
(1)2隻の帆船の風を受けるげんが異なる場合は、左げんに風を受ける帆船は、右げんに風を受ける帆船の進路を避けなければなりません。
(2)2隻の帆船の風を受けるげんが同じである場合は、風上の帆船は、風下の帆船の進路を避けなければなりません。
(3)左げんに風を受ける帆船は、風上に他の帆船を見る場合において、当該他の帆船の風を受けるげんが左げんであるか右げんであるかを確かめることができないときは、当該他の帆船の進路を避けなければなりません。風上は、メイン・スルの張っている側の反対側と定義します。
 
 これらのルールは、(1)右側航行(左舷対左舷)(2)操縦容易なものが操縦困難なものを避けるという航法の原則に基づいて定められています。(3)については、避航判断を明確にするために規定されたものです。(図5.5、図5.6、図5.7参照)
 
 
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図5.5 風上の帆船と風下の帆船との航法
 
 
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図5.6 左舷開きと右舷開きの帆船との航法
 
 
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図5.7 左舷開きの帆船と開きが確かめられない帆船との航法
 
 
[海上交通安全法]
 海上交通安全法は、船舶交通が混雑する東京湾、伊勢湾、瀬戸内海での船舶交通ルールを規定し、船舶交通の安全を図る目的で定められたものです。海域毎に定められた航路の通航方法を中心に示していますので、特にカッターの帆走に関係する内容は含まれていませんが、船舶交通の流れに影響を及ぼすような運航をしてはいけません。
 
[港則法]
 港則法は、港内における船舶交通の安全と港内の整頓を図る目的で、定められたものです。この法律の中でカッターは、“雑種船”に該当します。雑種船とは、汽艇、はしけ及び端舟その他ろかいを使って運転する船舶です。雑種船は、航路を航行する義務はありませんが、同時に航路を航行している船に対しては不安を抱かせてはなりません。また雑種船は、他の雑種船以外の船舶の進路を避けるように規定されています。
 また、帆船の航法は、次のように規定されています。
(1)縮帆航行:帆船は港内では帆を減らすかあるいは引船を用いて航行する。
(2)縫航禁止:帆船は、特別に定めた港(特定港)の航路内をジグザクに航走してはならない。
 
 
(5)帆走心得
 風をセール一杯に受けながら帆走する醍醐味は、チラーを握り舵を操り、セールの向きをあれこれと思案しながら、少しでも速く、少しでも切り上がろうと工夫することにより味わうことができます。しかし、自然を甘くみるととんでもない目に遭うのも事実です。
 次の心得は、安全航海(Safety Sailing)のための心得を示したものです。先人の教訓に基づいて、実際の場面で必要となることを示しました。ただ単に覚えるだけではなく、体得・体感できるように常日頃の練習から実践してください。
1. 風浪が強いときは、ためらうことなく縮帆または収帆する。不安を感じながら帆走してはいけません。
2. 突風などで艇が急激に傾いたときは、次の要領で艇の急激な傾斜を直します。
(1)ジブとメイン・スルのシートを十分に緩めます。
(2)定員は反対舷に移動します。
(3)艇長は艇首が風上に向くようにチラーを操作します。
3. シートを決して固縛してはいけません。
4. 常に見張りを配置して、周囲の状況(接近する他の船舶、航路標識、漂流物など)に気をつけなければなりません。
5. 帆走中に時々下手舵を取る必要がある場合には、帆に受ける風圧が大きいことを示しているので適宜縮帆しなければなりません。
6. 一杯に縮帆した状態で、なお帆に受ける風圧が大きいときはオールで漕ぐ必要がありますが、この場合ジブを利用して順走できる場合があります。
7. 真うしろからの風で帆走する場合、帆走効率は小さく、その上マストを傷める場合があります。
8. 帆走中の艇内は移動物を固縛し、直ちに操作できるようにロープ等を十分に整理整頓します。
9. 島々の多い海域、山の多い海岸に接近して帆走するときは、突然方向の異なる風が強吹することがあるため、指揮者とシートを取り扱う者は十分に警戒しなければなりません。
10. 波浪が大きく海水が艇内に入った場合には、艇の釣合を損なって転覆するおそれがあるため、速やかにあか汲みを用いて排水しなければなりません。
11. 帆走を開始したならば、すぐに帆走状態を点検します。
12. ヤード・スリングの取り方によっては、セールの開き具合に違いがあります。
13. 風力3(小波の大きいもので波頭が砕け始め、泡はガラスのように見え、所々白波が現れる状態)以上で、ウエアリングをする場合には、必ずブレール・イン・セイルとします。
14. タッキングを行うとき、ジブ・シートを緩めて風を抜くと容易に回頭できることがあります。
15. リーフ(縮帆)している時のタッキングは非常に困難です。状況が許す限り迷わずウエアリングを行います。
16. 風浪が強い時、絶対に風下側の海岸に接近してはいけません(リー・ショア)。
17. 他の舟艇と衝突するおそれが切迫しているときは、規則に拘らず衝突を避けるために最善の策を講じなければなりません。
18. 海水が変色している所、大波の立っている所は、水深が浅くなっている兆候ですので、近寄ってはいけません。
19. 三角波の立っているところに進入してはいけません。
20. 磯波のあるところで艇を横にしてはいけません。
21. 安全対策は、確実に行い、確実に行われていることを確認・点検することが大切です。







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