日本財団 図書館


協力:日本財団
3級ヘルパー養成講座 通信 第11号
 
ヘルパーへの道
NPO文化学習協同ネットワーク 2001年12月25日発行
 
共感的理解と基本態度の形成
講師:露木 悦子先生
 
芦花ホーム「やすらぎの会」で感じた!
一番大切なことは響き合うこと。
 
 
 
 ホームに100人やってくる利用者がすぐ仲良くということはなく、トラブルは必ず起こる。痴呆の方も、全てが痴呆な訳ではなく健康な部分も必ずある。そういう考えから「やすらぎの会」というお茶の会を始めた。普段「吸い飲み」で飲んでいる利用者も、お茶碗にしたら2杯も飲んでしまった。羊かんを薄く切って出しても「これは“とらやの面影”ですね」とわかったように、痴呆の人でもちゃんと理解している。その後はようかんも厚くした。ちゃんとその人の気持ちを理解してあげることが、自立していくエネルギーを生んでいく。次の会の時は、その方々が「新茶がいただけるそうですね、もう一杯いただけるそうですね」と他の利用者を誘ってきた。お菓子を食べやすくきざんで出したら「丸いままでください」と言われた。ちゃんと人格を尊重していくことが大切なのだと感じた。お話の会でも、寮母が「この人は痴呆が重度で話せません」という人でもちゃんと話せた。「一番大切なもの」というテーマで話した時、ある人が「祈りです。所長さんがご無事でいますように」と言ってくれ、その言葉に涙が出た。寮母には「痴呆の方の言葉を信用して泣くのですか?」といわれたが、涙が出るということは、心が響き合ったということ。心に響き合うコミュニケーションをとることがとても大切。介護する人と介護される人の響きあいがないと事故が起きてしまう。響きあいがあれば、少々の食事、お風呂、おむつの介助が下手であっても安心して受け入れてもらえる。「やすらぎの会」の後、杖なしで帰っていくお年寄りがいる。その時「杖持っていってください」と言うような、自立のなくなるような介護をしてはいけない。車椅子など、モノが増えて自立が難しくなっているように思う。
 
絵本「白いうさぎと黒いうさぎ」
 *絵本の読み聞かせの会では「白いうさぎと黒いうさぎ」が好評。日本語版と英語版があるが、やっているうちに英語版の方が好評になった。それは何故か?響き合い、英語の方がピッタリとしていたのだと思う。お話の最後の方の「結婚式のダンス」ではみんな踊り出したり、「結婚したいわね」と言い出す人も。心その気持ちを大切にしているうちに、みんな仲良くなって歌を作ろうということになった。それで出来たのが「芦花讃歌」。このことからも、健康で素敵な部分が痴呆の人にものこっているのがわかる。こんなことができるのかと寮母たちも利用者を尊敬するようになった。実際は絵本の読み聞かせの後、露木先生から受講生に発問された。
 お年よりの方たちが、なぜこの本が好きで、この本をきっかけに仲良くなり、コミュニケーションの輪が拡がったと思うか?
 
受講者1(以降、受(1)):昔結婚した人とか、今あった人のこととか考えたのではないか?
受(2):寂しかったという部分もあったのでは。
講師:寂しかったところから、だんだん幸せになっていく、そういう部分が良かったなと思うのですね。
受(3):心に響くモノがあった。
受(4):昔の人とか今の人の出会いを大切にしようかなと考えられる、そういう純粋な願いが伝わったように思う。
受(5):黒いウサギはずっと祈っていた。そういう純粋な願いが伝わったのか。
講師:みんな夢や願いがあって、黒ウサギの思いに引き込まれたのかと思ったのですね。
受(6):自分の思いが通じた、通じ合った、自分たちもそうしたいという思いが絵本の中に入り込ませた。
講師:それが歌につながったのかしらね。
受(7):私はウサギたちがうらやましかった。簡単に思いが通じて良いなあと。
講師:確かに私たちの中ではそんなに簡単に通じない。その気持ちをどのようにうったえたらいいのかが、ヘルパー3級の大切なテーマ。私もいつも夢を持って祈っている。ウサギのような思いになるように願ってみよう。
受(8):どうしたら歌を創るまでにいったのでしょう。
講師:クッション役とか、アプローチする人がいることが大切。お年寄りの思いの実現に協力してあげるのがヘルパー。だからまず、自分がどうしてほしいのかを学んで、それから人の思いを学んでいく。「死にたい」という言葉は「生きたい」と思ったときに初めてでてくる気持ち。「お寂しかったんですね」と声をかけると元気になっていく。「お礼に通帳をあげます」といわれたこともあるが、その気持ちをいただく姿勢がヘルパーの姿勢。おとしよりの気持ちを聴いてあげること。そうすれば、「あ、生きよう」という元気が出てくる。そういう気持ちを学ぶのが今回の講座。
講師:みなさんとても感性がいい。福祉で大切なのは感性が良いこと。みなさんの一言一言がとても素敵で、本にまとめたいと思った。ヘルパーの勉強で「受容」という言葉が良く出てくるが、そのノウハウは、人の気持ちを良く「聴く」こと。それは人を「愛す」ことにつながる。そうするとエネルギーが湧いてきて、自立につながる。モノをもらうことも大切ですが、気持ちを聴いてもらうことが一番大切。それが自立。自立するのは遅くてもいい。今そうしていることは、全て大切。だんだん人とつながり、愛されていくうちに自立していく。それが共感的理解。
 
やってみよう ロールプレイ
 白いうさぎと黒いうさぎのようにやってもらったらどんな気持ちになるのかな。ロールプレイしてみました。
*方法:向かい合って座り、お互いの困っていることを聴きあう。一方が聞く側、もう一方が相談する側になる。
*様子:受講者は、「聴く」姿勢の実践を試みた。講師は、「聴かれた」側の気持ちなどを発表させながらアドバイスを加えていった。どうしても「尋問」になってしまうメンバーたちも多く、「聴く」ことの難しさが明らかになった。
 
 
 
露木先生の総評
 聴いてもらえたというのと聴かれたというのはだいぶんちがう。相手の気持ちとかみ合わないものを聴くのではなく、共感的理解の話しなので、聴いてほしいことを聴いてあげる。アドバイスをしてあげるにしても、一言「私の思いを一言話してもいい?」と話すか話さないでするのとでは、相手の気持ちがちがう。ホームやデイはお金を出していくところ。だから苦情申し立てもある。一生懸命こちらがやっているつもりでも、自分の気持ちを聴いてもらえないと利用者が思えば苦情として出てくる。聴いてあげるとまた会いたくなる。少しずつ聴いてあげる。そうすると、「また話したい」と思える。そんな安心したコミュニケーションが大切。
 
●全体を通じて
 露木先生は、体験や絵本を使うなどして、「受容・共感」という難しい概念を年齢層の若い受講者にでもわかりやすいように伝えていた。そのことが受講者たちの興味を引き出していたと思う。まさに露木先生自身が講義を通じて説明した、他者の思いを尊重して心と心で響き合う、という「共感的理解」の姿勢を実践していた。さらに体験的に共感的姿勢を考えさせた「ロールプレイ」は同時に、普段、聴かれる側にいる彼らの視点を聴く側に転換させ、自分自身を見つめ直させる作業にもなっていた。
 
協力:日本財団
ホームヘルパー3級養成講座 通信 第12号
ヘルパーへの道
NPO文化学習協同ネットワーク 2002年1月2日発行
 
行って来ました。「デイホーム池尻」
 ホームヘルパー3養成講座の締めを飾る施設見学。実際の介護の現場を見学するため、また、今までの学習の成果を試すべく、12月25日、26日の二日間、「デイホーム池尻」に行って来ました。実際の施設に伺うのは初めてというメンバーも多く、緊張していた様子。話に聞くのと実際に触れあうのとは大違いで、とまどいも多い見学だったと思います。中には居心地が良くて、すっかり和んでしまったという人も。みんなどんな感想を持ったでしょうか。
 
★見学一日目★ 12月25日(火)
参加者 糸賀千宙 浦松綾子 徳野菜実 飛岡未希 保科康子 和泉航 久保勉 佐藤真一郎
 
 
 
 空は厚い雲に覆われ、なんだか体の芯まで冷えてしまうような天気。こんな日は、もし自分が利用者だったら、デイホームには行きたくなくなるだろうなと思ってしまう。
 玄関の自動扉が開くと、そこには外をながめながらたばこを吸う1人の女性の利用者さん。こちらの挨拶に「今日はあまり人来てないよ」と一言。ただこれは、天気のせいというわけではなく、火曜日というのはもともと利用者さんの少ない日なのだそうだ。また、あとから職員の方の話では、火曜日の利用者さんには痴呆の方が多く、私たちの訪問にかなり緊張するだろうということだった。
 上履きをはき、中にはいるとすでに何人かの利用者さんがおしゃべりをしている。その横を「おはようございます」と控えめな挨拶をしながら通り過ぎる。部屋の壁のいたるところに、習字や貼り絵などの作品がはってあり、そのおかげで広い部屋も優しく明るい雰囲気になっている。
 奥の部屋でエプロンを着ながら注意事項を聞く。主にふたつ、「利用者さんを名札にある名前で呼ぶこと」「わからないことはすぐに職員に聞くこと」。そして、1日の活動のスタートである体操を待つ。ついさっきまで案内してくれていた職員の方は、もうすでに次の仕事に移っている。全体はゆっくりとした雰囲気なのだが、職員の方をみていると全員とても忙しそうにしていた。
 みんながいすに座って大きな円を作り、それぞれクリスマスイブのエピソード紹介、そして体操が始まる。まだ利用者さんにもメンバーにも緊張感があるが、利用者さんの一つひとつの動作や言葉に、自分がどう接していけばいいのか、思いを巡らせている様子がよくわかる。例えばいすに座るとき、立つとき、移動するとき、どんなふうに声を掛け、どうサポートしていけばいいのか、今までの講義で聴いてきたことも、実際に「人を相手に」行ってみるとその難しさがよくわかる。(メンバーの感想の中には「利用者への気配りにつかれた」というのも少なくなかった)
 つづいて風船バレー。このときはさすがにみんなの顔から笑みがこぼれる。優しくトスを上げたり、落ちそうなボールに回転レシーブを見せたり、どうすれば利用者の方たちが楽しめるか考えながらも、続出する珍プレーに空気が一気に軽くなる。
 昼食後の箸入れ・お年玉袋作りでは、和紙を間にずいぶんとスムーズにコミュニケーションできるようになり、それに伴い体へのサポート、掛ける言葉も変化していたように思う。作業を手伝ったり、教えてあげたりすると、利用者さんから返ってくる「しあわせ、しあわせ」という言葉に、メンバーの表情もやわらぎ、手応えのようなものを見て取れた。
 ただその横で、常に利用者に気を配りながら活動の準備を進める職員の姿は、とても忙しく見える。メンバーの感想にもあったが、「せかせかしていて大変そう」なのである。職員の方のお話の中に、「いろんな利用者がいて、それに応じたいろんな対応がある」という言葉があった。利用者一人一人の体の状態、心の状態、そういったものに十分配慮した上で、デイホームの活動を進めていくということ。それがこの仕事の難しさなのでは。
 







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