協力:日本財団
ホームヘルパー3級養成講座通信 第6号
ヘルパーへの道
NPO文化学習協同ネットワーク 2001年11月11日発行
難病ALS障害とともに生きる
橋本みさおさん 登場!!
ALS・・・脊髄の中の運動神経の仕事をする細胞だけが壊れて、筋肉も同時に萎縮していく。手足を動かすことも、呼吸も出来なくなっていく。介護者の山田さんは3年前にヘルパー2級をとって、ALSの人を専門に3人見ているという。また勝野さんと小松さんは有償ボランティアとして橋本さんと関わっている。大学の先輩から代々誘われ、夜勤に入っている。二人とも最初は何も知らないままで緊張して始めたが、アットホームな家庭で楽しくやっていると話す。
橋本みさお流 コミュニケーション
ウルドリッヒホフマン病(ALSに似た病気)の浦野くん11才のドキュメントビデオを見た。「マクトス」という脳波スイッチのおかげで、話すことも動くことも出来ない彼が、ラジコンで遊ぶことが出来るようになったり、家族とコミュニケーションがとれるようになった。それまでは、話しかけられるだけの人だったが、今は子どもらしく、あふれんばかりの感情が何分の一かもしれないが伝えられるようになっていた。
* ビデオを見ている間も、橋本さんと介護の人は独特の方法でコミュニケーションをとっている。橋本さんは顔の筋肉を最大限に使って、介護者に意志を伝えているのがこちらにもわかる。ビデオの後、ビデオについての質問になるはずだったが、参加者たちの意識は橋本さん本人に向かっていった。
Q(小学生):どんなふうに話しをしているのですか?
A(介護者):本人は念力だと言っているが、みさおさんが「あいうえお」の母音の形をして、「あ」の形をしたら「あかさたな・・・」と横に言っていく。「と」の場合、「おこそとの・・・」と言っていって「と」のところでウインクしてもらう。それをつなぎ合わせて言葉にしていきます。みさおさんはジャニーズが好きなので、ジャニーズネタが多い。3人介護者がいるが、みんな初めてなので、最初から出来たわけではありません。もっと覚えることもたくさんあるし、みさおさん自身も疲れてしまうので、教えるのは最後。会話の方法は、最初の介護の人が考え出した。このようなやり方は、みさおさんだけで、口も動かせない人もいるからいろいろな方法がある。
Q(小学生):食事はどうしているのか?
A(介護者):ミキサーにかけたりして流れやすいものを鼻についているチューブから胃に落としている。胃に直接チューブをつける方法もある。
夜勤は、午後5時から午前10時まで。最初は先輩の様子をこわごわと見ていたが、橋本家は暗黙のルールでご主人が介護に手を出さないので、必死になって話し方を覚えた。
?橋本さんからのQuestion?
Q1:彼の(ビデオ)ことを率直にどう思うか
A1・小中学生の反応にみさおさんが応えてくれる
ちっちゃいのに、がんばっている・すごいと思うという感想もあったが、「退屈そう」「かわいそう」という素直な感想に橋本さんも「それが彼の気持ちに近い」と。「表情が無くてわからない」と感じた子どもに、それがALSの終末。ALSも意志があっても表現が出来なくなるという。さらに終末には目も見えなくなってしまう。
・ 自分が彼のようになったとしたら、ハンデを持っても周りの人が協力してくれたことがうれしいと思うし、機械をつけてでも生きることがうれしいことだから、動けなくなってもイイと思う。生まれてきたことに誇りを持てればかわいそうだとか言われても平気だと思うと語った参加者には、人は与える方が満足を得るもの。その機会を与えている彼は素晴らしいと橋本さんは語ってくれた。
* 呼吸器を見せてもらう。歯の悪くなった人の入れ歯みたいなものだと誠さん。呼吸器がなければ窒息してしまう。呼吸器をつけるということは、もうすでに手足が動かないと言うこと。逆にタンが出るのでそれを取るために家族がずっと近くにいなければならない。Q2はそれも含めての質問。
Q2:もしも自分が親になったときに、子どもが大変な病気になったら呼吸器をつけますか?
A2・想像もつかないことだが自分は呼吸器を自分の手で取ることになってもつけるんじやないかなと思う。←ちなみに呼吸器をとってしまったら殺人罪。
・つける。選択の余地はないと思う。←実際に多くのお母さんがその様にしている。
・自分だったらつける。自分も生まれたとき呼吸器を何日かつけていた。そのおかげで今生きていると思っている。←それを安楽死の認められているオランダの議会に聞かせてやってほしい。
・産んで育てる。呼吸器はつけると思う。それはでも、社会的にすごく厳しい道を選ぶことになると思うから、いろんな犠牲を払わないといけないと思う。そういうふうに社会がなってしまっていると思う。自分は不登校だから社会と離れたところにいる。だから、呼吸器をつけて育てようと思う。もし、外見のかっこよさとかそういう価値観の世界にいたら呼吸器をつけようと思うかどうか。見た目というかそういう偏見とかあると思うけど、なかなかその辺はわからないかなと思う。
橋本さんの24時間介護
日勤の人と夜勤の人の2交替制。午前10時に日勤と夜勤が交替する。昼12時に訪問看護ステーションの人が来て、体のケアをしてくれる。午後3時ぐらいに同じ訪問看護ステーションが来て体のケア。その後、ボランティアが来て食事の配達がある。午後5時から朝10時までが夜勤の担当。みさおさんの寝るのが深夜1時ぐらいなので、隣で一緒に寝る。夜間はまぶたにつけるナースコールで夜勤者を起こせるようになっている。
ヘルパー&ボランティアの方に質問
どうして橋本さんの介護を始めたの?
橋本さんに関わった経緯について、介護者の生の声を聞くことが出来ました。
山田さんは仕事として、ヘルパーをしている方です。短大を出てから、OLをしていたが27才の時に転機を迎えたという。「事務の女の子」で終わりたくない、一生続けられる仕事がしたかった。老人福祉の会社に入ったが、そこで紹介された橋本さんの所に行った。必要だったのでヘルパー2級もとった。山田さんから見た橋本さんは、介護者を育てる人でその生き方が全てだと思う。常に前を向いていて周りにいる人を成長させてくれる。出会えて幸せな人間だと思っているという。
日本社会事業大学の勝野さんは何となく興味があって大学に入った。このボランティアもちょっと人が足りないから、という感じで始めた。何の知識もなかったので、大丈夫だろうかと思ったが、橋本さんは前向きな性格で、意志を伝えてくれるので、単なるお手伝いという感じ。いろいろな活動を見せていただいて、そちらの方にも興味を持ったり勉強になったりしている。もう一人学生の小松さんは、大学には学費が安いというメリットもあったし、普通の勉強して何になるのかなと思って、誰もやらなそうだと思って入学した。このボランティアを始めたきっかけは、大学の寮に入っていて、2人部屋なので夜も一緒はいやだなと思って始めたと話す。何かをしてあげようという気持ちがどこかにあったが、何かをしてあげようというより、橋本さんの場合には、橋本さんの手となり足となるという感じ。買い物も、お団子の味、量とか全部指定されて、橋本さんはきちんと自分の生活があるので、自分がこうしてあげたいというより、お手伝いをするという感じでやっていると受講生や一般の方と同じ目線で語ってくれた。
*介護者の発言を受けて橋本さんの話しへ
・橋本さんにとっての介護とは・・・?
今のを聞いて案外まじめに考えているんだなあというのと、大きくなったもんだという気持ち。よく全身性のヘルパーにいわれることだが、周りから見てヘルパーが奴隷みたいだといわれる。私の所では、そんな風にいわれたくないと思って生活している。←介護者:御飯食べることもトイレに行くことも出来ないぐらい付きっきりで指示を聞く。少なくとも橋本さんはその様にしたくないと思っている。親分のような存在。
・Q&A
Q:どうしてそこまでいきようと思うのか?
A:What?別に死のうとは思わないから。ただ、朝が弱いので、朝がこなければいいなと思う。
Q:オレは全身が動かなくなったらまず死にたいと思う。どうして橋本さんは生きようと思い、わざわざ人前に出ようと思うのだろうと思った。
A:もしかして考え事とかキライなの?私は寝ながら考えたり学んだりしたい。人前にこんなふうに出るのは、笑顔が作れる患者はあまりいないので、ビギナー向けかと。(笑)
Q:トイレはどうしてるんですか?
A:尿機という福祉器具があって、それでベットの上でしている。
Q:毎日の楽しみは?
A:寝ること。
Q:寝るときはどうしているのか?
A:どういう寝方をしているのかというと、上半身を起こせる介護ベットに空気の入ったマットをひいて、寝るときはベットを倒して寝ている。たぶんみんなと同じ。
Q:さっき、メールのやりとりをしているといっていたが、どのようにしているのですか?
A(誠さん):専用のパソコンソフトがあって、画面上の文字盤の上をカーソルが動いて、足の先のキャッチセンサーで自分の思った文字の上にカーソルが来たときにスイッチを押す。家では10時間パソコンをしている。
Q:電話はどうしているんですか?
A:スピーカーホンにして、相手の話を闇いて、話すときと同じように介護者が橋本さんから聞き取って伝えている。
Q:どうしたら、そんなに和やかな雰囲気が出せるのか?
A:スマップのファンクラブに入るぐらいミーハーだから、周りも同じ感じ(笑)
←介護者:やっぱり橋本さんの人柄。介護者同士も橋本さんを通じてであったが、橋本さんの生き方、この人はすごいということを認めた上で手伝いたいと思っているからだと思う。
Q:おふろは?
A:入っていなくて、看護婦さんが毎日体を拭いてくれる。髪は週に2回洗っている。
*最後に橋本さんから一言:「がんばれ青少年。人生捨てたもんじゃない。」
・グループ討議・発表(3グループ)
1グループ
・ 橋本さんはいい人だなっていうところからはじまって、橋本さんを知っているから他の人にヘルパーでつくのがつらくなるんじゃないかなというところから考え、介護する側が、される側を考えるだけでなく、される側もする側のことを考えないといけないと思った。でも精神的に障害のある人と理解し合うって事は難しいんじゃないか。身体と精神障害者の介護はそれぞれちがうのではないかと思った。
・ 理解するといっても、橋本さんのように伝えてくれる人はやりやすいが、精神障害者を理解するっていうのはどういうことなのか?コミュニケーションをとりにくい人を理解するってどういうことなのか?
2グループ
・ 障害を持っている人を見たときに、「変だな」って思ってしまうことがある。知る機会があればもっと理解できると思う。
・ 障害を理解するっているより、その人の人格を理解するっていることが大切だと思った。介護するというのは、してあげてるというのではなくて、される側がいるからそういう世界が成立しているということだと思う。今日もらったパワーを何かの形で返したいと思った。
・ 橋本さんたちの和やかな雰囲気は、橋本さんの人間性が大きいということは、他の人ではそういう関係は出来ないのかなと思った。そうしたくはなくても、緊張感のある関係しか作れない人もいると思う。そういう人たちは、橋本さんのように人を受け入れることが出来なくて、キツイ態度で接してしまうと思う。橋本さんは精神的なところでとても豊か。でも、そうじゃない人の所にもヘルパーに行くわけだから。
3グループ
・ すごくユーモアがあっておもしろい人だな、難病を受け止めて心が元気な人だなと思った。エネルギーを感じた。印象がかわったのは、これまでALSは恐ろしい病気としか考えられなかったが、話を聞いているうちにじっと考えるのが大好きだといっているのを聞いて、難病といってもその人の価値観しだいで、捉え方が変わってくる。障害といっても同じ人間だから、一人の人間として受け取ることが大切だなと思った。その人の個性を受け止めていくのが大切だと思った。
● 全体を通じて
一般公開の講座で人数も多かったこともあり、普段の講座とは一風雰囲気の変わった講座となった。難病のALS患者である橋本さん自身が講師ということもあり、受講者達全体に緊張感があった。難病を抱えながらも介護の方々の力も借りて「個」を守って生きている橋本さんの存在そのものが放つ、強力なエネルギーを受講者達は十分に感じ取っていたように
「サービス提供の基本視点」
芦花ホーム所長・現場実践を語る
午後の講義「サービス提供の基本視点」は芦花ホーム所長である露木悦子さんを講師に迎えた。
まず始めに30分にまとめられた手作りの芦花ホームのビデオを見た。そしてビデオの感想を一人一人に聞きながら、そのことについて露木先生が芦花ホームの実践について語ってくださった。芦花ホームに、以前ボランティアで来てくださったバイオリニスト千住真理子さんのバイオリン演奏なども写っていた。ビデオは、芦花ホームの日常の様子がわかりやすくまとめられていた。利用者が生き生きと「芦花讃歌」を歌う様子や、音楽を聴く様子、クラブ活動の様子などが流れる。芦花ホームの中に登別温泉を作るなど、利用者さんの希望をできるだけ実現しようとする芦花ホームの姿勢がうかがえた。
|