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「ホームヘルパー3級養成講座」を終えて
〜成果とこれからの課題〜
 
● 受講生について
10代の参加(12歳〜19歳)14名(うち4名資格取得ならず)
20代の参加(20歳〜27歳)7名(うち1名資格取得ならず。ジョブコーチ5名含む)
※ ジョブコーチとは、自身も資格の取得を目指しながら、受講生のサポートにまわる大人のスタッフ。
※ 講座申し込み者21名のうち、16名が「ホームヘルパー3級」の資格を取得した。
 
● ホームヘルパー3級養成講座で得られた成果
 この講座を受講することによって得られたと考えられる成果を、受講生の感想などをもとにしながらまとめてみると、大きく次の点があげられるのではないだろうか。
 
1. 「ホームヘルパー3級」という社会的に認められている資格を得ることができたことは、社会から一定の評価を与えられたということであり、社会から取り残されていると感じ、社会へのつながりを見つけにくい不登校や引きこもり経験者の受講生にとっては大きな意味がある。また長期の講座を修了することができたという達成感はこれから社会に出ていこうとする彼らの大きな自信につながったのではないかと思われる。
 ヘルパー3級の資格は、進路を切り開いていくのに武器となる資格といえる。社会の評価からからはずれてしまった感の強い彼らにとってこの資格の取得は、彼らが今まで経験することの少なかった「自分に対する社会の肯定的な評価」を感じ、社会につながる自分の存在をおぼろげながらつかむことのできた経験と言えるのではないだろうか。また、4ヶ月の長期に渡る講座を無事修了することができたという「何かをやりとげることのできた自分」の発見は、彼らの自己肯定感をはぐくみ、大きな自信につながったと思われる。
 
2. 学びとは遠い存在だと思っていた彼らが、学ぶことのできる自分を発見し、学ぶことの楽しさを感じることができた。
 受講生の感想に「人としての勉強をしているのだと思った」とあるように、ヘルパーの知識は「生きる」「生活」「人と人との関係」ということに関する話が多く、日常に置き換えることができたり、興味を引いたりするものが多かった。初めは講義形式に戸惑いを感じた受講生も多かったが、回数をこなすにつれ慣れていき、「学校の楽しかった面を思い出した」という受講生もいた。現場で働いている講師の、いわゆる“本物の話”はおもしろく、講師が日々感じていることが生々しく伝わってきて、単なる知識の獲得ではない、心揺さぶられる“生きた学び”のおもしろさを感じていたようだった。
 普段あまり関わることのない高齢者や障害のある方の話も、学歴社会でマイノリティにならざるを得ない自分自身と重ね合わせた部分があったのか、身近な問題、自分自身にも降りかかる問題として感じていた受講生も多かった。
 また講義では討論や感想を交流する時間を重視した。そのため普段はなかなか聞くことのできない「相手の考え」を聞く経験がもて、それもまた刺激になっていた。相手の考えを吸収することのおもしろさ、討議することのおもしろさを発見した受講生も多かった。
 
3. いろいろな専門分野を持つ講師との出会いによって、ヘルパーの周辺にある様々な職種に対する知識を得ることができたと同時に、プロであることのすごさに触れることができた。
 福祉や医療の現場で働いている講師の話は大変おもしろく、生き生きと自分の仕事を語る講師の姿に教えられるものは多かった。講師の方にはなるべく現在の職業について話してもらい、職業をイメージしやすく、また興味を持ちやすく、職業観が広がるようにした。作業療法士の方が自分の職業を「天職」と語るなど、自分の仕事に誇りを持ち、エネルギッシュに活動されている講師の方が多かったため、その生き方・人柄からも多くを学ぶことができた。全身性の難病を抱える橋本みさおさんなど、その存在から多くのものを感じさせる講師もいて、他の場面ではなかなか得ることのできない貴重な経験をすることができた。また、ヘルパー以外にも医療や福祉の世界にはたくさんの職業が存在するという話は、彼らにヘルパー以外の可能性も示したのではないか。
 
4. 自分のことに精一杯だった彼らが、他人の役に立ちたい、自分もできることを何かやりたい、との思いを抱き始めた。ボランティアをやってみたいとの声もあがっている。
 今まで自分を受け止めてもらうことに精一杯で、なかなか視野を外に広げることができにくかった受講生が、福祉や介護の現場の生きがいや苦悩、問題点など様々な現実に出会うことで、「自分も何かやりたい」「自分にも何かできるのではないか」との思いを感じ始めている。いきなりヘルパーの仕事に挑戦することは無理でも、「配食サービスならやれるかも」「お年よりの話し相手なら」など、具体的な場面で自分ができることを探している受講生の姿が見られた。これは、今まで自分の殻に閉じこもりがちだった彼らが人とつながる自分の像が描け始めたということだろう。せっかく学んだことを実践したいという思いも感じられる。
 また、介護保険・高齢者問題・障害者問題など、社会問題に関しての関心が芽生えた受講生もいた。「もっと社会のことを知りたい」「もっと暮らしやすい社会にしなければ」など、社会への視野を持っことができたのも、この講座の大きな効果であろう。
 
 このように、今回のヘルパー講座では大きな収穫を得ることができた。今回受講生が感じた「自分も社会とつながることができる」という自信は、学歴上で不利な立場に立たざるを得ない彼らにとっては本当に大きな意味を持つだろう。また、学校に行かないことや家にこもってしまうことで、外の世界を知る機会や、仲間と思いを交流し意見を吸収しあう機会の少ない彼らにとっては、今回の講座は自分、他人、社会など、すべてのものとの出会いの場でもあった。これは人が生きるということに大きく関わる介護や福祉を扱う講座自体が与えた影響はもちろん、そこにあった「学ぶことの楽しさ」や共に学びあう仲間の存在が与えたものも大きい。1人ではたどり着けなかった目標も、学ぶことの意味が確かに感じられ、共に目指す仲間がいたからこそ達成することができたと言える。
 将来に対する展望に関しては、ヘルパーとして働くという直接の動きはまだ見られず、進路決定を促すには至っていないが、福祉の世界に関する関心が増したことは確かである。とりあえずはボランティアでも、「自分がやれることをやってみたい。そしてやってみてまた考えたい」との思いが生まれたことは、道を踏み出せずにいた彼らにとっては大きな前進である。
 また、今回の講座の経験をもとに、他の職業であっても、その世界をのぞこうとする関心が生まれ、学んでみようという意欲がわいたことも大きな収穫である。
 
● これからの課題
 現在、講座の修了生のうち1名が現在世田谷区立特別養護老人ホーム「ろかホーム」でボランティアを始めている。今年4月からは今回講師の方との関係で広がったネットワークをもとに、デイホームなどでのボランティア活動も考えている。そのほかにも今回生まれた講師の方とのつながりを元にしながら、またそれ以外でも、学んだ内容を生かせる場、進路に結びつくような場作りは行っていきたいと考えている。そんな中で、講座の中で生まれた高齢者や障害のある方などに対する共感や、社会的に弱い立場への視点などがさらに深まっていくことを期待したい。福祉の仕事以外でも、実際の職業を知ることの必要性を感じた受講生も多かった。彼らが進路を模索したり職に対する興味を持続したりする意味でも、現場見学に行ったり、ボランティアに出かけたりということを重視していきたい。
 今回の講座は対象が不登校や引きこもりの経験者ということで、普段フリースペースに関わるスタッフがジョブコーチとして参加し、講師の方にも受講生にあった講義内容にしてもらうなど、普通のヘルパー講座に比べ手厚い体制のもとで行われた。講義内容も知識の獲得を重視するというより、受講生が参加しやすいように柔らかくとっつきやすい内容にしてもらうなど、理解のある講師による恵まれた講座だったといえる。資格をとることができたとはいえ、実際に得ることのできた知識は限られており、またこの講座の環境をヘルパーの現場に求めることはできない。ヘルパーとして現場にでるためには今後更なる学習の場を設ける必要があり、ヘルパー2級の資格取得を考えていきたい。
 
 
 
 
 
 







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