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共感的理解と基本態度の形成
 
●2001年12月22日(土)
●講師 露木 悦子さん(世田谷区特別養護老人ホーム「ろかホーム」所長)
●全体の流れ
午前
・ろかホームでの経験から共感的理解について講義
・絵本「白いうさぎと黒いうさぎ」を読みながら共感的理解について考える
午後
・カウンセリング・ロールプレイ
 
<講義の内容>
1. ろかホームでの経験から共感的理解についての講義
 ホームに100人入居すれば、すぐ仲良くということはなく、トラブルが必ず起こる。また痴呆の方であっても、全ての部分が痴呆な訳ではなく、健康な部分が必ずある。
 そういう考えから、利用者同士の交流を促す意味でも「やすらぎの会」というお茶の会を始めた。初めは3人しか参加がなく少なくて困っていた。その会では、普段「吸い飲み」で飲む利用者さんが、茶碗でお茶を出したら2杯も飲んでしまった。寮母さんは「吸い飲み」でないとダメだと言っていたが・・・。また薄く切った羊羹でも、「これは“とらやの面影”ですね」というように、品物を当てるということがあった。このように、痴呆の人でもちゃんと理解しているし、衰えていない部分が残っている。その後はようかんも厚くした。この会の後には、そのまま杖を忘れて帰っていってしまう利用者もいた。これは、ちゃんとその人の気持ちを理解してあげることが、自立していくエネルギーを生んでいくということの現われである。次の会では前回の参加者が声をかけ、「新茶がいただけるそうですね。もう一杯いただけるそうですね」と他の利用者から催促されるほどだった。饅頭も食べやすいように刻んで出していたが「丸いままのを下さい」と言われた。ちゃんと人格を尊重していくことが大切なのだと感じた。
 その後のお話の会では、寮母が「この人は痴呆が重度で話せません」という人でもちゃんと話せた。「一番大切なもの」というテーマで話した時、ある人が「祈りです。所長さんがご無事でいますように」と言っていた。その言葉を聞いた講師(露木さん)は、2代目の所長として入ってきたばかりだったので一人で心細かったため、その言葉に涙が出てしまった。寮母には「痴呆の方の言葉を信用して泣くのですか?」と言われたが、涙が出るということは、心が響き合ったということだ。コミュニケーションをとることはとても大切で、そして響き合うことが一番大事。介護する人と介護される人の響きあいがないと事故が起きてしまう。響きあいがあれば、少々の食事、お風呂、おむつの介助が下手であっても安心して受け入れてもらえる。
 「やすらぎの会」の後杖なしで帰っていくお年寄りがいるが、その時「杖持っていってください」と言うような、自立の無くなるような介護をしてはいけない。車椅子など、モノが増えて自立が難しくなっているように思う。
 絵本の読み聞かせの会では「白いうさぎと黒いうさぎ」が好評。日本語版と英語版があるが、やっているうちに英語版の方が好評になった。それは何故か?響き合い、英語の方がピッタリとしていたのだと思う。お話の最後の方の「結婚式のダンス」ではみんな踊り出したり、「結婚したいわね」と言い出す人も。その気持ちを大切にしているうちに、みんな仲良くなって歌を作ろうということになった。それで出来たのが「ろか讃歌」。このことからも、健康で素敵な部分が痴呆の人にも残っているのがわかる。こんなことができるのかと寮母たちも利用者を尊敬するようになった。
 
2. 絵本の読み聞かせを通して
 「白いうざぎ黒いうざぎ」の読み聞かせの後、講師からの発問があった。
 「お年よりの方たちが、なぜこの本が好きで、この本をきっかけに仲良くなり、コミュニケーションの輪が拡がったと思うか?」
受講者1(以降、受(1)):昔結婚した人とか、今出会った人のこととか考えたのではないか?
受(2):寂しかったという部分もあったのでは。
講師:寂しかったところから、だんだん幸せになっていく、そういう部分が良かったなと思うのですね。
受(3):心に響くモノがあった。
受(4):昔の人とか今の人の出会いを大切にしようかなと考えられる、そういう純粋な願いが伝わったように思う。
受(5):黒いウサギはずっと祈っていた。そういう純粋な願いが伝わったのか。
講師:みんな夢や願いがあって、黒ウサギの思いに引き込まれたのかと思ったのですね。
受(6):自分の思いが通じた、通じ合った、自分たちもそうしたいという思いが絵本の中に入り込ませた。
講師:それが歌につながったのかしらね。
受(7):私はウサギたちがうらやましかった。簡単に思いが通じて良いなあと。
講師:確かに私たちの中ではそんなに簡単に通じない。その気持ちをどのように訴えたらいいのかが、ヘルパー3級の大切なテーマ。私も夢を持って祈っている。ウサギのような思いになるように願ってみよう。
受(8):どうしたら歌を創るまでにいったのでしょう。
講師:クッション役とか、アプローチする人がいることが大切。お年寄りの思いの実現に協力してあげるのがヘルパー。だからまず、自分がどうして欲しいのかを学んで、それから人の思いを学んでいく。「死にたい」という言葉は「生きたい」と思ったときに初めてでてくる気持ち。「お寂しかったんですね」と声をかけると元気になっていく。「お礼に通帳をあげます」と言われたこともあるが、その気持ちをいただく姿勢がヘルパーの姿勢。お年寄りの気持ちを聴いてあげること。そうすれば、「あ、生きよう」という元気が出てくる。そういう気持ちを学ぶのが今回の講座。
講師:みなさんとても感性がいい。福祉で大切なのは感性が良いこと。みなさんの一言一言がとても素敵で、本にまとめたいと思った。ヘルパーの勉強で「受容」という言葉が良く出てくるが、そのノウハウは、人の気持ちを良く「聴く」こと。それは人を「愛す」ことにつながる。そうするとエネルギーが湧いてきて、自立につながる。モノをもらうことも大切ですが、気持ちを聴いてもらうことが一番大切。それが自立。自立するのは遅くてもいい。今そうしていることは、全て大切。だんだんと人とつながり、愛されていくうちに自立していく。それが共感的理解。
 
3. ロールプレイ
講師:白いうさぎと黒いうさぎのようにやってもらったらどんな気持ちになるかやってみてほしい。
*方法:向かい合って座り、お互いの困っていることを聴きあう。一方が聞く側、もう一方が相談する側になる。
*様子:受講者は、「聴く」姿勢の実践を試みた。講師は、「聴かれた」側の気持ちなどを発表させながらアドバイスを加えていった。どうしても「尋問」になってしまうメンバーたちも多く、「聴く」ことの難しさが明らかになった。
ロールプレイ総評
講師:聴いてもらえたというのと聴かれたというのは大分違う。相手の気持ちとかみ合わないものを聴くのではなく、共感的理解の話なので、聴いて欲しいことを聴いてあげる。アドバイスをしてあげるにしても、一言「私の思いを一言話してもいい?」と話すのと話さないでするのとでは、相手の気持ちが違う。
 ホームやデイはお金を出して行くところだから苦情申し立てもある。一生懸命こちらがやっているつもりでも、自分の気持ちを聴いてもらえないと利用者が思えは苦情として出てくる。聴いてあげるとまた会いたくなる。少しずつ聴いてあげる。そうすると、「また話したい」と思える。そんな安心したコミュニケーションが大切。
 
<全体を通して・受講生の様子>
 講師は、体験や絵本を使うなどして、「受容・共感」という難しい概念を年齢層の若い受講者でもわかりやすいように伝えていた。そのことが受講者たちの興味を引き出していたと思う。まさに講師自身が講義を通じて説明した、他者の思いを尊重して心と心で響き合う、という「共感的理解」の姿勢を実践していた。さらに体験的に共感的姿勢を考えさせた「ロールプレイ」は同時に、普段、聴かれる側にいる彼らの視点を聴く側に転換させ、自分自身を見つめ直させる作業にもなっていた。
 
 
 
 
 
感想「共感的理解と基本的態度の育成」
I.H ちほうの人は絶対介護が必要だと今まで思っていたが、完全に何もできないんじゃなくて、介護する人がちゃんと利用者の言葉を理解してあげて話せば出来る事は出来るという事がわかった。後は、人と人との響き合いが大切だと言っていた。それは他人の事を考えないでやってしまうと自己中になってしまうからだ。おどろいた事があった。日本語と英語の絵本があって、お年寄りには英語の絵本がかなり人気らしい。きっと楽しみながら勉強できると思う。それに本の内容がわかりやすかった。みんなの前で発表したときはすごくきんちょうした。介護とはまた違うけれど、みんなの前で発表したことは、自分を知ってもらうための一つだと思った。実際の会話では難しい技術だと思う。聞き手、話し手との間が難しいし、大切だと言っていて、そうだなと思った。
 
T.M 受容する事について私はずっと(7年くらい)悩んで考えてきました。だから、受容してほしいと思う事にも、自分が受容しなければと思う事にも疲れました。私は受容するという言葉にあきてしまったんです。でもそれでも受容したいと思うのは、なんででしょうか。不思議です・・・。もし今そういう仕事に(ヘルパーとかカウンセラーとか)私が就くとしたら、100%燃え尽きそうなのでやめた方がいいと思いますが、期間限定でならやってみたいなぁと思ったりします。
 
M.Y 今回も露木先生のエネルギーを感じさせる講義でした。僕が今回印象に残っている話は、痴呆の人のお話です。老人ホームの方で、痴呆が進んでいるという人でも、ちゃんと自分の好きなものや、自分の事が分かるというお話でした。やっぱり人の記憶や心というものは、人間の人智でははかり知れないものがあるんだと僕は考えました。そして今回の「話を聴いてあげる」という技術の基本、終わりまで聞いてあげる、よけいな事をはさまない、くり返して聞いてあげる、そういうものをあらためて考えました。相手の欲するものを気づき、それを与えてあげる、これすなわち「愛」、人を扱う仕事の基本です。
 
H.Y 最後の話をききながら、いろんな事を考えました。ありがたいお話、うーん・・・楽しかったなぁ。
 
T.N 前回の時よりなんか楽しかった。聴いてもらって、愛されて、そして自立していくというのが印象に残っている・・・。あと、しろいうさぎくろいうさぎというのをもとにしてやったやつは、えっ!?と思ったけど、Mさんとやれたのもあったし、なんかやりやすかったし、なんかよくわからないけど、ほめられた・・・よかった。フー。でも、「私の話(考え)言ってもいい?」って言うことがいいと言っていたけど、ふだんはあまりそうしないから、ああ、ってちっと学んだカナ?けど、いつもいつもそうしなくても、友達だったり、知人だったら、言わなくてもいいと思う。私の場合は、聞いてもらいたいと思うのと同時に、その相手がどう思ったかも聞きたいから、別に「〜言ってもいい?」つて言わなくてもいい時もあるなぁなんて思った。けど、これは老人の方や知らない人のことだし、実習の日は、気ぃつけんとなぁ・・・。話す。とか言葉って難しい。深いねぇ・・・。
 
T.Y 今回は露木先生の話をきくのが大事だという話がおもしろかった。受容→きく→愛するという式はおどろいた。けど、なっとくできる話だった。誰かの話を聞いているときは、その人で頭がいっぱいになるから、それが愛するということにもなるんじゃないかと思った。それにしても自分は露木先生の話を聞いているときにねてしまった。もし、今後に似たような機会があれば、キチンと聞きたいと思った。できればノートもとりたい。ヘルパー講座の講義もこれが最後。あっという間だった気がする。とちゅうしんどかったときもあったけど、なかなか楽しかった。受講してよかったと思っている。
 
I.K すごく話がおもしろかった。というか“聞きたい”と思った。だけど、10時〜はイタかった。すーっごいねむかった。白いウサギと黒いうさぎにはフツーに感動した。でもすごくじゅんすいに可愛くて、でも、なんかうらやましかった。あぁやってつながりあい?というのかなあ・・・。とにかくうらやましい。あと、対談(注:ロールプレイ)。ある意味さらし者(ちがうっつうの)だけど、もっともっとたくさんの人と話したかった。出来ればいつもは話せない相手がよかった。
 
A.Y 白いウサギ役にはいつでも響き合えることが可能なのか?時に黒いウサギになりたいような気もする。それってヘルパーがどこかで吐き出せる場をつくっておくことが必要といっていたこととつながってくるのだろうか。仕事としての白いウサギと、白いウサギが得意なのとは大きく違うことだ。黒いウサギはいつでも共感しあえることを求めているのだろうか?白いウサギはいつでも共感できるものなのか。白いウサギか気持ちに余裕を作っておく必要があることをあらためて感じました。
 露木先生が語られるろかホームのこと。とってもリアルに具体的な場面を頭で想像させてくれたのでますます興味をもちました。痴呆の部分をもった人も健康な部分をもっているという認識は私にはなかった。痴呆になったら即全ての生活がこわれていくようなイメージがあったけど、痴呆でも覚えていることは覚えているんだと知りました。(“虎やのおもかげ”の話より)うさぎの絵本一つでこんなにいろいろ考えることができて楽しんで講義を受けました。
 
M.K 露木先生のパワーに圧倒された。「共感的理解と基本的態度の育成」を露木先生の姿勢そのものから学んだ講義だった。白いうさぎと黒いうさぎの話は、絵本のストーリー自体は、今現在の私にとってはそれほど心に強く響くものではなかったが、お年寄りがその話が大好きという話にはとても興味を持った。絵本などの持つ癒しや童心に返らせてくれる力のすごさを改めて感じるとともに、そこに敏感に反応するお年寄りの孤独を感じた。「祈り」を口にするお年寄りにとって、私達が出来る事は何なのだろう。そこの部分に働きかけることが、最も重要なことなのだと思う。また、ヘルパーの仕事は、生命活動や生活そのものを支えるという視点もあり、様々な意味での幅広い“ヘルパー”なのだと知った。
 今回のヘルパー講座では、ヘルパーとしての知識はもちろん、同時に“生きる”ということの深さを垣間見ることができた。高齢者や障害のある方の生きる姿は決して他人事なのではなく、私達と同じ“生きる”の延長線上にあり、自分の“生きる”を確かめる場でもあった。本当に収穫の多い、すばらしい講座でした。
 
H.Y 人は年を取っても人格があるということ、「受容→聴く→愛する」ことがわかった。「福祉で一番大事なのは感性なのです」という言葉が印象に残った。露木先生は、みんなの意見一つ一つをとても尊重してくれるのがうれしかった。
 
 







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