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ホームヘルプサービスの共通理解
 
●2001年12月1日(土)
●講師 三田久子さん(国立市社会福祉協議会「ふれあいクラブ」寮母 介護福祉士)
●全体の流れ
・講師の自己紹介
・ホームヘルパーの心の健康管理について
・家事援助の方法について
・ケーススタディー
・感想交流(グループワーク)
 
<講義の内容>
1. 講師自己紹介
 H2年からホームヘルパーをしている。それまでは、パートをしようかなと思い、事務、OLをしていた。座ってばかりの仕事なので、もっと体を動かして自分の健康にもいいことをしたいと思って始めた。その当時はまだ介護保険はなかった。国立市で働いているが、国立は身体障害センターなど、福祉行政が進んでいるし、市民の理解も高い。社会福祉協議会の「あんしんサービス」に所属する。非営利団体で、お金を得ることを目的としていない団体。その頃は時給700円で交通費も出ないので、全部自転車で移動していた。ヘルパーだけでは金銭的に苦しかったこともあり、デイサービスヘも行くようになった(週1回、500円)。国立市がお金を出した独自のサービスで、元気な一人暮らし、又は一人暮らしに近い人達の通いの施設。送迎なしなので、体調が悪いときには出てくることが出来ない。そこでは、プロの講師に指導してもらう陶芸教室や、おりがみ教室をして遊んでいる。陶芸は、習字などよりも上手下手が出にくく、手先を使うのでよい。婦人会や民生委員などの地域のボランティアの力に支えられている。
 介護保険制度が始まってから、いろんなことががらっと変わった。ヘルパー、デイサービスに加えて、保険センターのリハビリ介助の手伝いをしても月10万円には満たない。だから、いろんな所に顔を出して資格を取って(運転の2種免許、介護福祉士)今まで来た。ヘルパーもどんどん増えている。介護される方にとっては良いことなのだが、する方としてはどんどん自分の技量をアップさせないと振り落とされてしまう。施設職員として入れればいいが,学生アルバイトでまかなう障害者の方も増えてきている。
 
2. ヘルパーの心の健康管理について
 対人間の仕事なので、自分の心の健康も大切になってくる。それぞれの家庭内に身内のもめ事などの不和がある。その様な状況の所に他人が入っていくのだから、いろいろと大変。大変なところだからヘルパーを頼むという側面もある。人生楽しく生きていたら、相手も楽しくなる。好きなものを見つけるのも大切なこと。
 これまでは、措置で民生委員の方から動いてくれたが、介護保険制度になったこれからは自分から連絡していかないとそのまま流れてしまう。自分が勉強していくことが大切。例えば痴呆の場合お金の管理が出来なくなっていくが、そういう場合成年後見制度が利用できる。その様な知識を身につけていく。
 
3. 初回訪問の準備について
 高齢者や体の不自由な方がヘルパーの派遣を希望する場合は、まず要介護認定を受け、介護保険申請をして、ヘルパーステーションと契約をすることが必要である。その後ヘルパーステーションからの派遣によってヘルパーが利用者のお宅に伺うことになる。
 利用者もその家族も、他人が自分の家に入ってくることをとても嫌がり、親戚などからも「自分でできないのか」と言われることもある。でも介護保険が始まって、「大変なんだ」と周りに言える様になったことが大切なことである。
 
初回訪問の時に重要なことは、
・利用者の住所確認、氏名、性別、年齢の確認
→お名前で呼ぶこと。おじいさんやおばあさんではなくて、人間として差別無く呼ぶことが大切。きちんとした名前があるということ。
・利用者の状態を把握
→薬のゴミも勝手には捨てない。高齢者の場合、薬を飲んだのかどうか忘れてしまいがち。捨ててしまうと確認が出来なくなる。
・自分で出来ることは自分で
→食べられるのに食べさせられるのは気分が重い。出来ないことを介助していく。立てる人は立つことによって自信を持ってもらう。それを見守りながら倒れた時どうフォローするのかが仕事。
・キーパーソンを把握する。
→家庭の中で話のわかる人としっかりと意思確認をする。
・住居の状況
→「何かお困りのことはありませんか」等の言葉掛けで、利用者が話しやすくすることが大切。手際よく、段取り良く作業する。帰る間際に洗濯物を見つけても出来ない。
・服装
→利用者の凶器にならないようにする。爪を伸ばしたり、マニキュアなどもやめた方がいい。化粧も少しはして、失礼にならないようにする。
・あいさつ
→第一印象が大切。利用者との関係がスムーズだと仕事もしやすい。こちらも第一印象で決めつけないで平等に対応していく。
・その他
・掃除をする場合でも、「隣の部屋掃除しても良いですか」と、自分の行動を確認してもらう。利用者に安心感を与えるし、声を出すことが一日中一人きりの老人にとってはリハビリになる。
・片付けすぎると、何がどこにあるのかわからなくなり、利用者が困ることもある。
・水道の蛇口も締めすぎて、次の訪問まで利用者が水道を使えなかったこともあった。
・時間通りに来て時間どおりに帰る。時間があるからといって、時間外にいてしまうと、他のヘルパーさんにもそれを要求されてしまう。あくまでもチームでの仕事。
・玄関から入れることは割合と少ない。チャイムを鳴らしても聞こえないことが多いし、利用者がすぐには出てこれない。
・自分用のタオルを用意する。相手のタオルを濡らしてしまうこともないし、万が一病気を持って帰ることを防ぐことが出来る。きれいな家に行くのではなく汚れた家に行くことを頭に入れて自分の身を守る。
 
4. ケーススタディー
(1)80才で脳血栓の男性
 脳の血管が詰まると先の脳が死んでしまう。左の脳が死ぬと右半身に麻痺が来る。口も麻痺するので、食べるのが大変。歯医者での麻酔を想像してほしい。トイレもおむつが必要となる。この利用者は、お金持ちの家だったが家族関係がうまくいっていなかった。要介護度は4。デイサービス30万6千円分なので、自己負担は1割負担の3万6千円。おむつもずっとつけているので、おむつ代もかかる。介護にはそれだけお金がかかる。
 8時に入って挨拶するところから始まる。気難しい男性で、手もとんでくるが、よけきれるので笑って済ます。入って便のにおいがしたら、おむつの準備をする。トイレが出来れば一番良いのだが。昼はリハビリパンツで夜はテープ式のおむつを何枚もする。陰部洗浄機などが最近は使われる。尿道感染などを予防するためにも洗浄する。お風呂は週に一回なので清拭する。ベットに寝ていても、気持ちだけでも「寝食分離」するため、汚いもの汚くなるものは足下に置く。何をするにしても、「今から〜します」と確認する。おむつはビニールに入れて外に出しておく。部屋がにおうと、孫が来てくれなくなる。孫の顔が見れることが幸せという人も多いのでにおいには気をつけたい。どちらかというと男性の方が大変で、女性の方のほうが順応していくようだ。奥さんがいなくなると慣れるまで2・3年かかる。ヘルパーさんに妻の役目を要求する男性が多く、気に入ったヘルパーは自分に縛り付けたがる。だから、男性にも自分で生きていく力をつけておいてほしい。妻が帰ってくるまで食べないで待っているのではなく、自分で料理することが大切。これからの時代、自立して生きていかないといけない。92才で亡くなったが、奥さんも2ヶ月後になくなった。老老介護で自分の体を気遣えなかった。
 
(2)82才の男性
 まだ右も左もわからないヘルパーに成り立ての頃についた方。とても大変な仕事で、いつ辞めようかと考えていたが、初め「気に入った」と言われたことが支えになってずるずると95才で亡くなるまで関わった。庭を掃くときも椅子を持ってきて見ているような人だったが、「監視されている」と思うのと、「私と話したくて見ているのだ」と思うのとでは、仕事をする上での気持ちが変わってくる。仕事はどう捉えるか次第で、相手も変わるし自分も変わっていく。長く関わると家の内部事情まで知ることになり、精神的な負担になることもある。お金をあげるから自分の所についてくれと言われることもあるが、お金をもらうことは自分の気持ちを縛ることにもなるので良くない。この人はずっとおむつ拒否でいつも誰かがいなければならない大変な人だったが、それだけ思い入れがあった。最後は肝硬変で、ある日突然体中に黄疸が出ていた。そんな時も、あまり驚いた様子は見せず、余計な心配を相手にかけないことが大切である。
 
5. 講義についてのグループ討論と質問・感想発表
グループ1
・家庭の中まで見えてしまう仕事なのでハードな仕事だと思った。
・介護保険になってから自分で申請しなくてはならないということだが、どうしたらいいのか。
・お金持ちじゃない人の場合、年金も月3万円ぐらいの人達の場合、衣食住を保障されなければならない人権という問題で考えるとどうか。
・給料のことは、主婦のお手伝い程度なら良いが、職業として成立するのであろうか。
グループ2
・実体験を聞く事が出来たので、話に集中でき、自分の家庭などにも置き換えて考えることが出来た。
・出来ると思っていたことが、出来なくなるということはどういう気持ちなのだろうかと考えたが、難しい。すごい絶望感があると思う。ヘルパーが共鳴してしまったら、さらに絶望が深まると思う。絶望の気持ちを軽視するのではないが、実際に軽いことではないから、そのかねあいが難しい。
・人相手の仕事ではコミュニケーションが大切なのではないか。挨拶をするなどはホームヘルプ以前のことで、人間関係で必要なことだ。
・三田先生の話し方がとてもわかりやすかった。
・自分が良いと思うことでも、相手が嫌なこともある。この人ならどうなのかなと考えなくてはいけないのだけれど、決めつけになってしまってもいけない。
 
グループ3
・異性のヘルパーの着替えとかおむつ替えはなかなか大変なこと。
・自分が老人になったときに、若い異性のヘルパーさんが来たらと考えると嫌な気がする。だから同性のヘルパーが良いと思う。
・ヘルパーの資格の他にも資格を持っていた方がいろいろと活かせることがわかった。
講師の返答
・たしかにヘルパーはなくてはならない仕事で、性を乗り越えてやらなくてはならないこともある。恥ずかしがっていたら、利用者も恥ずかしくなる。人間的に大きくなっていかないと信頼してもらえないのかなと思う。
・今の老人には、お上から何かしてもらうのは恥だという考え方がある。お金を出しているのだから当然だと思えるようになるのが大切だ。
・自分のことは自分でやるから良い・・・、家族で抱え込んで・・・、というやり方が他人を入れることによって変わっていく。生き方が変わっていくのだと思う。
・介護保険は悪いところもあるか、政治でここまで変わるのだから、介護保険を見守りながら自分達で声を上げていくことが大切。
 
<全体を通して・受講生の様子>
 ホームヘルパーという仕事の現実を、実際に仕事をしている講師から聞く受講者の表情は、とても集中して真剣なものだった。現場に直面し、経験を積んできた講師の言葉には、良い意味での生々しさがあり、受講者たちの心にリアルに響いたようだ。
 感想からも、相手の気持ちに共感するとはどういうことなのかという声が出ていたが、単に、相手の気持ちを考えて行動するという解釈にとどまらないさらに深い他者理解を模索する姿が見て取れた。
 
 
 
 
 
 
感想 「ホームヘルプサービスの共通理解」
I.Y 今日は実際にヘルパーをやっている方の話を聞いた。家事援助の方法や身体介護の方法について話を聞いた。話の中で一番気になったのは、ホームヘルパーの心の健康管理について、だった。いろいろと心構えについてとかを聞いたのだが、すごく多い。自分にこんな気の配りができるか、かなり不安だ。家事援助や身体介護も手順が多い。もしも自分がヘルパーになった時できるのだろうか?特にオムツの交換なんて、できるのだろうか?回が進むたびに不安になっている。大丈夫なのか、自分。
 
I.K 反省→→本当に楽しい、というか、聞きやすい講義だったのに、本気でウトウト、というより寝かけてしまって本当にごめんなさい・・・。あと、ほとんどノートにとれなくてショック・・・。
 感想→→話が聞きやすかったです。あと、91歳の男性の話など、とてもためになったし、男性を介護することや、おむつなどのこと、本当に考えさせるような話で、おもしろかったです。
 
H.Y 〜オムツをはいてみた感想〜
・『オムツをはく』ということは、かなり抵抗がある、バツゲームのようだった。
・はき心地は、別に悪いわけじゃないのだが、オムツをはいている、ということがズボンをはいていてもわかってしまうので、かなり恥ずかしいものだと思った。
・『オムツをはいたまま用を足す』なんてことは、できないだろうと思っていたのだが、意外にできた。でもなかなか、「だそう、だそう」と思っているのに出にくかった。あと、ニオイが思っていた以上にした。用は足せたものの、そのままオムツをはき続けるなんてことはとてもできず、すぐパンツにはきかえた。トイレで用を足す方が気持ちいいと思った。
 
M.Y ホームヘルパーという仕事の実状がくわしく聞けてよかったです。あらゆるところに注意を置かなくてはならない、ホームヘルパーという職業、実際にやるのは、並大抵のことではないでしょう。ぼくが印象に残っていることは、まずホームヘルパーという仕事はあくまで『人間』を取り扱う仕事だということ。その難しさを痛感させられました。そして、もうひとつは、常に精神的姿勢を崩さないということ。「うろたえてはいけない」この一言が僕の心に強く残っています。今回のヘルパー講座は、僕にここでは書ききれないくらいのことを学ばせて、考えさせてくれました。また、このような実体験を元にした講義を受けたいです。
 
I.T 今回の講義はかなり興味がありました。けど、自分はボーっとしてたので、ほとんど聞いていませんでした。三田さんの話で心に残ったのは、ああしたいこうしたい、と言わないと市はうごかないということでした。なぜなら、市の誰に聞く、という疑問があったからです。ぼくはそういうところ(市)のやりかたはあんまり好きではありませんでした。でも、三田さんの話を聞いていて、自分の考えがかわったのかもしれません。
 
H.Y 今日の講師さんの話はとても安心感がもてて、ちょっとうとうとしてました。でも、うとうとしながらでも、話の内容がしっかり理解できたので、やっぱり講師さんの話し方が気持ちいいのかなぁ・・・なんて思います。
 
T.M 今回はリアルな話が多くて興味深かったのと、いろいろ疑問に思うところもたくさんあって、もっと議論したかったです。印象に残った(というかド肝を抜かれたこと)はいろいろあるのですが、個人的に男女の性を乗り越えて利用者のプライベートな部分まで介護しなければいけないということが印象に残りました。気に入ったヘルパーを男性は奥さんのように思ってしまい、それを要求してしまうという話はとてもひっかかりました。直接関係はないのですが、やっぱりセクハラはあるんだろうなぁと私は思っていて(プライベートな空間に入っていくわけですからね)そういう時はどのようにどのように対処すればいいのかとかすごく気になりました。働いたことがないのでよくわからないのでアレですが、よく働いている女性の大人が「まだまだこの社会は男性優位で女性は働きにくい社会なのよ」というので、女は男に仕えるものだ、みたいな感覚があるんでしょうね。高齢者の方たちなんてもっとそういう色が強い世代なわけで、ご主人様に仕える奥さんみたいな錯覚をしてしまうんでしょうか。それにヘルパーという仕事自体、利用者本位の介護に加えてプライベートな部分に入っていく仕事だから、なおさらそういう風になってしまうのかもしれません。勘違いということはわかっているのですが、時々講義を受けていると、なんだか奥様になるための勉強をしてるみたいと思うこともあります。嫁(ヘルパー)VS姑(利用者)みたいな。
 男女の性を越えて仕事をしなければいけないという背景には、男性が少ないあるいは男性が就きにくい仕事みたいなものがあるように思います。給料が少なければ経済的自立はできないし、自立ができなければ男性はあまり就きたがらないではないでしょうか。ヘルパーなんて家政婦みたいなものは女がやるものというイメージが、まだまだ強いのかなぁと思いました。でも実際は力のいる仕事だと思うし、体力もないとついていけないと思います。だから本来なら?もっとこういう面で男女の性を越えていくということができればいいのにと思いました。それはヘルパーにかぎらず保育なんかもそうで、女性も男性の従来の習わしにとらわれず、家事や育児、仕事なんかに参加できる社会だったらなぁと思います。(実際でも男性はそんな暇ないですね・・・。)私がなぜヘルパーは男性も参加した方がいいと思ったかというと、襁褓の話が強烈だったからです。さっき男の人が女性にセクハラすると書きましたが、逆に下の世話を利用者の男性が女性のヘルパーにされるのも(その逆も)苦痛なのではと思ったからです。どちらにしてもされる側はつらい気がしました。相手の性に踏み込んでいくのも自分の性に踏み込まれることも、すごく苦痛なことだと思います。体は赤ちゃんかもしれないけど、心は赤ちゃんよりずっと大人なわけで、そう考えると同性どうしの方がいいんじゃないかなぁと思いました。でも基本はなんといっても利用者本人の希望ですね。(若くてカワイイ子がいいといわれたら困りますけど)
 
I.H 今日は、話を聞いていて、すごくリアルに感じた。ヘルパーという仕事は、本当に自分にできるかなと思った。身体介護の手順というものがあり、1時間のうちにやらなければならない。それに、注意しなければならないこともある。たくさんやることがあるのに、よくやることをやるなと思った。昔は、介護するのにお年寄りがどんな病気かもわからずに行っていたと言っていたが、昔は大変だなと思う。今は、お年寄りの名簿みたいなものがあって、その人の状況がわかるようになっている。困った時に困ったと言える時代になったのは、どういうことなのかちょっと疑問に思った。どこまで自分でできるか確認し、できないことをフォローしていくのがヘルパーといわれて、当たり前だけど、そうなんだなと思った。
 
M.K 実際の事例の話なので、とても興味深かった。利用者さんには、やはり長く生きてきただけあって、強烈とも思えるほどの個性があり、関係づくりがなかなか大変だと思った。自分がヘルパーになったとき、うまく距離をおきながら付き合えるのかと思うとかなり不安だ。中にはけりを入れたり、つばを吐きかける人もいるとのことで、ヘルパーの仕事の厳しさを知った。でも三田先生の「利用者さんが体を思うように動かせなかったり、家族の中でつらい立場にあることを思うと責められなくてね」の言葉を聞いて、納得すると同時に心が痛んだ。「私にも何かできることがあれば。」と思うのも確か。今回の話はヘルパーの仕事の実際の部分や、“人の役に立ちたい”という奉仕の気分だけでは続けるのが難しいと思われるような核心的な部分の話がたくさんあってすごく考えさせられました。
 
 







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