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ホームヘルプサービス概論
 
●2001年10月20日(土)
●講師 鴨下富美子さん(北多摩医療生協ヘルパーステーション「ケアセンターのがわ」責任者)
●全体の流れ
・クイズ形式で前回の講座の振り返り
・介護の歴史についての講義
・席に座っている隣同士でコップに入った水を飲ませあい、介護の真髄を体験する。
・介護保険についてと、それに対する「ケアセンターのがわ」の考え方についての講義
・折り紙を折ろう。(希望者のみ。)
・自分たちが通いたくなるデイサービスを考える。(グルーブ討議)
・考えたデイサービスの発表と、講師の方の講評
 
クイズ形式での前回の講座の振り返り
 前期の講座「障害者福祉の制度とサービス」の内容をスタッフがクイズ形式で出題し確認した。問題は、(1)「三鷹市では高齢者福祉と障害者福祉は同じ“地域福祉課”で行われている。○か×か。」(答えは×。高齢者福祉課は地域福祉課とは別にある。)(2)障害の種類は、身体障害と知的障害と精神障害があるが、視覚・聴覚・言語における障害は何障害に分類されるか。」(答えは身体障害)(3)「三鷹市では、十歳未満の場合は杉並区の児童相談所で障害者手帳を発行しているが、それ以上の年齢の場合はどこで発行しているか。1、三鷹市役所2、東京都心身障害者福祉センター3、杉並児童相談所」(答えは2)(4)障害者手帳を持っていることで優遇されるのは運賃だけである。○か×か。」(答えは×)1問目の問題は三鷹市に関する問題だったので、正解が少なかったが、それを除いてはほぼ正解していた。
 
<講義の内容>
1. 介護の歴史について
 はじめに受講生に対して、お年寄りと同居しているかどうか、おじいちゃんやおばあちゃんは元気か、また祖母や祖父が亡くなった時の気持ちを覚えているかどうかの問いかけから始まった。同居している受講生は少なく3、4人。鴨下さんは自分の祖母が痴呆で亡くなったとのことを話してくださり、そこから介護の話が始まった。
 介護は30年前に生まれた言葉で、それ以前は人生50年の時代だったので介護は必要なかった。人生80年の時代になって、看護と介助を組み合わせて「介護」の言葉が生まれた。ヘルパーの始まりは「老人家庭奉仕員」というもので、長野で始まった。
 「ホームヘルパー」の言葉は1989年に生まれ、2000年に1級、2級、3級の制度ができた。2000年4月から介護保険制度が始まり、それ以前は「措置制度」というものが行われていた。「措置制度」は大変な家庭(痴呆の老人がいる、障害児の介助が必要など)に市がヘルパーを派遣する制度で、お金のない人に対しては老人保健が充実していた時期だったと言える。「措置制度」に変わって「介護保険」という保険制度になったのは、国にお金が無くなってきたから。介護保険が始まって介護を受けるのにお金がかかるようになってしまった。お年寄りは以前は見捨てられ、山に捨てられていた時代があったが、老いや病は誰もが抱える問題だから、どうしたら一緒に生きていけるかみんなが、考えていかなければならない。今が最良(の制度)ではないから。
 
2. 隣同士で水を飲ませあう
 紙コップに水を注ぎ、お互いに水を飲ませあう体験をした。飲ませあった後で、鴨下さんから「今相手が本当に飲みたいかどうか聞いた人?」との問いかけがあった。聞いた人は全くなく、講師の方に言われたままに水を飲ませてしまっていた。そのことから、介護の場面では、家族に頼まれたり自分が必要と思っても、利用者に確認しない限り何かをしてはいけないということが強調された。飲ませてもらった感想としては「おいしくなかった。」「飲んだ気がしない。」との声が聞かれた。
 
3. ヘルパーが大切にしなければならない4つのポイントについて
 水を飲ませる体験に関連して、ヘルパーが大切にしなければならない4つの点の話があった。
「個別化」
 利用者一人一人が求めるものは違うので、それぞれが求めることに答えなければいけない。自分勝手な思いこみや自分のやり方で掃除をしたり、片づけをしたりしない。例えば買い物も、安いからと言って頼まれたものではないものを買ってしまうと利用者の期待を裏切ることになる。利用者は別のものを買われたことがショックなのではなく、自分を大事にしてもらえなかったことがショック。「どちらがいいか」の判断ではなく、「利用者が何を望んでいるのか」という利用者の気持ちを基準にやり方を決める。その人が自分のやり方を大切にされることで、自分を大切にされたという思いが生まれ、それによってそれぞれの利用者さんが輝けることが介護のあり方である。
「自立支援」
 自分でできることは自分でやるのが基本。ヘルパーがやってしまえば簡単なことも、その人が自分のやり方でゆっくりとでもやるのを見守る。お年寄り体の不自由な人であっても「自分の幸せを自分でつかむ」権利があり、それを支えるのが援助。「こうしたほうがいい。」という勝手な判断で決めつけず、時に辛抱強く見守る。でも、本人に任せっきりで放って置くのではなく、専門的な判断も必要である。
「ブライバシーを守る」
 電話もかけずに利用者の家に行ったり、派遣先のことを他人にベラベラしゃべるのはいけない。とても重い問題を抱えてしまうこともあって、誰かに話をしないともたないこともあるので、話すことすべてが悪いのではなく、同じヘルパーステーションの仲間と話しあったりして解消する必要がある。現在は「プライベート漏洩」についての保険もあり、秘密をもらすことには注意しなければならない。
「チームワーク」
 一人で利用者宅への直行直帰をくり返していると、個人ワークのような形になりがちである。問題が起こっても一人で抱えてしまって、周りがどう協力したらいいか見えてこなくなったりしてしまう。介護が独りよがりになる危険性もある。それを避けるために、常にチームワークであることを頭に置いて置かなければならない。介護保険が始まってから記録をとることも強制されていて、往診や訪問看護の人につなぐためにも記録をとることは重要。
 
4. 介護保険についてと北多摩医療生協の考え方
 介護保険制度は高齢者のための制度なのだが、一号保険者(65歳以上)は判定によっては制度を利用せず、保険料の払いっぱなしになってしまう。二号保険者(40歳以上)は病気にならなければ保険料の払いっぱなしになる。定年退職後も保険を払わなくてはならないので、低所得者にとってはかなりきつい。利用者は利用料もあるので2重どりと言われる状態になる。また、限度利用額内では充分なサービスが受けられない事が多いなど、介護保険には問題点も多い。北多摩医療生協ではそのような問題の多い介護保険にのってヘルパーステーションを立ち上げることについて疑問もあったが、その介護保険の問題点を解決していくことを理念に掲げて、立ち上げることになった。利用料については自治体によって低所得者の利用料の減免などの制度もあるが、期間限定だったりする。問題点を解決するために、三鷹でお金がなくても利用できる(無料サービス)を広げていく運動をしていこうかと考えている。
 
5. 折り紙つくり
 休憩時間を利用して、高齢者と一緒にやることができる折り紙を楽しんだ。鴨下さんは折り紙講師の顔もあるとのこと。息を吹きかけて回すこまと、アクロバット動物を作った。
 
 
 
6. みんなが行きたいデイサービスを考える(グループ討議)
 はじめに、お年寄りがあまりデイサービスに行きたくもないのに家族の都合で行かされたりしている現状についての話や、施設に行ってやりたくもないことを強要されたり、みんなと一緒に行動させられたりすることに苦痛を感じているお年寄りの話があった。また脳卒中などで40代や50代で家にいることが多くなってしまう人もいるので、そういう人も通いたくなるようなデイサービスはどういうところか考えて欲しいという話があった。その後グループ討議に移り、それぞれのグループで、お年寄りや体の不自由な人、また自分たちも行きたくなるデイサービスとはどういうところかという話をした。出てきた案は紙に書いてはり、自分たちの考えたデイサービスのおおまかな像を発表しあった。
 最後に鴨下さんのほうから、受講生からでたようなデイサービスを一緒に実現して行きましょうという呼びかけがされ、講義が終了した。
 
7. 受講生からの質問
Q.家政婦とヘルパーの違いはなに?」
A.家政婦はモノが相手だが、ヘルパーは人が対象。掃除も利用者が使う場所を掃除するという感覚。利用者が家にいなければ家にあがることもできない。
 
<全体を通して・受講生の様子>
 講義形式の講座にも飽きてきたのか、はじめは反応もあまりよくなく心配されたが、講座が進むにつれ、鴨下さんの現場の生の声に関心が高まっていった様子だった。鴨下さんが受講生の意見を現場に活かしたい、いっしょに考えていきたいという思いを強調してくれたので、より現実的にこの問題を考えられたのではないかと思う。介護保険の問題点や、デイサービスのマイナスの面などについても話が聞けたので、制度をよりよいモノにするための問題意識のようなものが生まれたのではないだろうか。自分が行きたくなるようなデイサービスを考える場面では、柔軟な発想で意見がどんどん出てきて楽しんでいた様子だった。どのグループからも、「一人一人が大切にされる場所」であって欲しいという意見が出ていた。フリースペースに通う自分と重ねながらこの問題を考えていたように思う。実際自分がサービスを受ける側に立つことを想像したことによって、よりいっそう介護の問題が身近になった気がする。
 







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