コラム
今も昔も同じ形(アバリ)
アバリは、網針と記すように、網を編んだり補修したりするための道具です。
右の図(1)は、宮城県里浜貝塚から出土した鹿角製アバリです。全長10.7cm、最大厚0.3cmの大きさで、先端に近いスカシの部分は、一部欠落していますが長さ8mmほどで、太さ2mm前後の細い軸が突き出ていたものと考えられています。また、表面には漢字の「大」みたいな刻みがみられます。これは、所有者を示す記号のようなものと考えられています。きっと貴重なものだったのでしょう。
房総では昭和30年頃までは主として竹製のアバリが使用されており、木綿や麻で出来た網地を繕うのに使われていました。それ以降はナイロンの網とプラスチックのアバリが使用されるようになり、今に及んでいます。
このように、縄文時代に登場したアバリは、現在でも同じような形のまま受け継がれているのです。
(高田 博)
(1): |
鹿角製アバリ(宮城県里浜貝塚出土・図面)「縄文時代の漁業」より |
コラム
今も昔も同じ形(釣針)
館山市見物(けんぶつ)の鉈切(なたぎり)神社洞穴遺跡は、縄文時代の波打ち際に位置し、房総の荒波の作用によって作られた海食洞穴を利用した洞穴遺跡です。現在の標高は約20mですが、その後の度重なる地盤の隆起によって段丘上になったためです。
昭和31年に学術調査され、主として今から4,000年前の縄文時代後期の土器のほか、鹿角製釣針・銛などの漁撈用具が出土しました。南房総の海に臨んだ漁撈を主な生業とした海洋民族の存在を示した遺跡です。
釣針は鹿の角を加工して入念に形づくられ、大きさは4.8cm〜3.5cmで、「かえり」が外と内にそれぞれ削り出されています。
縄文時代をとおして、釣針や銛は動物の骨や角などを加工して作られ、時代や地域ごとに様々な種類が豊富に出揃います。また、その強度は現在の鉄製品に引けをとらぬものであるといわれています。現在、私たちは各種釣針を使用しますが、それらは、縄文時代にすでに開発されたものを踏襲しているだけです。
(高田 博)
(1): |
鉈切神社洞穴(館山市)から出土した縄文時代の釣針(複製品)(館山市立博物館) |
(2): |
現代の釣針 |
上段: |
「かえり」のあるもの |
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下段: |
「かえり」のないもの |
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(千葉県立安房博物館) |
(左右の写真縮尺不同)
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