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釣り漁
 釣り漁は、魚を捕ることをイメージするときに最も一般的な方法として思い浮かべられるものです。これは、漁の中ではレクレーションとしての「釣り」が最も身近なものであることによります。河川湖沼や沿岸における釣り漁は、網漁と比べると使用する漁具が簡便で小規模であり、このためにあまり資本を必要とせず個人漁の色合いの強い漁法です。
 現在の遠洋マグロ延縄(はえなわ)漁・遠洋カツオ一本釣り漁は大規模な機械力を使用し大きな資本力を必要とする漁業となります。
 
【海】
 釣り漁は、その方法によって一本釣り漁(竿(さお)釣り・手釣り)、曳き(ひき)釣り漁、延縄釣り漁に区分されます。いずれも餌または擬餌によって魚を誘い、釣り針にかからせて釣り上げる漁法です。
 一本釣り漁は、一本の釣り糸に一本あるいは複数の釣針をつけるものです。竿釣りはこの釣り糸を釣竿の先端につけて釣竿を手に持って行なうもので、釣りという言葉からイメージするものはこの漁です。竿の使用は遊漁においては一般的ですが、漁業者の漁としてはカツオ一本釣り・サバはね釣りや曳き釣りなどの沖合い漁で使用される程度です。手釣りは釣糸を直接手に持って行なうもので、主に沿岸から沖合いの岩礁付近や海底の魚を対象にして行ないます。タイ・ブリ・スズキなどの市場価値の高い魚種を主な対象とします。一本釣り漁はその適応性の広さから対象魚は、マグロ類・イシナギ・ムツ・カツオ・カジキ・キンメダイ・マダイ・ワラサ・ヒラマサ・コチ・ツノデザメ・スズキ・セイゴ・カレイ・ヒラメ・ボラ・サバ・アジ・イサキ・イカ・イイダコ・マダコなど多岐にわたります。
 曳き釣り漁は、漁船から直接または釣竿を立てその先から釣糸を伸ばし、船で釣針を曳きマグロ・カジキ・カツオなどの回遊魚を対象とします。魚が遊泳する水深に釣針が維持されるよう潜航板が組み合わされます。対象魚種は回遊魚を中心として、マカジキ・ビンナガ・キメジ・カツオ・ブリ・イナダ・ヒラマサ・スズキ・ワラサ・アオリイカ・ケンサキイカなどです。
 
92. 下総銚子浦鰹釣舟之図(千葉県立安房博物館)
 
72. 千繪の海 蚊針流(千葉県立上総博物館)
 
78. サバのハイカラ釣り(干葉県立安房博物館)
 
82. イサキ・アジのグミ道具(千葉県立安房博物館)
 
 延縄釣り漁は、釣針をつけた多数の枝縄を幹縄に結びつけ、水中に敷設して同時に多数の魚を得ようとする漁法で、釣り漁としては最も規模の大きい漁法です。マグロなどの表層の魚を対象とする浮延縄と水底に敷設してヒラメ・タイ・キンメダイなどを対象とする底延縄があります。対象魚種は、マカジキ・マグロ・サメ・イシナギ・ムツ・カツオ・マダイ・キンメダイ・カレイ・フグ・ダボギス・サバ・アジ・カサゴなどです。
 釣り漁には、釣針・釣糸・釣竿・浮子・沈子・餌が使われますが、漁法によってはこの構成から欠けるものがあります。
 錦絵などに描かれる釣り漁も、釣竿を用いたものが多く、「釣り」のイメージと釣竿は切り離せないものといえます。釣竿はかつてはマダケののべ竿が使われていましたが、昭和40年代からは樹脂製の釣竿に替わっています。
 一本釣り漁は、対象の魚の習性・海況を熟知していることや、仕掛け作り、餌付け、擬餌作りの個人の巧拙が漁獲量に直接影響する漁で、多くの工夫が重ねられてきました。第二次世界大戦後に勝浦の石橋宗吉によって考案された、ハイカラ釣りはその代表的な例でムツ・サバ・イサキなどを対象に幹糸に枝糸で数十本〜百本の疑似餌付の鈎(かぎ)を付けた垂直多鈎釣り用の仕掛けを用いて魚群の中で小魚が躍っているようにたぐることによって多くの漁獲を得る漁法です。イシナギのテンヤ釣りの仕掛けなども餌のヤリイカの動きがイシナギを誘うように工夫されています。
 曳き釣り漁は、船で釣針のついた釣糸を曳きその動きによって魚を誘うもので、疑似餌が装着されるものが多く、いかに水中で魚を誘うものにできるかに工夫が凝らされています。
 房総の延縄釣り漁で最も知られているものは、館山市布良(めら)地区で行われていたマグロ延縄漁で、嘉永2年(1849)に始められ、明治時代を通じて隆盛を誇りました。延縄漁船が80隻を超える時期もあり、1隻で1日100本を超える水揚げの記録もあります。競争の激しさから、しだいに船が大型化し漁場が遠くなり、遭難が重なったことと沿岸漁業の不振から大正7年(1918)でその幕を閉じました。アジ縄・ダボキス縄も延縄漁に使われたもので、アジ縄は縄鉢一枚に30本程度の釣針が付き、縄鉢10〜15枚分の幹縄が繋がれ全長3000〜5000mになり、両端にイカリとウキが結ばれ仕掛けられました。
 
76. イシナギのテンヤ釣り(千葉県立安房博物館)
 
84. ヤマ(夜用)(千葉県立安房博物館)
 
85. ヤマ(昼用)(千葉県立安房博物館)
 
75. ダボギスナワ(千葉県立安房博物館)







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