55, 細部にこだわらず多くの日本語文章を
天津理工学院 902 町田幸子
授業対象は3年と4年。おおよその日本語は理解するが、少しゆっくりめに話すことと、板書を心がけて、授業を進めている。読解と視聴(4年)、作文と会話(3年)を担当。
「読解」では、持参した資料で阿部昭、向田邦子、太宰治、その他の作品を読んだ。読解とはいえ、あまり細部にこだわらないで、なるべく多くの日本語の文章を読むことに重点を置いた。2クラス一緒の授業で、60人近くの学生がいる。15人が日本語能力試験1級に合格している。彼らのうち幾人かは、3年の後半から、市内の中日合弁会社等で、通訳の研修を受けている。
「視聴」では、持参した日本映画のビデオを見た。一本を2、3回に分けて見る。事前に、作品の解説とあらすじの紹介、場合によっては、詳しいタイムテーブルを作り、場面ごとのせりふの要約を試みた。しかし、準備に時間をかけた割には、あまり成果が得られず、こちらも、学生たちも、双方が苦しい時間を過ごす結果になった。比較的評判が良かった作品は、「シコ踏んじゃった」、「となりのトトロ」、「スーパーの女」、「Shall we ダンス」等であった。
「作文」は、宿題として隔週に提出させ、添削返却している。返却時、皆に共通的な間違いを指摘する。従って、授業時間は、新聞の切抜きを読むのと、1級試験の「文法」問題を解いた。
「会話」は、持参の富阪容子「なめらか日本語会話」(アルク社)と、佐々木仁子、松本紀子「日本語総まとめ問題集、聴解編」(アスク凡人社)をプリントし、使用した。
56, 教材・資料が圧倒的に不足
南開大学 953 内木ユリヤ
教育環境は、かなり不自由で戸惑うことも多いですが、やはり圧倒的に不足しているのは教材・資料等の書籍類だと思います。私の場合、担当6科目のうち、3科目を自主教材でやっていますが、赴任前に担当科目がわからなかったことと、聊か手違いがあって、こちらで当てにしていた資料が使えなかったこともあり、9月当初ちょっとあわてました。言語・文法面での資料(要するに辞書と文法書です)は勿論ですが、そのほかに現代日本社会・文化、および歴史についての参考書があると、どんな科目を担当するにしても、かなり便利だと思います。インターネットも、いろいろおもしろいサイトの情報を持っていると利用できますし、とにかく教材は自分で作るしかありませんから、パソコンとプリンタは必携です。
57, 日本人教師四人で協力して
燕山大学 937 田中 稔
燕山大学は元々は理系の学校でしたが、中国の重点大学にも指定され、今は学生数も2万を超える大きな大学です。その「外国語学院」の日語系で、1、2、3年の各1クラス(20〜25名)の日語会話を、週6.5コマ、13時間、受け持っています。使用教科書は「標準日本語」です。1年は初級上下、2年は中級上下で、3年はありません。教科書の中の中国語の説明を丸山英俊先生が日本語に翻訳した黄色い表紙の本は、中国語を正確に読みとれないわたしにはとても助かります。文系の校舎は新築で気持ちが良いのですが、ご多分に漏れず、こちらの大学もコピーや印刷は不自由で、定期テスト以外は無理です。授業に必要な生徒用の資料や小テストなどは、教師の個人負担でやっています。でも、これまたご多分に漏れず、ここの学生も皆真面目で、熱心で、授業は張り合いがあり、とても楽しい毎日です。
幸いなことに、今年センターから一緒に派遣された高橋淑子先生の他に二人の日本人教師がいて、四人がお互いに連絡をとりながら協力試合、仲良くやっています。中国人日本語教師や外事処のみなさんも協力的で気持ちよく仕事ができます。
58, 教材や資料はすべて日本から持参
河南大学 900 山田節子
昨年9月に創立90周年記念行事が盛大に行われ、それを機に大学構内が一段ときれいになった。歴史を感じさせる古い建物があちこちに残されており、学生は礼儀正しく真面目で雰囲気の良い大学である。日本人留学生もおり(今年は特に多く20人くらい)日本語科の学生は殆ど彼等と交流学習をしている。
現在、日本語科本科生は2年生23名(聴講生を入れると26〜27名)、4年生は24名である。
「精読」は中国人教師が担当し、2年生は現在「新編日語」2を使用している。外国人教師は「会話」「日本の礼儀・作法・社会通念」「聴解」を各2コマずつ持っている。4年生は「写作」「日本映画鑑賞」をそれぞれ2コマずつである。「会話」「聴解」「写作」以外は初めての開講である。授業の内容や、やり方についてはまったくこちらに任されているので、柔軟に考えでやっている。「聴解」は「毎日の聞き取り50日中級」と「わくわく文法リスニング99」を聞かせている。「聴解」と「日本映画鑑賞」はLL教室で行っている。教室に古いテレビがあるがビデオは使えない。ビデオは標準速の録画は使えるが、3倍速は不可。テープレコーダーは日語科のを専用として借りて自室で使っている。
ビデオ、テープ、教材、教材作りの資料等すべて日本から準備して来た物を使っている。外語学院には何もないので、準備をしてきたほうがよい。予想以上に大活躍しているのが日本から持って来たパソコンとプリンタである。もちろん大学内外にコピーする所はいくらでもある。
学生達は図書館から日本語関係の本を借り教科書以外勉強もしている。図書館が学習の場としてもよく利用されているようである。
59, 一人っ子政策が生み出した新タイプの学生
上海鴻文国際商業高級中学校 538 岡田了
私立校。高校受験に失敗した富裕階層の子弟が集まっていると聞く。学費が高額(総てを合わせて1日百元は必要と聞いた。)で、続けられなくなる学生も現にある。1年生は全寮制、2年生以上は通学も認められていて、スクールバスで通うことができる。2年生から比較的優秀な学生を選抜して2学級の進学クラスを置き、これを高級中学校生(3年間)とし、他は専門学校生(2年間)である。
現1年生から、日本語コースを2学級新設した。(他の6学級は英語コース。アメリカ人とデンマーク人の外籍教師がいる。)日本語コースでは、中国人教師2名と私がスタッフ。中国人教師が『標準日本語』を使って「日語精読」を4時間、私が『みんなの日本語』を使って「日語閲読』を6時間、1週計10時間を同本語学習に費やす。
学生は温厚でお人好し揃いだが、一般に反応が鈍く、学習意欲を欠き、授業中ぼんやりと白昼夢に耽っている者が少なくない。入学以来、他人と話したことがないという学生などもいて、他者との関係の取り方を知らず、あるいは「一人っ子政策」が生み出した新しいタイプの出現かと思われる。
現在、私の課題は、いかにして全員を学習に参加させるかである。例え、進度は遅くなろうとも、重要なキー・ワード、キー・センテンスは必ず全員に暗誦させようと思う。それを使って話せるようにしようと思う。そのための手順、方法を工夫し、模索している。
今、日本語コースに限らず、校舎の中に「おはよう!」、「こんにちは」、「さようなら」と、日本語のあいさつが飛び交うようになってきた。
この学校は、私立校として三つの特色を出そうとしているようだ。一つは外国語教育、次にコンピューター教育、そして第三に厳格な生活指導(愛国主義を装った管理教育)。国旗掲揚の朝の集会から国旗降納の夕べの集会まで、あらゆる生活場面で管理教師の監視と当番学生の監視があり、その都度採点され、直ちに集計され、表化され、掲示され、発表され、担任が問責され、担任は学生を問責し、かなりの頻度で父兄が呼び出されて、問責される。公的な場面で、学生は徹底的に無表情である。
60, 「日本のことをもっと知りたい」
河南師範大学 942 倉田 容子
日本語学部は、ここ数年学生が倍増している。3年前まで1人だった日本人も、現在は3人に増え、発音・会話・精読・作文・日本事情を担当している(聴解・翻訳・文学史・古典などは中国人教師による授業)。
私の担当は、3年生(47人)の精読6時間と作文2時間、4年生(40人)の精読6時間の合計14時間である。能力試験1級や院試を控えて学生たちが猛勉強している中、授業がスタートした。高学年を指導する難しさを感じながらも、学生の意欲と反応のよさに助けられ、楽しみながらやってこられたと思う。
彼らが授業に望むことは様々であるが、共通しているのは「日本のことをもっと知りたい、教科書に載っていないことを教えてほしい」というものである。興味の対象も、当然多岐にわたっている。精読は学習すべき内容が多く、時間的ゆとりはあまりないのだが、なるべく時間をやりくりして、いろいろな話題を提供できるよう工夫している。授業の準備に相当時間がかかるので、作文の添削が加わると少しきつい。しかし、彼らの文章を通して知ること、気づくことは非常に多い。私にとって、かけがえのないものである。
61, 経済、学びながら教える自転車操業
長春税務学院 659 光永勝郎
今学期、本学院では外国語学部が新設され、私の所属も、今までの国際経済学部から新設学部と変更された。ただ、教育内容自体は今までと殆ど変わらず、学生の専攻も、日本語学科ではなく、今まで通り、経貿日本語科である。従って、日本語科の学生に比べると、日本語そのものを学ぶ時間は、量的には2/3ほどしかなく、多少の不利は免れない。その分、会計学、近代経済学など、日本語科では学ぶ機会がない教科を学ぶ点では有利である。
そんな中で、私の担当は会話、日本概況、日本経済近況などを、学期毎に多少の異同はあるものの、10〜14時間ぐらいの持ち時間で受け持っている。経済については全くの素人だったので、自らも学びながら教える自転車操業で、冷や汗ものだったが、今は在る程度教え方も板についてきた。学生は、中国語で近代経済学を学んだ後で、私の授業となるので、概念的には理解は困難ではないのだが、日本語で経済を語るとなるとそれはまた別で、その点での苦労を共にしつつの授業展開である。
最後に、些末なことではあるが、新設学部はまだ予算が充分でないのか、経費節減をしきりと話題にし、今までフリーだった外教のコピーがほとんど認められなくなったのは痛い。学生たちの負担無しに自主教材を配布することが困難になり苦慮している。
62, ぎっしり詰まった学習時間
長春外国語学校 919 早川裕子
中高一貫の外国語学校で、高校から入学してくる生徒もいるが、高い倍率で合格して入った生徒と、お金を積んで入った生徒のクラスがある。職員の子供も少なからずいる。全体的にレベルの高い、そしてお金持ちの学校のようだ。8割以上の生徒は寄宿舎生活をし、その大多数は土日を自宅で過ごす。朝6時起床、6時20分体操、7時20分には教室で一斉に「聴解」を始める。7時50分から11時35分まで4限の授業を受け、1時から4時半までさらに4限ある。夕食後5時半から「聴解」があり、続いて晩自習1〜3まで各10分ずつ休憩をとり、8時40分まで勉強する。そして夜食を食べてから中3と高3は10時まで教室で自習をする。
英語科の生徒が大部分で、各学年1〜2クラスだけが外国語の時間に英語・日本語・ロシア語に分かれて学習する。日本語履修者は各学年30〜40名程度である。仏語、西語、独語を学習している生徒も少数いる。外国の学校との交流もあり、日本から毎年高校生がホームステイに来ている。そのあと、Eメールのやりとりもしているようだ。また大学生に混じって、大学主催のスピーチコンテストに出場し優秀な成績で日本訪問をする生徒もいる。卒業後はほとんど大学進学をしている。
63, 学校は生徒に無理な注文
黄山日語職業学校 926 上野容子
前任者と一緒なのでとても心強い。中国人の日本語教師(張先生)が何かと面倒をみてくれるので助かる。昨年はこの二人の努力で学校が落ち着き、今年度入学者が増加。学校長らは、日本語教育について、よく知らない。本来の目的を越えて、一級、二級を望み、無理な学習を生徒に要求する。まず三級合格を全員目指すことに落ち着いた。それ以外は来年度募集時までに教科書等も含め検討することとなった。45人の会話練習はナンセンス。印刷事情は悪いようだ。そして文房具、紙類は自分で調達することになりそうだ。
教育に関しても相談は持ちかけるも、結局は自分達の思ったとりにするし、日本語教育についてはまったく理解されていません。管理職は。生徒は努力していますし、一生懸命日本語で話しかけてきます。学校の体制が問題です。紙、マジックなど先に買ってお金を要求します。
64, 学業に対する一途さ
河南師範大学 857 須田三郎
国内各都市の発展の勢いは目を見張るばかりだが、地方都市のここ「新郷」もその例に洩れない。滞在一年余りの間に市街地はもちろん、大学のキャンパスもすっかり様変わりしてしまった。学生の数が増え、大型化した新校舎、寄宿舎が次々に建てられていく。
日本語科は学生募集が「隔年」から「毎年」となり、本年はじめて4学年全部が揃った。また、大学院が新たにスタートし、少数ながら日本文化のそれぞれのテーマについて取り組んでいる。学生は教員志望者が多く、総じて真面目で、その殆どは国内外、各地の大学院進学の夢を抱いている。
日本語科の学生を見る限り、農村出身の学生が多く、恵まれない生活環境を押して、大学に進んだものばかりで、肉親への感謝をベースに学業に対する一途さには涙ぐましささえ覚える。
授業形態では、1・2年級の「精読」は20名2班で行われ、また1年級の「発音」は1班6〜7名による少数指導で効果をあげている。3年級からは選択科目ながら「古典」があり、大学院試験を目指す学生を中心に日本の古典文学を読解している。
毎週1回の会話自主活動「日本語島」も、2・3年級生を中心に賑やかで、先輩と後輩の交流、あるいは教師と学生の親睦に大きな成果が見える。しかし、遠く故郷を離れてひたすら学業に明け暮れる学生達を見ると、精神的には余裕のないものが多く、相当なストレス、プレッシャーに囲まれた日常と考えないわけにはいかない。カウンセラー制度のような、一人ひとりの学生の内面に入り込む指導体制はとれないものかと、身近な中国人大学関係者に話したりするが、その兆しは見えない。
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